第33話

 ―翼視点―


「やっほー! 翼先輩来たっすよー」

「いらっしゃいなのだ。理子ちゃん。それと歌夜も」

「うん」


 テストが終わってからの休日に、ボクは2人を家に招待していた。


「とりあえず、ボクの部屋に行くのだ」

「了解っす!」

「はいはい」


 2人を部屋に入れて、予め準備していたコップにジュースを注いで出す。


「ありがとう、翼」

「気にしなくていいのだ」

「それより、翼先輩。話ってなんっすか?」

「と言っても、このメンツだと何となく予想は出来るんだけどね」

「まぁ、歌夜が思ってる通りのことなのだ」


 歌夜と理子ちゃん。それにボクの3人にとっての共通の話題といえば1つしかない。匠馬君のことだ。

 その話をするために、今日ここに2人を集めた。


「話をする前に、1つ確認しときたいことがあるのだ」

「はい。なんっすか?」

「歌夜も理子ちゃんも、匠馬君のことが好きで間違いないのだ? もちろん、ライクじゃなくてラブの方なのだ」

「間違いないっすよ。理子はクマパイのことが好きっす」

「私も間違いないわ。てか、今更じゃない? 翼もそうなんでしょ?」

「うん。ボクも匠馬君のことが好きなのだ。ただまぁ、一応の確認のため聞いたのだ」


 ここからの話は、これが前提にないと意味がないことだから、分かってはいたけどしっかりとした確認が必要だった。


「それじゃ確認も取れたことだし、早速本題に入るのだ。提案なんだけど、この匠馬君争奪ダービーを今年中に決着を着けようと思うのだ」

「随分と急っすね」

「まぁそうなのだ」

「あんたがそう言うってことは、何か理由があるんだね」


 うん、流石歌夜だね。たったこれだけの会話で、もう何かしらに勘づく何てね。そういうところが、油断出来ないし怖いところなんだよね。理子ちゃんは気付いてないけど、この子の場合は、何をしでかすか分からない天然さが怖いんだけど。


「順を追って説明するのだ。まず、ボクは高校を卒業したら、東京の大学に行くことになったのだ」

「マジっすか?」

「うん、マジなのだ。もう推薦で入学は決まってるのだ。あ、因みに学費全額免除の特待生としてなのだ」

「しれっと自慢してこないでよ」

「あはは、ごめんなのだ。まぁ、そんな訳でボクがここに居られるのは、あと少しなのだ。それに年が明けたら、準備とかで何かと忙しくなるから、ボクが自由に動けるのは今年いっぱいが限界なのだ」

「なるほどね」


 歌夜がそう言うと、暫しの沈黙が流れる。2人共色々と考えを巡らせているんだろう。

 まぁ、それも当然なことだ。2人にしてみれば突然の話だったしね。頭を整理する時間が当然必要になってくる。


「あの翼先輩。何個か質問してもいいっすか?」

「もちろんなのだ」

「それじゃあ1つ目。その決着を着ける明確な日付は決めているんすか?」

「12月24日のクリスマスイヴにしようと思ってるのだ」

「2つ目。決着の方法はどうするんすか?」

「24日に3人で匠馬君を別々にデートに誘うのだ。時間だけは揃えて待ち合わせ場所も3人別々というのはどうなのだ?」

「なるほどね。つまり、匠馬に1人を選んでもらうってことね」

「そういうことなのだ。ボク的には悪くないと思うんだけど、2人はどうなのだ?」

「……」

「……」


 再び沈黙が流れる。部屋には時計の針だけがカチカチと音を立てている。


「もう1つだけ質問いい?」

「大丈夫なのだ」

「もし万が一、匠馬が誰も選ばなかった場合どうするの?」

「その時は、ボクは潔く身を引くのだ。後は、2人が時間をかけて匠馬君を落としてくれて構わないのだ」

「翼先輩、本当にそれでいいっんすか?」

「うん。もう決めたことなのだ」


 順番的に考えれば、匠馬君を好きになったのはボクが1番最後。しかも、ボクの勝手な都合で2人を巻き込んでいる。だから、これくらいのリスクはあっても当然だ。だってこれは、完全にボクの我儘なのだから。


「分かった。私はその提案に乗るよ」

「理子も乗ったっす」

「自分で提案しといて何だけど、本当にいいの?」

「良くなかったら乗らないわよ。それに私としても、いい加減決めてもらいたかったからね」

「理子もカヨパイと同じっすよ。どっちにしろ、来年はクマパイも3年生っすからね。忙しくなる前に決めてほしいって気持ちは、前々から理子も思ってたところなんすよ」


 やれやれ……2人共本当にお人好しだなぁ。正直な話、こんな提案乗らなくてもいいってことくらい少し考えれば分かるはずなのに。

 でも今は、その優しさに甘えさせてもらおう。


「あ、そうなのだ。最後に一つだけお願いしてもいいのだ?」

「ん? なんすか?」

「ボクが東京の大学に行くことは、24日まで内緒にしていてほしいのだ」

「別に構わないけど、何か理由があるの?」

「深い理由はないのだ。ただボクがそうしたいだけなのだ」

「そう。まぁ翼がそれでいいなら私は黙ってるわ」

「理子も同じっす」

「ありがとうなのだ」


 多分無いと思うけど、この事を言ったら匠馬君が変に気を使ってしまうかもしれない。それはフェアじゃないし、万が一にもあってはならないことだ。

 だから、この事を話すのは全てが終わった後にすると決めていた。


「あ、そうだ! 理子からも1つ提案してもいいっすか?」

「大丈夫なのだ」

「私も大丈夫よ」

「それじゃ遠慮なく。次の文化祭なんすけど、丁度3日間あるじゃないっすか、だから1日交換でクマパイとデートするってのはどうっすか?」

「悪くないけど、匠馬君も自分のクラスの仕事があるから厳しいんじゃないのだ?」

「それなら問題ないわよ。匠馬の仕事は、クラスの宣伝だから、文化祭中の3日間はその辺を歩いて宣伝して回ることなのよ」


 うん、それなら全然問題ないか。ボクも文化祭は匠馬君と回りたいと思ってたから、理子ちゃんの提案は好都合なんだよね。


「なら、決まりでいいっすか?」

「うん」

「そうね」

「んじゃ、クマパイがどの日が誰と回るかは、みんなのシフトが出てから決める感じでいいっすよね?」

「うん、それでいいよ」

「私もそれでいい」


 ふふっ、これで文化祭がますます楽しみになってきたね。理子ちゃんナイス提案だよ。


「あ、次いでにさ私からも提案いいかな?」

「カヨパイもすか?」

「何よ。何か文句あるの?」

「別に文句はないっすよ」

「まぁまぁ、とりあえず話してみるのだ」

「後夜祭が終わったらなんだけどさ、24日のデートのことを匠馬に教えない?」

「ボクは別にいいけど、一応理由を聞いてもいいのだ?」

「匠馬は私達3人が好きだってことを知っているでしょ? だけどあいつは、その件に関してずっと何のアクションもしてこなかった。多分だけとちゃんと考えてないんだと思う。だから、早めに伝えといて、私達のことをしっかり考える時間をあげたいんだよね」


 なるほど。確かに歌夜の言う通りかもしれない。ちょっと自分達のことばかり考えていたみたいだね。


「どうかな?」

「分かったのだ。賛成なのだ」

「理子も賛成っす」

「ありがとう」


 それにしても、何も考えてないってことあるのかな?

 確かに匠馬君は、何のアクションもしてこないけど、ボクも含めてみんな明確に好意を示しているはずだ。だから、流石にそれはないと思うんだけどなぁ。

 でも、1番付き合いの長い歌夜がそう言ってるんだから、あながち間違ってないのかもしれない。

 どちらにせよ早めに伝えることは、お互いに損はないから大丈夫だよね。


「そういえばさ、理子ちゃんのクラスは何するの?」

「あれ? 言ってなかったっすか?」

「聞いてないね」

「ボクも聞いてないのだ」

「あらら、そうでしたか。理子のクラスは、演劇っすよ」

「へぇ、何の演劇するの?」

「オリジナルなんっすけど、タイトルは蹴り姫ジュリエットっす」

「「何それ?」」

「にひひっ、それは見てからのお楽しみっすよ。あ、主演は理子なんで楽しみにしていて下さいっす!」

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