第32話

「うん、オッケーなのだ。全問正解なのだ」

「そりゃよかったぜ」

「匠馬君は、飲み込みが早いのだ」

「いや、翼ちゃんの教え方が上手いからだよ」

「当然なのだ。なんせ、弟たちの勉強を見ているのはボクなのだ」

「なるほど。納得だな」

「さて、それじゃ区切りもいいし、ちょっと休憩にするのだ」

「あいよ」


 修学旅行が終わってから2週間が経ち、10月もそろそろ終わりになってきた。俺と翼ちゃんは、来週に迫ったテスト勉強をしていた。

 と言っても、翼ちゃんが俺の勉強を見てくれているって言った方が正しいんだけどな。


「それにしても、匠馬君はちゃんと勉強すれば出来るのに何でしないのだ?」

「何でって言われてもなぁ。まぁ、めんどくさいから?」

「それ、1番ダメなやつなのだ」

「反論の余地がないな……」


 いつもは、正鷹のノートを借りて赤点だけは回避しているから、今回もそれでいいと思ってたんだけど、その事を翼ちゃんに話したら、それじゃダメだと言われて、勉強を見てもらうことになった。


「そういえば、歌夜は勉強大丈夫なのだ?」

「あいつは、問題ないよ。順位はいつも30位以内には入ってるから」

「なら、安心なのだ」


 歌夜は俺と違って、普段から真面目にコツコツやるタイプだからな。そんでもって、何度も反復練習のように勉強するから、1度覚えた内容はなかなか忘れない。だから、今回のテストも割と余裕って感じだ。


「因みに、歌夜は今日何しているのだ?」

「今日は、友達のところで勉強を教えに行ってるよ」

「え? 歌夜ってボク達以外に友達居たのだ?」


 翼ちゃん意外と失礼だな。

 まぁ今までの歌夜を見ていると、そうなる気持ちも分からんでもないけどさ。


「修学旅行で仲良くなったんだと」

「ふーん」


 最近、その子達とも学校でもよくつるでいるし、昼も一緒に食っていたりする。修学旅行中のたった数日で随分と仲良くなったもんだ。素直に関心するわ。


「まぁ、歌夜に友達が出来てよかったのだ。ほら、歌夜って人付き合いが苦手なくせに変にプライドが高いから、ちょっと心配してたのだ」

「確かにな」

「そのくせに、実は寂しがり屋でかまってちゃんだから、余計にめんどくさいのだ」

「的確だな。でも本人には言うなよ。絶対に怒るから」

「分かってるのだ」


 やれやれ、本当に翼ちゃんはすごいなぁ。まだ歌夜とは付き合いもそんなに長くないのに、あいつのことをしっかりと分かってる。それだけちゃんと見てやってるってことか。


「あ、そういえば」

「ん?」

「匠馬君達は、文化祭の出し物は何するのだ?」

「あぁ……その話しか……」

「ん? 何かまずいことでもあるのだ?」

「いや、俺にはないんだが、歌夜がな……」


 あれは、酷かったな。ちょっと可哀想過ぎて、普通に歌夜に同情したもんな。


「詳しく聞いてもいいのだ?」

「まぁ、どうせ当日になれば分かる事だから別にいいぞ。俺達のクラスがやるのは、ケモ耳メイド喫茶だ」

「何なのだそれ?」

「まぁ簡単に言うと、ケモ耳を付けたメイド服の女子が接客するんだと」

「随分と攻めた喫茶店なのだ」

「本当にな」


 因みに俺ら男子は、みんな揃って裏方だ。料理作ったりドリンクの準備する系の雑用と、めんどくさい客が来た時の対応と呼び込み宣伝が主な仕事だ。


「つまり、歌夜はその出し物に乗り気じゃないってことなのだ?」

「まぁ、そういうことだ」

「ふーん。歌夜は見た目はいいんだから、結構似合うと思うのだ」

「実際かなり似合ってたぞ」

「え? 匠馬君はもう見たのだ?」

「まぁな。てか、歌夜のケモ耳メイド姿はクラス全員が見ている」

「まさかと思うけど、あの歌夜がクラス全員の前でメイド服を着たのだ?」

「そのまさかだ。まぁ、正確には着せられたって言った方が正しいな」

「その話、詳しく聞きたいのだ」

「別にいいけど、それをネタに歌夜をからかうなよ」

「可能な限り善処するのだ」


 うん。こりゃ信用ならんな。間違いなく、からかう気満々だわ。


「まぁ、簡単に言うとだな。桃花さんと歌夜以外の女子が結託して、無理矢理着せたんだよ」

「歌夜っていじめられいるのだ?」

「いじめられてはないと思う……多分。一応の名目では、クラスの中だったら1番美人だからってことらしいぞ」

「なるほど。確かにそう言われると、納得出来なくはないのだ」

「んでまぁ、桃花さんが歌夜を取り押さえて、その間に女子達が着せ替えとメイクを施したって感じだ」

「何か、可哀想なのだ」


 うん。本当に可哀想だったな。なんて言うか、リアル着せ替え人形になっていてたもんな。最後の方とか、若干泣いてたし……。


「んで、出来上がったのがこれだ」

「おぉ」


 クラス全員に行き渡ってしまった、歌夜のケモ耳メイド姿の画像を翼ちゃんに見せる。因みに撮影したのは桃花さんだ。

 あの時の桃花さん、めっちゃ楽しいそうにしてたなぁ。歌夜の弱みを握れて、すげぇ嬉しそうだったし。

 あの人歌夜に何か恨みでもあるのかな? まぁ、心当たりが全く無い訳ではないけどな。俺も含めて色々と迷惑かけているもんな。


「結構……いや、かなり似合ってるのだ」

「そうだな。贔屓目なしでも素直にそう思える」

「当日はこれを着て、お帰りなさいませご主人様とか言う感じなのだ?」

「ちょっと違うな」

「と言うと?」

「ニャンニャン! お帰りなさいませご主人様だニャン! だそうだ」

「そ、それは……ふ、ふふっ! か、歌夜にとっては……ぷっ! 拷問みたいな……も、もの……なのだ……」

「笑い堪えられてないぞー」

「ご、ごめんなのだ。想像したら……笑いが止まらないのだ……ぷっ!」


 うん、気持ちはすんごい分かるぞ。俺もちょっと想像したら、吹き出したからな。おかけで歌夜にぶん殴られる羽目になったけど。


「それってネコ限定なのだ?」

「いや、犬とか狼とか色々いるっぽいぞ。因みに犬だったらワンワンで狼ならガオガオだそうだ」

「そ、そうなのだ……ど、どれをやっても面白そうなのだ。ぷふっ!」


 どうやら、よっぽどツボにハマったようだ。さっきから、ずっと肩をプルプルと小刻みに震わせながら笑っている。

 多分、歌夜の姿を想像しているんだろうな。


「んで? 翼ちゃんのクラスは何やるんだ?」

「ボクのところは、嬢王様の部屋なのだ」

「は?」


 何言っているんだ? 少なくとも、まともなものじゃ無いってことは想像出来るけど、内容に関しては全く想像出来ないぞ。


「まぁ簡単に言うと、クラスの女子が超我儘かつドSのお嬢様になるのだ。そして、来たお客さんは、そのお嬢様を満足させるって感じなのだ」

「うん、意味が分からん」

「ボクもなのだ。でもまぁ、一定の層にはウケるってことで採用になったのだ」

「いやいや、狙ってる客層がピンポイント過ぎだって……」


 それ大丈夫なん? 人によっちゃ、いかがわしい店と勘違いされたりしない? てか、そんなもん学校の文化祭で出しちゃってもいいの?


「因みに男子は、嬢王様のイスになるのだ」

「カオス過ぎだろ……」

「何か男子が妙に乗り気で、ちょっとキモかったのだ」


 いや、ちょっとどころの騒ぎじゃないっての。

 え? 何? 翼ちゃんのクラスの男子はみんなドMなのかな?

 いやまぁ、否定するつもりは全くないけどさ……ちょっと俺には無理かな。


「ま、そんな訳だから、よかったら匠馬君も遊びに来て欲しいのだ」

「考えとくよ……」

「さて、それじゃそろそろ再開するのだ。とりあえずは、目の前のテストが優先なのだ」

「そうだな。引き続きよろしく頼むよ」

「任せろなのだ! あ、ボクが教えたんだから、最低でも学年で30位以内に入らないと許さないのだ」

「せ、せめて50位以内にして下さい……」

「むぅ……じゃあ間をとって40位で手を打つのだ」

「頑張ります……」


 こりゃ、相当気合い入れてやらないとだな……

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