第31話
「よっ」
「ん? あぁ匠馬か」
「何だよ。随分とテンション低いな」
「まぁね」
修学旅行2日目の朝、ロビーでぼやっとしていたところに匠馬が話しかけてきた。
昨日、お風呂から出てそうそうに寝てしまおうと思ってたんだけど、強制的にガールトークに巻き込まれて、朝方まで話し込んでしまった。
おかげで眠くて仕方がない。
「寝てないのか?」
「そんなとこ」
「そっか。その様子だと、それなりに楽しんでいるみたいだな」
「……うん。思ったより楽しいかも」
「そりゃ何よりだ」
なーんか。地味に上から目線で腹が立つけど、今は眠さの方が勝っていて、言い返す気力が起きない。
修学旅行が始まってから、匠馬とはまともに話せてないから、少し話したい気持ちはあるんだけど今は無理そうだなぁ。
「カヨチー!」
「おわっと、アカリさん……いきなり抱きついてこないでよ」
「えぇ〜いいじゃん別に。あれ? お邪魔だったかな?」
「そんなんじゃないわよ」
「そかそか。それじゃ、早くバスに乗ろ!」
「はいはい。んじゃ、またね匠馬」
「おう」
私は荷物を持ってバスに乗り込んだ。今日の予定は、大阪まで行ってUSJで1日過ごすって感じだ。
それまでは、完全にバス移動のみだからその間に少し寝てしまおう。
「カヨチー、トランプしよ」
「無理。眠い」
「えぇ〜、そりゃないよ〜」
「そうだよ。眠いのはあーし達も一緒何だからさ」
「全然眠そうに見えないんだけど……」
むしろ、昨日よりも元気がいいくらいに見えるのは、私だけかな? もしかしたら、深夜テンションが継続しているだけなのかな?
「まぁまぁ、2人共。カヨチー、本当に眠そうだから寝かせてあげようよ」
「へぇ、アカリはカヨチー側なんだぁ」
「裏切りかぁ?」
「何でそうなるのよ……てか、うちも少し眠いから寝たいだけ」
とは言っているけど、アカリさんもあんまり眠そうではないんだよなぁ。いや、見た感じだから正確には分からないけどさ。
「もぅ、仕方ないなぁ」
「ならシズクと景色でも見ているよ」
「うん、そうしといて」
そう言って、イスの上から覗き込んで居たシズクさんとミオさんは引っ込んで行く。
「カヨチー、眠いんでしょ? 着いたら起こすから寝てていいよ」
「うん、そうさせてもらう。アカリさんも寝るんでしょ?」
「あれ嘘」
あー、やっぱりか。
にしても、すんごい自然に嘘つくなぁ。歌夜さんびっくり。
って、何言ってんだ私……眠過ぎて、まともに頭が働いてないや。
「まぁとりあえずさ、ちゃんと起こすから寝てていいよ」
「分かった。じゃあよろしく」
「あ、うちの膝使う?」
「使わない」
「もぅ……つれないなぁ」
――――――
――――
――
「カヨチー」
「……ん?」
「カヨチー、起きて。着いたよ」
あぁ……もう着いたのか。
「あ、ごめん。アカリさんの肩に寄りかかってたんだね」
「ううん。全然大丈夫だよ」
いつから寄りかかってたかは分からないけど、体の痛さ的にそれなりに長い時間寄りかかってたかんじかな。ちょっと悪いことしちゃったな。
「あ、カヨチー起きた?」
「おはよ、カヨチー」
「うん。おはよ」
スマホの時計を見ると、12時ちょい前。となると、3時間くらいは寝てたことになるのか。おかげで、朝に比べたら頭はスッキリした。やっぱり睡眠は大事だね。
「じゃ、カヨチーも起きたことだしさ。行こうよ」
「そうだねぇ」
私達はバスを降りて、みんなが集まっているところに向かった。
先生の話を聞いて、園内で使えるお食事券とフリーパスを受け取り、いよいよUSJの中に入る。
「おぉ……思ったりよりすごいんだね……」
「あれ? カヨチー初めてなの?」
「うん。初めて」
「えぇ! そうなんだ!」
「だったら、今日はめいいっぱい楽しまないとだね!」
「そうね」
実のところ結構楽しみにしていたりするんだよね。初めてってのは、あるんだろうけど、なんて言うのかな? こういうところの独特な雰囲気で妙にテンションが上がってるって感じかな。
まぁ、簡単に言うと早く遊びたいでござる。
「あ、でも先にご飯にしない? うち、お腹空いちゃった」
「アタシも〜」
「うん。言われてみればそうかも。カヨチーも先にご飯でもいい?」
「大丈夫だよ」
「何食べる?」
「あ、ピザがいい」
「おぉ! いいねぇ」
「ピザなんて食べられるところあるの?」
「あるよ。あーし、オススメのところ知ってるから案内するよ」
――――
――
「おぉ結構美味しそうだね」
「これが実際めっちゃ美味しいのですよ」
私が頼んだのは、安定のマルゲリータピザとベーコントマトのチーズピザだ。たった2切れだけどそこそこ大きいから、これだけでもお腹いっぱいになりそうだ。これにドリンクのコーラが付いてお値段は1500円と中々リーズナブル。
「それじゃ」
「「「「いただきまーす」」」」
おぉ! めっちゃ美味しいじゃん!
当たり前だけど、家で食べる冷凍ピザとは全然違うね。まぁ、あれはあれでかなり好きだけどね。
「んで? この後はどうする?」
「そりゃもちろん、アトラクションを攻めるしかないでしょ!」
「アタシ、フライングダイナソー乗りたい!」
「あーしは、スパイダーマンのやつ」
「うちは、やっぱりハリポタだね。カヨチーは何かある?」
「あー、ごめん。私よく分からないから何でもいいかな」
そもそもの話。USJに何があるかほとんど把握してないんだよね。
「そっか。なら、適当にまわって行くから興味があったのが見つけたら言ってね」
「うん、了解」
「それじゃ! レッツラゴー!」
――――
――
「ふぃー、遊んだねぇ」
「つ、疲れた……」
まさか、絶叫系アトラクションを5回連続で乗ることになるとは、夢にも思わなかった。
私達以外に他の修学旅行生は、1つか2つくらいしか居ないし、平日ってこともあってか割と空いていた。
だから、待ち時間もほとんどなくアトラクションに乗ることが出来た。初めのうちはよかったけど、3回目辺りからしんどくて仕方なかったよ。
ったく……よくアカリさん達は平気な顔でいられるよね。素直にすごいわ。
まぁ、結果的に楽しかったから良かったんだけどさ。
「いやぁ、それにしても、あっという間に時間が過ぎたねぇ」
「それなぁ」
「もっと遊びたいよねぇ」
気が付けば、もういい時間になっている。
確かに疲れはしたけど、まだ物足りない感じはあるんだけど、この時間帯になればアトラクションに乗って遊ぶ人はかなり減った感じだ。
ほとんどの人は、そろそろお土産とかを買い始めている頃合だろう。
実際、私達もそんな流れになっている。
「あそこのお土産屋でいいよね?」
「うん、いいと思うよ」
「アタシも問題ないよ。カヨチーは?」
「私もどこでも大丈夫」
「それじゃ決まりだね。あそこで適当にお土産買ってから、パレード見よっか」
「「賛成ー」」
パレードか。そういえば、そんなのもあったね。正直なところあんまり興味ないけど、せっかくだから見ておくのも悪くないかな。
「さてと、何にしよっかなぁ」
「まぁ、普通に定番所のチョコとかクッキーでいいんじゃない?」
「そうだね。カヨチーは誰に買っていくの?」
「家族と知り合いかな」
とりあえず、お姉ちゃんとお父さんとお母さんにでしょ。後は、翼と理子ちゃんかな。ついでに理子ちゃんの友達の坂本さんにも買っていこうかな。一応、翼のところには多めに買っていこうかな。孤児院のチビ達が結構食べそうだしね。
あ、凛と総司にも買っておくか。この間の一件で迷惑かけたことだしね。
うーん……そう考えると、そこそこの量になりそうだなぁ。でもまぁ、仕方ないか。
「えーっと……どうしよっかなぁ」
やっぱり、小分けになっていて数も多いやつがいいよね。後は、あんまりかさばらないのがいいかな。帰りに持ち運びが楽だしね。となると、この辺かな。
私は手頃な缶に入ったお菓子類を、適当にカゴに放り込んで、そのままレジに持っていく。
「お会計、1万5千円になります」
「はい」
「袋は全部ご一緒でもよろしいですか?」
「袋は全部一緒で大丈夫ですけど、何枚か袋もらってもいいですか?」
「はい。大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
よし。購入完了っと。
しかし、思ったり高かったなぁ。何で、こういうところで買うとこんなに高くつくのかねぇ。
こんなの適当なお土産屋で買えば、半額くらいなのにさ。入ってるパッケージが違うだけで対して味も変わらないくせに。
「カヨチー買い終わった?」
「うん。今終わったところ。アカリさん達は?」
「うちらも今終わったよ」
「そっか」
にしても、アカリさん達随買ったんだな。両手に袋をいっぱい持ってる。まぁ、私と違って友達も多いんだろう。流石陽キャ。
「ね。荷物邪魔になるからさ、コインロッカーに入れとかない?」
「そうね。確か、この近くにあったよね?」
「うん。あ、そうだ。コインロッカー代もったいないからさ、大きめのロッカーをみんなで割り勘にしない?」
「あー、それ名案かも」
確かに、こういうところのコインロッカーって無駄に高いんだよね。私もその辺の出費は抑えときたい。
「あ、それじゃアタシとシズクで行ってくるよ」
「いいの?」
「いいよいいよ。みんなで行っても邪魔になるだけだしね。お金は後で回収するってことで」
「分かった」
そう言って、私とアカリさんは2人に荷物を手渡す。
「んじゃ、うちらはパレードの場所取りしてるから。場所はLINEする」
「うん。オッケー」
「あ、ちゃんと分かりやすいところにしてよ」
「分かってるよ。はぐれちゃったら、面倒だもんね」
「うん。それじゃよろしくね〜」
2人と別れて私とアカリさんは、パレードの場所取りに向かった。
メイン通りでパレードをやるらしいけど、そこは人がいっぱいで、一緒に居てもはぐれてしまうから、少し離れたところにするとのことだ。
何でも、アカリさんがいい穴場を知っているらしい。だから私は、アカリさんの隣を大人しく着いていくことにした。
「ねぇカヨチー」
「ん?」
「うちらと一緒に居るの嫌じゃなかった?」
「急になに?」
「いやさ、うちらってほら、こんな感じじゃん。正直、カヨチーはうちらみたいなタイプって苦手でしょ?」
ここで、変に誤魔化しても仕方ないか。
「まぁね」
「あはは……だよね」
「でもまぁ、一緒に居て嫌ではなかったよ」
「本当に?」
「本当に」
「そっか。なら、よかったかな」
「で? 急に何なの?」
「いやさ、昨日ミオとシズクとも話してたんだけど、カヨチーと距離があるなって思ったからさ。もしかしたら、あんまり楽しくなかったのかなってね」
あぁ、なるほど。そういうことか。
確かに、アカリさん達と距離があったのかもしれない。
でもそれは、私自身の問題だ。そのせいで、変に気を使わせちゃったのか。
「ちょっと、恥ずかしいこと言うよ」
「うん」
「私さ、人付き合いってのがあんまり得意じゃないんだよね。だから、今回の修学旅行も結構憂鬱だったんだよ。どうせ、人数が足りないとこに入れられて、ただ黙ってその人達の後を着いていくだけだと思ってた」
「うん」
「まぁ結局、人数が足りないアカリさんの班に入ることになったんだけどさ。でもね。正直、よかったと思ってる。私の行きたいところにも行ってくれたし、こんな私にもフレンドリーに接してくれた。まぁ、ちょっとフレンドリー過ぎてウザって思ったけどさ」
「ウザいは余計じゃない?」
「あはは、ごめんごめん。でもね、実はかなり嬉しかったんだよ。想像以上に楽しかったからね。これでもアカリさん達には感謝してるんだよ」
「うん」
「だから、その……アカリさん達と仲良くなりたいと思ってる。でも、さっきも言ったんだけど、私は人付き合いが苦手なんだ。だから、距離感に関しては、もう少し気長に待っててくれないかな?」
「うん、分かったよ。話してくれてありがとう」
「お礼を言うのはこっちだよ」
やれやれ……相変わらずだなぁ私は。何でこうも、素直になれないのかな。もうちょいまともな言い方も出来たのに。でも、これが今の私の精一杯なんだよね。
「じゃあさ、手始めにうちらのことを呼び捨てで呼んでよ」
「ちょっと待ってよ。気長に待ってって言わなかった?」
「何事も一歩目が大事だよ。ほら、リピートアフターミー。アカリ」
「……」
「ほらほら〜」
「あ、アカリ……」
「聞こえないぞ〜」
「アカリっ!」
「うん。よく出来ました!」
「バカにしてない?」
「してないしてない」
はぁ……ったくもう。
でもまぁ、悪くはないか。
「おーい。お待たせ〜」
「待った?」
そう言ったところで、コインロッカーに荷物を預けに行っていた2人が戻って来た。
「全然待ってないよ。ちゃんと預けられた?」
「ばっちりだよ」
「うんうん。オールオッケー!」
「あれ? シズク、手に持ってるの何? 荷物預けて来たんじゃないの?」
「あぁ、これはね……じゃじゃーん!」
袋から取り出されたのは、キャラものの被り物だ。あの無駄にデカくて派手なやつ。
「やっぱり、パレードを楽しむにはこれがないとね!」
「おぉ! 忘れてたよ。シズクナイス!」
「でしょ〜」
「うちの分もあるの?」
「もっちろん! これはアカリのね。んで、こっちがカヨチーね」
「え? 私も被るの?」
「当たり前だよ」
「マジか……」
渡されたのは、でっかい目玉の付いた黄色いキャラ。あーっと、テレビで見たことあるな。名前はなんだっけ?
「ほらほら、早く被りなよ。パレード始まっちゃうよ」
「わ、分かったよ……」
せっかく買ってきてくれたのに、被らないってのは流石になしだよね。
仕方ない。めっちゃ恥ずかしいけど被るか。
「おぉ! カヨチー可愛いじゃん!」
「……うっさい」
「もう、照れないの」
「茶化さないでよ。その……ありがとう。シズク、ミオ……」
「え?」
「今、カヨチー……呼び捨てで呼んでくれた?」
「わ、悪い……?」
「ううん! 全然オッケーだよ!」
「そうそう!」
「そう……」
「ね、もう1回呼んで」
「うっさい」
「もうカヨチーのケチー!」
はぁ……やっぱり、このガツガツ来る感じには慣れそうにないなぁ。
まぁ、悪くはないけどね。
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