第28話

「「「京都〜!」」」


 あの屈辱の班決めから早1週間。私達は、京都にやってきた。


「ほら、カヨチー! 記念撮影しよ! 記念撮影!」

「えぇ……いいよ、別に」

「カヨチー、テンション低いよ。せっかくの修学旅行何だから、楽しまないと!」

「そうだよそうだよ!」

「はいはーい! カヨチー笑顔だよー」


 私の意見は完全に無視されて、3人が引っ付いてきて写真を撮られる。

 はぁ……本当にテンション高いなぁ。てか、駅で記念撮影しても、何の意味もない気がするのは私だけかな?


「ほら、お前ら。ここじゃ、一般の人に迷惑になるから、さっさと移動しろよ」

「あ、やばっ! カヨチー、早く行こ!」

「うん」


 桃花さんに言われて、私達は急いで駅から出ていく。

 うん、この感じ、まさに修学旅行っぽいわ。


「シズク〜、この後の予定ってなんだっけ?」

「えっとねぇ、確かバスに乗って金閣寺に移動してから、自由行動だったかな」

「金閣寺ってあれっしょ? 何か金ピカのちっちゃい小屋!」

「おぉ〜、あのテレビでよく見るヤツ!」


 金閣寺を小屋って言うやつ初めて見たわ。まぁ認識としては間違ってないと思うけど、それでいいのかなぁ。


「じゃあ、早くバスに乗っちゃおう。あ、うちがカヨチーの隣ね」

「えー、アカリずるいよー」

「そうだよ。あーしも、カヨチーの隣がいいー」

「にゃははー! 残念でしたー。これはもう決定事項でーす」

「ぶーぶー」


 さ、騒がしい……何で、朝の9時なのにこんなにテンション高いのよ。マジで陽キャ元気過ぎだよ……


「もう何でもいいから、早く行こうよ。早くしないと桃花さんに怒られるよ」

「だねぇ。じゃ、行こ行こ!」


 そうして、私達はバスに乗り込んで金閣寺に向かった。ちなみに私の隣には、宣言通りアカリさんが座った。

 座るまでの間に、誰が隣に座るかのジャンケン大会のせいで、何故か私まで桃花さんに怒られる羽目になった。まったく、私は賞品じゃないっての……


 ――――

 ――


「おぉ〜ここが金閣寺かぁ」

「本当に金ピカじゃん!」

「すっごい! めっちゃおっしゃれー」


 確かにすごいけどさ、別におしゃれではなくない? もしかして、ただおしゃれって言いたいだけなんじゃないの?

 でもまぁ、歴史好きの私にとしても、地味にテンションが上がるなぁ。ちょっと楽しくなってきた。


「よしよし! じゃあ写真撮ろう!」

「おっ! 賛成!」

「はいはーい! カヨチーも撮るよ!」

「はいはい」

「じゃあ撮るよ〜。はい、チー牛!」

「「チー牛!」」

「ち、チー牛……」


 思わず言っちゃったけど、チー牛ってなに? 普通はチーズとかじゃないの? いやまぁ、この際何でもいいか。多分、この先も似たようなことがあるはずだし、今のうちに慣れとこう。


「よーし、お前ら。ここからは班で自由行動だ。17時までに清水寺に来るように。それじゃ解散」


 今の時間は、10時ちょい過ぎ。17時までだから、かなり時間があるんだなぁ。行先は、その班の気分に任せられているし、この学校って結構ゆる過ぎじゃない? まぁ、変に厳しくてお固くされるよりは、全然マシだけどさ。


「さて、どこに行こっか?」

「んー、アタシは楽しいところならどこでもいいよー。てか、京都ってどこ回っていいのか、よく分からないし」

「あー、それある」

「カヨチーは、どこか行きたい所あるの?」


 私の行きたいところか。そんなの初めっから決まっている。むしろ、あそこに行くためだけに、修学旅行に来たと言っても過言ではない!


「壬生屯所旧跡!」

「おおう……カヨチー、今日一声出たね」

「そうだね。ちょっちビックリしたよ」

「それなー。んで、その壬生屯所? ってなに?」

「新撰組の屯所があったところだよ。私、そこには絶対に行きたい! あ、後は映画村にも行きたいかな!」


 是非、憧れの沖田さんと同じ格好をしたいしね! 本当にもう、これだけは何があっても外せないね!

 ふ、ふふふっ、やばいテンション上がってきたー!


「オッケー、じゃあよく分からないけど、そこに行こっか」

「そうだねぇ。カヨチーがこんなにテンション上がってるの初めてだし、ここは行くしかないっしょ」

「そうと決まれば、レッツゴー!」


 ――――

 ――


「はぁ〜堪能した。もう満足だよ……」


 いやぁ、控えめに言って最高だったね。前からの夢が叶ったし、言うことなしだよ。


「それにしても、カヨチーは本当に何を着ても似合うね」

「あ、それ思った」

「うんうん。やっぱり、素材がいいからかな?」

「そ、そうかな?」

「そうだよ! だってほら!」


 そう言ってミオさんが、映画村で撮ってくれた新撰組の着付け姿の私を見せる。


「だってこれさ、一応男物の格好でしょ? なのにめっちゃ絵になってるし、女のアタシでも惚れちゃう」

「ほんとそれ! あーし、ちょっとキュンとしちゃったもん」


 お、おおう……何かそう言われると、少し照れるなぁ。

 でもまぁ、確かに自分で言うのもなんだけど、中々似合ってると思う。着付けてくれた、店員さんも驚いていたからね。


「さて、次はどこに行く?」

「あー、アタシちょっとお腹空いたかも」


 んー、確かにそうかも。スマホで時間を見ると、既にお昼は過ぎていて、1時半になっていた。

 いけないいけない。夢中になり過ぎて気が付かなったよ。3人には悪いことしちゃったかな。


「えっと、私の行きたいところは回ってもらったし、後はみんなに合わせるよ」

「あはは、カヨチーそんなに気を使わなくてもいいよ。でも、とりあえずどこかでご飯にしない?」

「うん。分かった」

「あ、じゃあここに行こうよ」


 シズクさんがそう言いながら、スマホを私達に見せる。映し出されていたのは、ここから徒歩10分くらいのところにある、いかにもお洒落そうなカフェだった。


「カヨチー、どうかな?」

「うん。そこでいいよ」

「なら決まりだね」

「よーし、それじゃレッツゴー!」


 ――――

 ――


 カフェに着いた私達は、ちょっと遅めのお昼ご飯を食べながら、次に行くところとか、映画村とかの感想とか言いながらの、他愛もない会話をしていた。


「いやぁ、それにしてもさ。まさか、カヨチーが歴史好きだったなんて、知らなかったよ」

「うんうん。しかも、結構な感じだったよね」

「今までにないくらい、すんごい喋るし、これぞマシンガントーク! って感じだった」

「う、うっさいなぁ。別にいいでしょ……」

「いやいや、別に責めてるわけじゃないって」

「そうだよ。ただ、カヨチーの知らない一面が見れて嬉しかったってこと」


 う、うぅ……ちょっと恥ずかしいな。確かに柄にもなく、はしゃぎ過ぎたけどさ。そんなの改めて言わなくてもいいのに。いやまぁ、悪意がないってのは分かってるんだけどさ。


「あーしら、カヨチーのこと全然知らないからさ、もっとカヨチーのこと知りたい」

「確かに! ねねっ! 他にカヨチーの好きなこと教えてよ」

「私の好きなことかぁ」


 んー? そう言われると何だろう? 私って特に趣味ってのはないし、本気でやってることもないんだよなぁ。


「はいはーい! じゃあ質問! カヨチーの好きな食べ物は?」

「辛いもの」

「ほう。これは意外だね。ちなみにどのくらい辛いのがいいの?」

「辛ければ辛いほどいいね」


 テレビとかでやっている、激辛特集のやつとかいつか食べてみたいんだよねぇ。


「じゃあ次は、うちから質問ね。好きな音楽とかある?」

「んー? 特にこれといってないかな。普段聞いているのは、その時流行ってるやつとか、何となく気に入ったやつ」


 と言っても、ほとんどは、匠馬とお姉ちゃんが聞いているやつを聞いている感じだから、曲名を知らないのが、よくあるんだよねぇ。


「次はあーしね。好きなスポーツは?」

「結構何でも好きだよ。強いて上げるなら、格闘技系全般かな」

「えっ!? 格闘技? すっごい意外!」

「そう?」

「うん。何となく、カヨチーはそういうの興味ないって感じだから」

「あ、それアタシも思った。ちなみに何だけど、カヨチーは格闘技何かやってたりするの?」

「今はやってないけど、昔はやってたよ」

「マジで? 何やってたの?」

「空手と合気道。それとキックボクシング」

「えぇ〜、マジすごいじゃん!」


 まぁ、私と互角にやれる相手がいなくなって、どれも1年足らずで辞めちゃったんだけどね。


「えっとねぇ、次は〜」

「まだするの?」

「ダメ?」

「いや、別にダメじゃないけどさ……」


 なんて言うか、こんなに質問攻めされたことないから、落ち着かないんだよね。

 いやまぁ、悪い気はしないんだけどさ。


「んじゃ、これが最後! カヨチー、今好きな人は? もちろん、ラブのほうね」

「うえっ!?」

「お? なんだぁ、面白い反応するねぇ」

「べ、別に……そんなことないよ……」


 あ、危ない危ない。さっきまでの質問とあまりにも、方向が違っていたから驚いてしまった。

 とりあえずこの3人には、私が匠馬のこと好きなのは隠さとかないと。バレたら、めんどくさい未来しか見えない。


「で? いるの?」

「い、いないわよ……」

「ほうほう。なるほどねぇ、これは間違いなくいるねぇ」

「い、いないって言ってるでしょ!」

「あははっ、カヨチー必死過ぎだよ。そんな反応してたら、いるって言ってるようなものだって」

「そうそう。バレバレだよ」

「ぐ、ぐぬぬ……」


 くっそ。何で陽キャってのは、こういうのに妙に鋭いのかなぁ。


「でで? 誰なの? うちら、応援するよ」

「だから、いないってば……」

「もぅ、素直じゃないんだから」

「あぁ〜、アタシもしかして、分かっちゃたかも」

「ち、違っ、匠馬じゃないから! あ……」

「へぇ〜、真田君かぁ」


 わ、私のバカー! 自分から言ってどうすんのよ!

 漫画じゃないんだから、こんなアホなミスしてんじゃないわよ!


「あははっ、カヨチーかっわいいなぁ」

「う、うっさい」

「でもまぁ、何となく分かってたんだけどね」

「まぁね〜」

「は? なんでよ?」

「お? 認めたね」

「うっさい。で、何で分かったのよ?」

「えぇ〜、だってさ。カヨチーが学校で話すのは真田君だげし〜」

「よく目で追ってるし〜」

「一緒に登下校してるの見るし〜」

「「「な、に、よ、り〜」」」

「「「前に真田君が、理不尽に停学になった時すんごい怒ってた!!!」」」

「…………」


 反論が出来ない……

 確かに言われてみると、私って分かりやす過ぎかも。そういえば、前にお姉ちゃんにも同じこと言われた気がする。


「それでそれで? 何時から真田君のこと好きなの?」

「真田君のどこが好きなの?」

「教えて〜、カヨチー」

「うっさい! 誰が言うか!」


 普通に考えて、そんな恥ずかしいこと言えるわけないでしょうが!

 てか、仮に言ったら私が恥ずかしくて死ぬ! 間違いなく黒歴史決定だ。


「ぶーぶー」

「カヨチーのケチー」

「ケチー」

「うっさいわ! ほら、そんなことより、もう食べ終わったんだから行くよ」


 私は伝票を持って立ち上がる。このまま、話していたら、さっきみたいに口が滑る可能性がある。だから、さっさと撤退することにしよう。


「カヨチー」

「何?」

「夜は逃がさないからね」

「……うっさい」

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