第27話

 あ、どうも。鳶沢歌夜とびさわ かよです。私ごとでありますが、現在絶体絶命のピンチを迎えております。


「おーい。そろそろ決まったかー? 決まったやつから、用紙を提出しろよ」


 担任である、桃花とうかさんがクラスのみんなに呼びかける。

 その呼びかけに応じて、何人かが桃花さんに用紙を提出をし始めた。


「ま、まずい……」


 今は、6限のホームルーム中だ。ホームルームの内容は、来週に迫った修学旅行の班分けだ。

 班は4人1組なんだけど、私は未だに班メンバーが1人も決まってない。まぁ当然だ。だって私には、クラスに友達がいないのだから。

 私がクラスでまともに話をするのは、匠馬だけだし、クラス外となると翼と理子ちゃんくらいだ。

 まぁ、結局のところ私が何を言いたいかと言うと、私は今流行りのぼっちだってこと! 文句あるか! ちくしょう!

 あ、ちょっと待ってよ。そうだよ! 翼と理子ちゃんを誘えばいいんじゃん!

 翼は修学旅行の復習になるし、理子ちゃんは予習が出来る!

 私は早速スマホを開いて、2人にLINEを送る。文面は、『私と一緒の班になって、修学旅行行かない?』だ。


「うん。完璧」


 お? 早速2人から返信が来た。まずは、理子ちゃんの方からは……


『ちょ笑、カヨパイ! 班を組めないからって、必死過ぎっすよ笑』

『友達作り頑張って下さいっす笑』


 ま、まぁ……まだ翼がいるよ……


『頭おかしいのだ?』

『でもまぁ、気にすることないのだ。時間が経てば、どこかの班に余ったぼっちは入れてくれるのだ』

『頑張れ! ぼっち歌夜!』


 こいつら、絶対に許さないから。末代まで呪ってやる。


「おーい、歌夜。班決まったか?」

「決まってるわけないでしょ」

「決まってないって……そんな悲しいこと言うなよ……」

「うっさい。それとも何? 嫌味でも言いに来たの?」

「何でそうなる」

「じゃあ何なのよ! 嫌味じゃなかったら、喧嘩売りに来たって言うの! いいわよ、上等じゃない!」

「お、落ち着けよ……」


 何なのよ、もう! どいつもこいつも!

 えぇそうですよ! 私はどうせぼっちですよ!

 てっきり、男女混合だと思って、匠馬と組んで後は適当に人が集まると思ってたから、余裕だと思ってましたよ!


「おい、鳶沢。騒がしいぞ」

「げ、桃花さん……」

「露骨に嫌そうな顔するな。女子で決まってないのお前だけだぞ」

「わ、分かってますよ……」

「分かってるなら、結城達の班に頭下げて入れてもらえ。こいつらも、あと1人足りないんだ」


 うげぇ……あの3人組って、クラスの陽キャグループじゃん。

 いつも、キャピキャピとしていて、陽キャ特有の眩しすぎるオーラを無差別に振りまいているやつらじゃん。


「ほら、さっさとしろ」

「い、いやぁ……その……」

「ち、めんどくさいな。おい、結城」

「はいはーい! どうしたんっすか、桃花ちゃん」

「教師をちゃん付けで呼ぶな」


 結城と呼ばれた人物は、あのグループのリーダー的存在だ。

 赤髪のウェーブがかかったセミロング。耳には、ちょっと派手なピアスを空けている。化粧もバッチリ決めていて、まさに人生エンジョイしていますって感じの陽キャだ。


「嫌なのは分かってるんだが、鳶沢を同じ班に入れてやってくれ」

「言い方に棘がありません!?」

「は? 何言ってんだお前は。余り物のお前に人権があると思ってるのか?」

「う、うぅ……」

「ほら、早く頭を下げてお願いしろよ。どうか、ぼっちの私をグループに入れて下さいってな」

「い、いや……桃花ちゃん? 別にそこまでしなくても大丈夫だよ……」


 お? 陽キャの割にはいい事言うじゃん! そうだそうだ! もっと言ってやれ!


「ダメだ。こいつみたいなやつは、無駄にプライドばかり高いんだ。だから、初めのうちにバッキバキにへし折ってやらないといけないんだ」

「偏見過ぎですよ!」

「そんなことないぞ。どうせ、陽キャの割にはいい事言うなとか思ってたんだろ? そんな他力本願は認めん」


 うわぁ〜、バレてる〜。

 え? 何? 桃花さんってエスパーか何かなの? それとも、私が分かりやすいだけ?

 どちらにせよ、非常にやばい。このままじゃ、この私が陽キャに頭を下げる羽目になっちゃう。それだけは、何としても避けたい。


「ほら、さっさとしろよ」

「い、いや……です……」

「そうか。なら、仕方ないな」


 あれ? 意外と上手くいった?

 何だ〜、桃花さんもちょっとはいいところあるじゃん!


「じゃあ、修学旅行中は私達、教師陣と一緒に回るとするか。いやぁ〜見回りの人手が増えて助かるよ」

「うぇ!?」

「だって、仕方ないだろ? 鳶沢は、クラスのやつらと回るのは嫌なんだもんなぁ」

「い、いや待ってくださいよ! そういう意味じゃないですって!」

「なら、結城達に頭を下げるか?」

「う、うぅ……」

「どうする? 結城達に頭を下げて一緒に回ってもらうか、私と一緒に見回りするか。特別に選ばせてやるぞ」


 こ、この……鬼教師めぇ。


「ほらぁ、早く決めろよぉ」

「……お」

「お?」

「お願い……します……。私を結城さんの班に入れて……下さい……」

「おいおい、鳶沢〜。お願いする時は、しっかりと地面に頭を付けないとダメだろ。それに、誠意もまだ足りないぞ」

「く、くぅ〜」

「ほらぁ〜、早くしろよ〜」

「お願いします……。どうか、無駄にプライドばかり高い、ぼっちの私を結城さんの班に入れて下さい……」


 く、屈辱だ。

 な、何で私が、公開土下座をしなくちゃいけないのよ……。


「そうそう。やれば出来るじゃないか。鳶沢」

「ぐ、ぐぐう……」

「まぁ、そういうわけだ。このどうしよもない、ぼっちの鳶沢を班に入れてやってくれ」

「り、了解しました……」


 ち、ちくしょう!

 この恨みは、絶対に忘れないから! いつか必ず、桃花さんに私と同じ屈辱を与えてやる!


「鳶沢さん? とりあえず、頭上げなよ」


 そう言って、結城さんと他のメンバーが優しく声をかけてくる。

 く、くそぉ……今はその優しさが、私を更に追い込む。

 あ、どうしよ。泣きそうだ。いや、もう既に涙が出てきた。


「ほら、もういいからさ。顔上げてよ。うちら、鳶沢さんと同じ班になれて、めっちゃ嬉しいから! ね?」

「そうだよ! アタシ、前から鳶沢さんと仲良くしたいと思ってたんだよ!」

「そうそう!」


 う、うぅ……や、優しい! そして、何ていい人達なんだ。


「ありがとう」

「気にすることないよー」

「そうそう」

「今まで、結城さん達みたいな陽キャは、ノリと勢いだけで生きている、単細胞動物と思っていてすいません」

「いきなり、すっごい告白きたね……」

「ま、まぁ……あながち間違ってないけどさ……」

「でもまぁ、こんなにはっきり言われると、ちょっと傷つくねぇ……」

「マジですいません……」


 ごめんなさい。本当は、人語を話す薬中チンパンジーと思ってました……。


「ま、まぁさ、とりあえず同じ班になったんだから、仲良くしようよ!」

「それな!」

「あ、せっかくだから、アタシ鳶沢さんのこと下の名前で呼びたい!」

「お! それいいじゃん! 鳶沢さんいいよね?」

「う、うん。大丈夫」


 圧がすごいなぁ……こんな勢いよく来られたら、断れないって。マジで陽キャ強いわ……。


「じゃあ、カヨチーよろしくね!」

「か、カヨチー?」


 あれぇ? 名前呼びじゃなかったの? 何であだ名になってるのかなぁ?


「うちのことは、結城さんじゃなくて、アカリって呼んでね」

「アタシは、ミオでいいから」

「あーしは、シズクね」

「分かった」


 結城燈ゆうき あかりさん、双葉未央ふたば みおさん、花園雫はなぞの しずくさん。私とは相反する陽キャ達だけど、思ってたよりも、悪い人達ではなさそうかな。とりあえず、私と班を組んでくれて本当にありがとうございます。

 後、桃花さんは絶対に許さない。

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