第26話
あの日から2日が経って、今日は土曜日。何となく、面倒くさくなって昨日一昨日と歌夜と2人して学校をサボってしまった。
俺達がサボることに、珍しく朝姫さんは何も言わず了承してくれた。
まぁ、本当に色々あって疲れていたから、ありごたいことこの上ない。
「匠馬〜お客さん」
「客? 誰だよ?」
てか、歌夜さん。ノックくらいしようぜ。これでも一応、年頃の男の子なんだからさ。
「クマパイ〜、可愛い後輩の理子ちゃんが来たっすよ〜」
「こんにちはなのだ。匠馬君」
入って来たのは、翼ちゃんと理子だった。2日前にあったのに、何だか随分と久しぶりな感じがするな。まぁ、この2日間はほとんど部屋から出ないで引きこもっていたってのもあるんだろうけどさ。
「よぉ、急にどうしたんだよ?」
「ぶー、何か素っ気なくないっすか? せっかく理子が来てあげだのに」
「別に頼んでねぇよ」
「クマパイ酷いっすよー!」
やれやれ……こいつは相変わらず、騒がしくて元気がいいな。少しその元気を分けてほしいくらいだ。
「んで? 本当にどうしたんだ?」
「特に用はないっすけど、クマパイ達が学校に来なかったから、様子を見に来ただけっすよ」
「そうかい」
まぁ、あんなことがあった後出しな。多少は心配してくれたってことかな。
「翼ちゃんもか?」
「うん。そんなところなのだ」
「そっか。とりあえず、立ったままもあれだし座れよ」
俺はベットに転がっていた、クッションを3人に渡す。
「あ、そうだ。翼ちゃんその後はどうだ? 何かあったりした?」
「ううん。特に何もなかったのだ。まぁ、強いて言えば、朱音さんにすっごい怒られたくらいなのだ……」
「あはは、そりゃ大変だったな」
「本当に大変だったのだ……あんなに怒った朱音さん初めてだったのだ……」
まぁそりゃそうだよな。俺も朱音さんの立場だったらめっちゃ怒ってたと思うし。
何はともあれ、翼ちゃんが無事だったから、そのくらいで済んだんだ。そう思えば安いものだろう。
「その……匠馬君、歌夜。助けてくれて本当にありがとうなのだ」
「気にすんなよ」
「そうよ。私達は好きでやっただけなんだから」
「それでも、ありがとうなのだ」
「おう」
あの後、鎌田がどこに連れて行かれたか分からない。てか、出来れば知りたくもないな。一瞬、桃花さんに聞こうと思ったけど、怖いからやめた。知らぬが仏ってやつだ。
「いやぁ、それにしても。クマパイとカヨパイが元ヤンだって知らなかったっすよ」
「うん。それはボクもビックリしたのだ。それに2人共、やばいくらい強かったのだ」
「朝姫さんから、2人がめっちゃ強いってのは聞いたっすけど、そんなに強かったんっすか?」
「うん、すごかったのだ。何十人もいるのに、あっという間に倒しちゃったのだ」
「へぇー、理子も見たかったっす」
ほうほう。そう言われると、悪い気はしないな。でもまぁ、相手は大して強くなかったし、自慢にはならないんだけどな。
「あ、でも。あの喧嘩する前の口上はやめた方がいいのだ」
「はぁ? なんでよ?」
「いや、普通にダサいし恥ずかしいのだ」
「それ理子も思ったっす。朝姫さんに動画見せてもらった時、恥ずかしくて鳥肌たったっすもん!」
えぇ……そんなに言うか?
俺はめっちゃかっこいいと思うんだけどなぁ。
「ダサくないし。かっこいいもん……」
「それは感性がおかしいのだ」
「うっさい。ほっといてよ」
まぁ別にどう思われてたっていいし。どうせもう、やることはないだろうからな。
ただこれだけは断言する。あれは超かっこいい! 異論は認めない!
「そういえば、匠馬君達は再来週から修学旅行だよね?」
「あぁそうだな。お土産何がいい?」
「んー? お菓子系がいいのだ。日持ちして個数が多くて小分けになってるのがいいのだ」
「条件多くね?」
「その方が、弟達に配るのが楽なのだ」
「流石っす……」
なるほど、これが出来るお姉ちゃんってやつか。まぁ元々、孤児院の子達にはお菓子を買っていくつもりだったしいいか。後はまぁ、個人的に翼ちゃん用に何か買っとくか。
「そうだ。匠馬君達はお土産何がいいのだ?」
「は? どういうことよ?」
「あれ? 言ってなかったのだ? ボクも再来週に旅行にいくのだ」
「聞いてないぞ。てか、どこに行くんだよ?」
「スペインなのだ」
「マジかよ。何でまた」
「実は桃花さんから連絡もらって、ボクが今まで鎌田に渡していたお金が返ってきたのだ。しかも、迷惑料も込で」
あぁなるほどな。確かに、鎌田に渡していた金が返って来ないのは、あまりにも可哀想だ。流石桃花さんだ。その辺よく気が利いている。
「てなわけで、ちょっと旅行に行ってくるのだ。だから、お土産は何がいいのだ?」
「んー、正気スペインのことは、さっぱり分からねぇからなぁ。だから、翼ちゃんに任せるわ」
「同じく」
「理子もそれでいいっす!」
「分かったのだ。じゃあ楽しみに待っててなのだ」
しかし、スペインか……すげぇな。何か、俺達の修学旅行がちっぽけに思えちまうわ。
「てか、翼ってスペイン語話せるの?」
「昨日覚えたのだ」
「ん? 昨日覚えたって何?」
「いや、普通に教本と動画を見て覚えたのだ」
「そんなんで、覚えられるの?」
「簡単だったのだ。逆に出来ない理由が知りたいのだ」
「白井先輩、マジかっけぇっす!」
「いやぁ、それほどでもないのだ〜」
なるほど。どうやら翼ちゃんは、俺達とは別次元の頭を持っているようだ。とてもじゃないけど、普通の人間はそんなんで覚えられないからな。
「ねぇ匠馬」
「ん?」
「翼って、やっぱりさ……」
「あぁ、天才だな」
「だよね」
人間、ここまで出来の違いを見せられると、嫉妬とかそういった感情は湧いてこないもんなんだなぁ。1つ勉強になったわ。
「さて、それじゃあボクはそろそろ帰るのだ」
「え? 白井先輩、もう帰っちゃうんっすか?」
「うん。本当に様子を見に来ただけだからなのだ。それにこの後、ちょっと用事があるのだ」
「そっか。気をつけて帰れよ」
「分かったのだ」
そう言って翼ちゃんは、立ち上がる。
「あ、そうなのだ。1個忘れてたのだ」
「ん?」
翼ちゃんは、おもむろに俺の目の前まで近付いて来て、そして――
「んっ」
「あっ!?」
「なっ!?」
額と額がくっつきそうな距離と、唇には柔らかな感触。
この感じは人生で3回目。1回目は理子で、2回目は歌夜だった。そう、俺は翼ちゃんにキスされている。
「ぷはっ! えへへ、ご馳走様なのだ」
「ちょ、翼! あんた何してんのよ!」
「そうっすよ!」
「見ての通りなのだ」
「見ての通りって……」
「2人がやっている。匠馬君争奪戦。今日からボクも参加させてもらうのだ」
「ぐ、ぐぬぬ……」
3人が何か話していけど、俺の耳には全く届いてなかった。完全に頭がフリーズ状態だ。
「じゃ、そういうわけなのだ! それじゃ、ボクは帰るのだ〜」
翼ちゃんはそう言って、軽やかな足取りで俺の部屋を出ていった。俺はただそれを、呆然と眺めていることしか出来なかった。
「ねぇ、匠馬?」
「な、なんだよ……」
「ちょっと、私達と話をしない?」
「そうっすね。クマパイ、理子達とお話するっす」
歌夜と理子の笑顔とは裏腹に、声は全く笑ってない。なんだったら、恐怖すら感じる。
「ちょ、待てお前ら! 顔と声の感じが一致してないんだが!」
「気のせいだって」
「そうっすよ、クマパイ。理子達、全然怒ってないっすから」
「嘘つけ!」
2人がジリジリと俺に詰め寄って来る。俺は、後退るがすぐに壁にぶつかってしまった。
あ、これ逃げらんねぇわ……
「それじゃ、お話しよっか。匠馬〜」
「時間はたっぷりあるっすもんね〜」
あ、あはは……勘弁してくれ……
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