第15話

 へぇ……思ってたより、結構いいところじゃん。

 黒岩市から、原付を走らせて約1時間とちょいのキャンプ場。俺と歌夜は、そこに来ていた。

 キャンプ場と言っても、まだオープン前で俺達以外は誰も居ない。今回は、知り合いの伝で特別に使わせてもらっている。


「さてと、それじゃ早いとこテントを建てちゃおうよ」

『了解だ(*`・ω・)ゞ』


 やれやれ……相変わらず素っ気ないな。こっちまで来れば、多少はマシになると思ったんだけどな。

 まぁ、今更言ってもしゃあない。歌夜も何だかんだ言って、今日のキャンプを楽しみにしてたみたいだし、そのうち機嫌もよくなるだろう。

 てか、そうなってほしい。いや、マジでさ本当に頼むぜ。


「匠馬。ぼけっとしてないで、そっち持ってよ」


 おっとっと、考え事していら手が止まっていたようだ。こんなくだらないことで、歌夜のストレスメーターを無駄に上げちまったな。反省反省。


「面倒なことは、さっさと済ませて早く遊ぼうよ」

『そうだな』


 お? 意外と怒ってないな。むしろ、さっきよりテンション高めだな。よしよし、これはいい傾向ですな。

 そっから俺らは、2人で協力してテントを立てた。

 俺達が持ってきたテントは、3〜4人用のファミリータイプだ。だから、そこそこデカくて中々大変だった。

 正直な所、年頃の男女が同じテントを使うってのは、色々と問題がある気がするんだが、これしか無かったから仕方ない。まぁ、俺と歌夜だし、特になにか起きる訳がないし問題はないか。


「ふぅ……結構大変だったわね」

『そうだな。まぁまぁ疲れたわ……』

「ま、いいっか。さてと、それじゃこれから何しよっか?」

『何でもいいぞ』

「あのさぁ……そういうのが1番困るんだけど」


 えぇ……そんなゴミを見るような目をしなくてもいいじゃん。

 だってよ、キャンプとか初めてなんだから、何していいか分からねぇんだから、仕方ねぇだろ。


「はぁ……まぁいいわ。とりあえず、その辺散歩でもする?」

『いいね』

「ん。それじゃ行こ」


 うん。やっぱ、いいところだな。

 なんて言えばいいかよく分からねぇけど、とにかく居心地がいい。心が安らぐ感じだ。これが噂に聞く、何とかセラピーって言うんだろうな。


「ねぇ……」

『どうした?』

「……あー、ごめん。やっぱ、何でもないや」


 何だよ。言いたいことがあるなら、はっきり言えよ。そんなのらしくねぇっての。


「あ、そうだ。私このまま薪集めてくる。匠馬は、適当に夕飯の準備でもしててよ」


 歌夜はそう言って、1人でパタパタと走って行ってしまう。

 ったく、何なんだよ。だいたい、まだ夕飯には早すぎるだろ。

 まぁ、行っちまったのはしゃあないか。とりあえず、テントに戻って焚き火の準備でもしてるか。


 ―歌夜視点―


「はぁ……」


 参ったな。いやぁ、本当に困ったよこれは……。

 あの日以来、どうにも匠馬と上手く話せない。

 どれもこれも、全部周りが悪いのよ! うん、そうだよ。私は何一つ悪くない。世の中が悪い。


「はぁもう……」


 嘘だ。

 誰も悪くない。

 理由は分かっている。

 だって、気付いちゃったんだもん。私は……


 ――――

 ――


「ねぇ歌夜?」

「何?」

「あんたさ、匠馬と何があったの?」

「別に何もないわよ」


 明日は7時に出発だから、そろそろ寝ようとしていた時に、お姉ちゃんがいきなりそんなこと言ってきた。


「嘘つかないの。何もなかったら、家の雰囲気がこんなに悪くなるわけないじゃない」

「そんなの知らないわよ」

「いや、知って。お願いだからさ。もういい加減、居心地悪いのよ」

「……」


 まぁ確かに家の雰囲気は最悪だ。会話はなく、みんながみんな気を使っている。

 原因は私。そんなのは分かっている。だけど、何でこんな態度をとってしまうのか、私自身も分からない。


「んで? 本当に何があったのよ?」

「だから、何もなかったわよ」

「そう。それじゃ匠馬と何かあったんじゃなくて、匠馬に何かあったのかな?」

「!? そ、それは……」

「なるほど、当たりだねぇ」


 ち、お姉ちゃんってば、何でこんな時ばっかりこうも鋭いのかな。

 そしてなりよりも、そのニヤついた顔が無駄にムカつくんですけど!


「もう〜、このこの可愛いやつめ〜」

「あーうっさいな! 抱きつかないで!」

「じゃあ、匠馬に何があったか話しなさい」

「分かった! 分かったから離れてよ!」


 私は、お姉ちゃんを何とか引き剥がす。何となく、長くなると思って、コーヒーを入れてから2人でテーブルに着く。

 それから、みんなで焼肉に行ったこと、理子ちゃんが匠馬にキスしたこと、それと……このよく分からない気持ちを話した。

 思いのほか言葉は、スラスラと出てきた。どれくらい話しただろう? 体感では数分程度だけど、さっき入れたコーヒーから湯気が消えていることを考えると、それなりに経ったはずだ。


「ぷっ、あっはっは!」

「……は?」


 私の話を黙って聞いていたお姉ちゃんは、1度吹き出してから、腹を抱えて大笑いした。


「ちょっと、いくらなんでも笑い過ぎじゃない? てか、今の話に笑う要素なんてあった?」

「うひひっ! あははっ、ひぃーひぃー、いやぁ我が妹ながら面白過ぎてね。ごめんごめん。ぷははっ! あーダメだ。面白過ぎ!」

「もう寝る」


 ムカつく! こんなバカ姉に相談した私がバカだった!


「あー待った待った! ごめんって!」

「はぁ……」


 私は1つため息をついてから、もう一度座り直す。


「いい歌夜ちゃん。それはヤキモチだよ」

「は? ヤキモチ?」

「そ、ヤキモチだよ」


 私がヤキモチ? いやいや……まさか、ありえないってば。そもそも一体誰によ?


「うーん……こりゃ本気で気付いてないっぽいなぁ」

「あのさ、本当に何言ってんの?」

「はぁやれやれ……匠馬も相当だけど、うちの妹も大概だなぁ」


 むぅ……何かすっごいムカつくなぁ。何よりも、匠馬と同レベル扱いされたのが、気に入らない。


「もういいや、おバカな歌夜ちゃんには、はっきり言ってあげるよ。歌夜ちゃんは、匠馬のことが好きなんだよ」

「は? 何言ってるの? そんなの当たり前じゃん」

「あー違う違う。全然分かってないよ。その好きは、LIKEじゃなくてLOVEの方だからね」

「うえっ!?」


 自分でもキモいくらい、変な声が出た。だってそりゃそうだ。私が、匠馬のことが恋愛的な意味で好き? そんなバカな事が……。


「冷静に考えてみな? 恋愛的に好きじゃなかったらさ、匠馬が他の女の子とデートに行こうがキスしようが、気にならないでしょ?」

「い、いや……そんなことは……」

「あるんだよ。いい加減認めちゃいなさいよ」

「認めるも何も……私は別に……」


 言葉では否定してみたものの、何故か心の中で妙に納得している自分がいる。


「じゃあ、想像してみよう。はい、目を瞑って。その理子ちゃん? って子と、匠馬が恋人になっているところをさ」

「……」


 私はお姉ちゃんに言われるがまま、目を瞑って想像してみる。匠馬が理子ちゃんと、休日にデートに行ってキスをしているところを。


「どう?」

「嫌だ……」


 その言葉は、すんなりと出てきた。

 ほんのちょっと想像しただけで、吐き気がするくらい、嫌で嫌で仕方がなかった。出来ることなら、もう二度と想像したくない。


「ふふ、答えが出たね」

「……うん」


 そっか、私って匠馬のことが好きだったのか。


「うんうん。そういう素直な歌夜ちゃんのこと、お姉ちゃん大好きだよ」

「茶化すな」

「はいはい。んじゃ、お姉ちゃんもそろそろ寝るね」

「うん。ありがとう」

「頑張れ! 歌夜ちゃん」


 ――――

 ――


「はぁ……」


 お姉ちゃんのおかげで、匠馬への気持ちを自覚したはいいんだけど、こりゃ参ったなぁ。

 ただでさえ、まともに話せてなかったのに、更に話し難くなっちゃったんだよねぇ。

 あれ? 私、このこと考えるの何回目だっけ? 何かもう、数え切れないくらい同じこと考えている気がするな。


「あーもう……」


 こりゃ本格的にダメそうだな。どうやら私は、想像以上に匠馬のことが好きみたいだ。


「って、あれ?」


 たった今、気付いたんだけど……


「ここは……どこ?」


 おかしいな。さっきまで、整備された散歩コースを歩いていたはずなのに、いつの間にか森の中にいる。


「あ、あはは……」


 こ、これはあれだね……迷子ってやつだよね。

 まさか、考え事しながら歩いていたら、迷子になっちゃうなんて笑っちゃうなぁ。


「いや、全然笑えないわ……」


 ど、どうしよう? もはや、自分がどこから来たのかすら分からなくなった。

 そうだ。こういう時はスマホを使えばいいんだよ。文明の利器ってやつだね。大自然よ、現代人を舐めるなよ!


「うん……圏外だ。しかも、バッテリー残量は5%」


 詰んだ。

 どうやら、現代人はまだまだ大自然には敵わないようですね。


「あ、あはは……本当にどうしよう……」


 やっばい。どうしていいか分からな過ぎて、おかしなテンションになってるよ。いや、そんなのはどうでもいいことか。


「ん?」


 私が項垂れいると、頭に冷たいのが落ちてきた。上を向いてみると、さっきまで晴れていた空が曇っている。

 うわぁ……何かすごい嫌な予感がするなぁ。

 私がそう思った瞬間にザー! っと雨が降ってきた。


「お願いだから、嘘って言ってよ……」


 あぁもう……最悪だ。

 とりあえず、どこか雨宿り出来るところを探さないと。


「きゃ!」


 足元をちゃんと見ていなかった私は、地面から飛び出ていた木の根に、足を引っ掛けて前のめりに倒れる。


「いったぁ」


 あぁもう……本当に最悪だ。


「っう!」


 嘘でしょ? 今ので足首痛めたみたいだ。痛いのを我慢して、立ち上がろうとするけど、痛くて全然足に力が入らない。

 本当に何なのよ……私が何したって言うのよ。

 ダメだ……泣きそうだ。


「た、匠馬……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る