第12話
『さぁ始まりました! イチャイチャ! ラブラブカップルNO.1決定戦! この暑い夏にも負けないくらいの熱々な、カップル達の戦いが今始まるぞー!』
おいおい……マジかよ。
いや、確かにさ、参加人数が少ないとは言ってたけど、まさか俺ら含めて4組って、いくらなんでも少な過ぎだろ。
「ねぇねぇクマパイ?」
『どうした?』
「何か理子達、かなり場違いじゃないっすか?」
『言うな……』
理子が言った通り、明らかに俺らだけ浮いている。
その理由は、キャラ不足だ。まぁ簡単に言っちまうと、他の参加者のキャラが濃すぎるんだ。
まず、圧倒的に陽キャ全開の超イケイケカップルがいる。まぁこいつらに関しちゃ、そこまで珍しい存在じゃないからいい。だが、問題は他の2組だ。
片方は、ゴリッゴリに鍛え上げられたボディービルダーみたいなカップル。もう片方は、何かのアニメの格好をした、コスプレカップルだ。
どう考えても、キャラ負けしている。もはや、勝負をする前から、負けた感が拭えない状態だ。
「理子、今更ながら参加したことを後悔しているっす……」
『奇遇だな。俺もだ』
もう、今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。これは、もう罰ゲームって言われても、普通に信じるぞ。
『さぁ! では早速やっていきましょう! と言いたいところですが、まずはルール説明をします。カップル達にはこちらが、用事した3つのゲームに挑戦してもらいます。途中で失敗してしまったら、そのカップルは脱落となります。最後までクリアしたカップルが優勝となります!』
なるほど、そういうタイプのやつか。
てっきり、お客さんの評価を集めるとか、審査員を満足させる系かと思ったな。
『それでは、最初のゲームを発表します! その名も、あなただけ見つめ続けるわ! 2人でジュース一気飲み対決ー!』
うわぁ……名前がもう頭悪いわ。
でもまぁ、何となく名前だけで、何をやるか想像が付くわ。
『ルールは簡単。このカップル用ストローで、2人でジュースを飲んでもらいます。その時に決して相手から目を離してはいけません。もし、目を離してしまったら、その時点で失格です。一斉にスタートして、上位3組が勝ち抜けとなります!』
うんまぁ、やっぱり想像通りだったな。
要は速攻で飲み干せば勝ちってことだな。なんだ、意外と楽勝じゃん。
『ではでは、今回飲んでもらうジュースは、今回の為に特別に用意した、強炭酸コーラです! 量はなんと脅威の3L! もちろん、1度口にしたらストローを離すことは許されません! ストローを離してしまった場合も失格となりますのでご注意を! さぁこの試練を愛の力で乗り切ってもらいましょう!』
前言撤回だ。全然楽勝じゃなかったわ。
3Lのコーラを2人で一気飲みって、バカにも程がある。無理無理、絶対に不可能だ。
「クマパイ! ここは理子に任せて下さいっす! 理子、コーラは大好きなので自信があるっす!」
こらこら、理子ちゃんよ。君は自分が何を言っているのか分かっているのですかね? これは、好きだからって、どうにかなる問題じゃないぞ。
「あ、クマパイってば、理子のことアホだと思ってないっすか?」
『よく分かったな( ´ ◜௰◝ `)』
「酷いっすよ! 理子を信じて下さいっすよ〜」
『分かった分かった。お前を信じるから、離れてくれ』
「ぶー! なんすかその言い方〜」
うるせぇな。だってしょうがないだろ。
水着のせいで、色々とダイレクトに伝わってくるんだからよ。健全な男子高校生には、刺激が強いんだっての!
『はーい。そこのカップル〜。ゲームが始まる前からイチャつかないで下さいねー』
おいこら、人のこと指さすな。後、別にイチャついてねぇわ。
「にひひ、怒られちゃったっすね」
ったく……誰のせいだと思ってるんだよ。てか、司会をやってる市川さんは俺らが偽造カップルって知ってるだろ。変に茶化すなっての。
『それでは、やっていきましょー!』
俺達は、用意された椅子に座る。真ん中のテーブルには、でっかいコップに注がれたコーラが置かれていた。
いや、マジですげぇ量だな……
「クマパイ! 頑張りましょうね!」
『そうだな』
気合い十分でよろしいことだ。まぁ精々頑張ってくれ。そこそこに期待してるよ。
『それでは! よーい……スタート!』
市川さんの掛け声と共に、理子は一気にコーラを飲み始める。
あ、やばい。理子が口をタコみたいに窄めていて、その顔が面白過ぎて笑っちまいそうだ。
だが、ここで笑って、ストローを離しちまったら失格だから、何としても我慢しないとな。
『はーい。皆さん相手から目を逸らしちゃダメですからねー』
あ、そういやそうだったな。くっそ、まさかこんなトラップがあるなんて、思ってなかったぜ。
しかし……あれだな。
近くで見ると、やっぱりこいつって、結構可愛いよな。まつ毛長ぇし、普段はメイクしているけど、すっぴんの状態でもお世辞抜きで可愛い。
「んーっ、んーっ」
っ!?
やっべぇな……変に意識しちまったせいで、無駄に理子のことが可愛く見えてきちまった。しかも、このゲームの特性上、顔が至近距離過ぎる。
これはやばい。色んな意味でやば過ぎる。
こうなったら、さっさとこのクソゲーを終わらせねぇと!
『うぉーと! ここに来て、コスプレカップルの彼女さんがまさかのリバースだ! テレビだったら間違いなく、キラキラ修正が入るレベルの大バーストだ! 残念ながらここでコスプレカップルは失格です!』
うわぁ……予想はしていたけど、やっぱりやらかしたか。
良かったぁ……コスプレカップルが俺らの後ろに居て。もし、視界に入るところに居たら、間違いなくもらいゲロしてた所だったぜ。
『そしてここで、筋肉モリモリカップルがコーラを飲み干しました! 1抜けです! っと! なんということでしょう! 今度は陽キャカップルの彼氏さんが、ゲロったぞ! これは果たして、限界を超えたのゲロなのか、はたまたもらいゲロなのか!? その真相は本人のみぞ知る! とにかく、ゲロってしまったので陽キャカップルも失格です!』
大惨事じゃねぇかよ……
つか、酷い実況だなおい……もっとオブラートに出来ねぇのかよ。
『さぁ残すのは、あんまり目立ってないカップルのみとなりました! もしクリア出来なければ、筋肉モリモリカップルの優勝となりますが、果たして目立たないカップルはクリア出来るのでしょうか!?』
すんげぇ言われようだな。いや、確かにさ、他の面子に比べれば目立ってないけどさ。それをわざわざ実況で言うかね? 普通。
まぁいい。何にしても、あと少しで飲み終わる。他は気にしないで、ラストスパートをかけちまおう。
『フィニッシュー! 目立たないカップルも見事コーラを飲み干してクリアです!』
あ、あっぶねぇ……何とか飲みきることが出来たぜ。だけど、これはやばい……今ゲップでも出たら、そのまま全部出しちまいそうだ……
「く、クマパイ……理子、もうダメかもしれないっす……」
『耐えろ。辛いのは俺も一緒だ( ´ཫ`)』
「う、うぅ……」
うん。どうやら、理子も相当やばいらしいな。これ、次のゲーム大丈夫か? 何だったらもう、ここでリタイアしてもいいんじゃねぇかな。
つーか、何であの筋肉カップルは平気そうにしてんだよ。外側だけじゃなくて、中身まで筋肉で出来てんのか?
『それでは次のゲームにいってみましょう! 第2ゲームは、姫を落とすな! お姫様抱っこでスクワットサバイバル!』
これまた、頭悪いタイトルだな。
しかも、名前から察するに絶対に俺が不利なゲーム何じゃねぇか?
『ルールを説明します。彼氏さんは、彼女さんをお姫様抱っこして、スクワットをしてもらいます。先に彼女さんを落としてしまったカップルの負けというシンプルなゲームです。なお、現在残っているのは、2カップルしか居ないのでこれが決勝戦となります!』
「クマパイクマパイ。次のゲーム大丈夫っすか?」
『知らん。とりあえず、やれるだけやってみるわ』
「お? 意外と自信ありって感じっすね。にひひ、それじゃ期待しちゃうっすね」
変な期待持つなっての。だいたい、今の発言のどこに自信を感じたんだよ。
「やぁやぁ、下等生物君!」
ん? もしかして、俺に言ってんのか?
「君だよ君。無視するなよ下等生物君」
『なんすか?』
筋肉カップルの彼氏の方が話しかけてくる。
「おいおい失礼だろ。せっかく俺が話しかけてやっているのに、スマホで受け答えなんてさ」
『色々あって、声が出せないんすよ』
つーか、俺よりお前の方が失礼だろ。人のことを下等生物呼ばわりしやがってよ。マジで何なんだよこいつ。
「そうかい。まぁいいさ」
『それで? なんすか?』
「いやいや、どうやら次のゲームは、俺達が圧倒的に有利なようだからね。だから、君達、下等生物に棄権をすることを勧めに来たんだよ」
あぁ……なるほど、そういうことね。
「クマパイ。理子、この人嫌いっす」
同感だ。この人をバカにしきった発言と行動が、めちゃくちゃ腹立つ。
「どうだろう? 棄権してくれるよね?」
『悪いが断る』
「ほぉ? 理由を聞いても?」
『理由は2つ。1つ目は、やる前から勝負を捨てるのは俺の主義に反する。2つ目は、お前がムカつくから』
「なるほど。よく分かったよ。精々頑張ってくれよ。下等生物君」
この野郎。マジでムカつくやつだな。
いいよ、上等じゃねぇか。そのクソ安い挑発に乗ってやるよ。
「クマパイ! さっきのマジかっけぇっすよ! 見直したっすよ!」
『そうか? まぁとりあえず、勝ちにいくぞ』
「はいっす!」
よーし、そんじゃ久々に俺の本気見せてやるよ。覚悟しとけよ、この脳筋野郎。
『それでは! 第2ゲームを始めます! 彼氏さんは準備をして下さい!』
「それじゃ、クマパイ。よろしくっす!」
『任せろΣd=(・ω-`o)』
俺はスマホをしまって、理子をお姫様抱っこで持ち上げる。
おぉ、こいつ思ったより軽いな。ちゃんと飯食ってんのか? でもまぁ、これだったら、何とかなりそうだな。
『では! よーい……スタート!』
市川さんのスタートの合図と共に、会場からカウントの合唱があがる。俺らはそのカウントに合わせて、スクワットを開始する。
『さぁさぁ! 30回を超えましたが、2人ともまだまだ余裕そうです! では、ここで彼女さん達から彼氏さんに、エールを送ってもらいましょう!』
そう言って、市川さんは脳筋野郎の彼女さんにマイクを向ける。
『キレてるよ! ナイス筋肉! 優勝して一緒にプロテイン飲もうね!』
どんなエールだよ……ボディビル大会の声援と勘違いしてんじゃねぇのか?
『ありがとうございます! では、次はこちらの可愛い彼女さんから、エールを頂きましょう!』
『クマパイ! 理子の為に頑張って下さいっす!』
『おぉ! これは元気が出るエールですね! それでは、引き続き彼氏さんには頑張ってもらいましょう!』
市川さんが離れて行った後、理子は俺の耳元に顔を近付けてくる。
「にっひっひ、クマパイ。優勝したら、チューしてあげるので、頑張って下さいっす」
っ!?
こ、こいつ何言ってんだよ。びっくりして、落としそうになっちまったじゃねぇか!
「ほらほら、クマパイ。ファイトっすよ!」
うるせぇっての……
――――――
――――
――
『さぁ! ここで、何と脅威の100回目に到達だ! これは激戦です!』
ち、流石にもう限界に近いな……立ってんのがやっとだ。
「クマパイ! あっちもかなりキツそうな感じっすよ! もうひと踏ん張りっす!」
理子に言われて、ちらりと脳筋野郎の方を見ると、確かに随分と辛そうにしていた。
身体中から、汗をダラダラと流していて、足もプルプルと震えている。
と言っても、やっぱり限界だな。出来て後、2〜3回ってところか? その間にあっちが倒れてくれりゃいいんだけど……
「く、くおぉ……も、もうダメだー!」
脳筋野郎は、そう叫ぶとバタリと倒れた。
『決着ー! 目立たないカップルの優勝です!』
お、終わった……?
「やったっすよ! 優勝っすよ、クマパイ!」
キャッキャとはしゃぐ理子を、ゆっくり降ろしてやってから、どさっと尻もちを着くような感じで崩れ落ちた。
あー、やっべぇな。足に力が入んねぇ。産まれたての子鹿見てぇにガクガクだぜ。
もう無理だ。しばらく自分の力で歩けねぇな。
『これにて、イチャイチャ! ラブラブカップルNO.1決定戦を終了です。それでは最後に優勝したカップルに大きな拍手を!』
会場から拍手を受けながら、俺はスタッフの肩を借りて、ステージから降りた。
やれやれ……何で夏休みにこんな辛いことをしなくちゃいけねぇんだか……
「にひひ〜、クマパイ! かっこよかったっすよ!」
『そりゃどうも(*^^*)』
ま、理子が楽しそうだから良しとするか。
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