第11話

「波のあるプール! 流れるプール! ウォータースライダー! やって来ました、ハワイアイランドー!」


 て、テンション高ぇ……

 え? 何どうしたの? 某ゲームのスーパーハイテンションモードなの? 攻撃力上がっちゃう系?


「ほらほらー、クマパイもテンション上げていこうっすよ!」

『無理だ。俺は眠いのだよ( ¯꒳​¯ )ᐝ』


 さてさて、俺、真田匠馬は猛烈な睡魔に襲われております。

 理由は簡単。まだ日も登らないうちから家を出て、始発で隣の県にある、大型プール施設にやって来たためです。


「もぉー! せっかくのデートなんすから、楽しまなきゃ損っすよ!」

『そうっすねぇ……』


 そう、俺は理子とデートに来ている。夏休み前にした約束だ。

 てっきり、近所のプール施設だと思ってんだが、まさかまさかの隣の県まで来るとはな。

 ち、こんなことなら、安易に約束するんじゃなかったぜ。

 しかも、ここだとスマホが使いにくい。一応、首から下げるタイプの真空パックみたいな、防水のケースには入れてはいるが、邪魔で仕方がない。


「クーマパイ!」

「?」

「どうっすか? 理子の水着姿は」

『似合ってるぞΣd=(・ω-`o)』


 黒と赤のチェック模様のビキニ、下はショートパンツタイプの水着を着ている。俺と一緒に買いに行ったやつだ。


「にひひ〜、なら良かったっす! それじゃあ、とりあえずウォータースライダーから攻めるのはどうすっか?」


 理子はそう言って、この施設で1番の目玉である、ウォータースライダーを指差しながら言った。


『初っ端からハードだな。てか、あれって結構並ぶんじゃね?』

「もぉ、何いってんすか! だから、早めに並ぶんじゃないっすか!」

『そいうもんか?』

「そうっすよ! ほら、早く行くっすよ!」

『わーったよ』


 仕方ない。

 一応、今日は理子とデートってことになってるしな、ならとことん付き合ってやるか。


「にひひっ、それじゃレッツゴーっす!」


 ――――――

 ――――

 ――


 つ、疲れた……いや、違うな。めっちゃ怖かったわ……

 まさか、あのウォータースライダーが、あんなに怖いもんだとは、微塵も思わなかったぜ……


「クマパイ、大丈夫っすか?」

『大丈夫そうに見えるか?』


 いや、マジであれなんなの? 作ったやつもそうだけど、考えたやつも頭悪過ぎだろ。

 不安定な浮き輪に乗せられて、滝のようなところから放り出され、猛スピードで右に左にガンガン振り回されたと思ったら、いきなり真っ暗なところに入ったら、そのまま水面に叩きつけられるとか、ありえないだろ。

 本当にさ、あれの何が面白いん? アトラクションじゃなくて、ただの拷問だろ。


「いやぁ、まさか、クマパイが絶叫系ダメだとは思わなかったっすよ。めんごめんごっす」

『二度と乗らん。後、お前あんまり悪いと思ってないだろ(ㅍ‐ㅍ )』

「にひひ〜、まっさか〜そんな訳ないじゃないっすか〜。ちゃんと悪いと思ってるっすよ」


 驚くほど信用できんな。


「じゃあ次は、流れるプールにするっすか!」



 ちょっと。

 見てわからんかな? 俺、あの凶悪なウォータースライダーのせいで、疲労困憊なんですけど。少し休みたいのですけどー?


「ほらほら、クマパイ! 早くするっすよ!」


 元気100倍の理子は、俺の手を引いて、流れるプールまで連行する。

 はぁ……やれやれ、マジで元気過ぎだろ。


 ――――――

 ――――

 ――


「あぁ〜、これいいっすねぇ」


 同感だ。

 俺はそう伝える為に、グッドラックのさいんで理子に答える。

 俺達は流れるプールに来ている。これが、思った以上に快適だ。

 浮き輪に身を預け、ユラユラとひたすら流され続ける。なんて言うか、いい感じに眠気に誘われ気を抜くと、マジで寝ちまいそうだ。


「って! ダメっすよ!」

『何がだ?』

「このままじゃ、ずっとここに居ちゃいそうじゃないっすか!」

『別によくね?』

「ダメっすよー! せっかくクマパイとのデートなのに、流されて終わるなんて嫌っすよ!」


 そう言って理子は、バタバタと暴れ出す。

 あーやめろやめろ! そんなに暴れたら、絶妙なバランスで乗っている浮き輪から落ちるだろうが!


「クマパイー! 次行きましょうよー!」

『わかたた! 揺らすは、』

「にひひ〜クマパイ、めっちゃ誤字ってるっすよ」


 誰のせいだと思ってんだよ。

 ただでさえ、打ちにくいってのに、こんだけ揺らされたら誤字ぐらいするっての。


「それで次はどこに行くっすか?」

『その前に飯にしようぜ』


 スマホの時計は、ちょうど12時になっている。昼飯時ってやつだ。


「あー確かにお腹空いたっすね。了解っす! それじゃ、ご飯にするっすか!」

『そんじゃ出るかー』


 ちょっとばっかし名残惜しいけど、空腹には勝てん。なんせ、食欲は人間の3大欲求の1つだからな。素直に欲望に従うとするか。


 ――――――

 ――――

 ――


「クマパーイ! 買ってきたっすよー!」


 両手に焼きそばのパックを持って理子がやって来た。俺は、先にフードコートで席取りをしていた。だから、決してパシリにした訳じゃない。


「どうぞっす」

『おぉサンキュー』

「後、これお釣りっす」

『いいよ。取っておけ』

「いいんすか?」

『お使いのお駄賃だ』

「やたやた! クマパイあざっす!」


 そんな大した額じゃないんだから、あんまりはしゃぐなよ。


「いやぁ、奢ってもらった上にお釣りまでくれるなんて、クマパイは太っ腹っすねぇ」

『まぁ、最近それなりのバイト代が入ったからな』


 あ、バイトで思いだした。


『そういや、何でお前はあそこに居たんだ?』

「ん? あそこってどこっすか?」

『遊園地だよ。ヒーローショーに乱入して来ただろ』

「あーあれっすか。あれは水琴みことのおかげっすよ。水琴があの遊園地の招待券を福引で当てたんすよ」


 水琴ってのは、あの一緒にいた子だよな。何回か会ったことがあったな。

 確か、坂本水琴さかもと みことちゃんだったな。結構しっかりとした子で、自由気ままでノリと勢いだけで生きている、じゃじゃ馬のような理子の手綱を握っているオカンみたいな子だ。


『なるほどな。んで? 何であの時、乱入なんてして来たんだよ?』

「それは……ま、クマパイには分からないっすよ」

『なんだよそれ』


 マジで意味がわからん。


「あのー? ちょっといいですか?」


 いきなり、知らない女の人が俺達に話しかけて来た。


「えっと……なんですか?」

「お2人ってカップルですか?」

「ふえ!?」


 おいおい、急に何言ってんだこの人。突拍子もないにも程があるだろ。


「あ、すいません。私、この後にやるイベントの係の者です。市川っていいます」

「あ、どうもです」


 割と丁寧に挨拶されたので、俺も理子も思わず頭を下げてしまう。


「それで、さっきの話の続きなんですけど、2人はカップルですか?」

『違います』

「ちょ、クマパイ! 否定が早過ぎっすよ!?」

『別に間違ってないんだからいいだろ』

「そうなんっすけど! そうなんっすけどー!」


 理子は両腕をブンブンと振り回しながら、アニメとかでよくある、むきー! ってな感じでぷりぷりと怒っている。

 ったく、一体何が気に入らないんだか……本当に分かんねぇやつだな。


「ふーん。なるほどなるほど」

『何がなるほど、なんでんですか?』

「いや、何でもないですよ。それより、あなたはどうして、スマホで会話しているんですか?」

『少し事情があって、声を出すことが出来ないんですよ』

「すいません……」

『いや、気にしなくていいですよ』


 まぁ、こんなのよくあることだしな。何だったら、俺にとっちゃ日常みたいなもんだ。だからまぁ、全く気にしてない。


『それよりも、カップルがどうとか一体何なんですか?』

「実はこの後、カップルイベントがあるんですよ。その名も、イチャイチャ! ラブラブカップルNO.1決定戦! です」


 な、何ともまぁ……頭の悪そうな名前だな。多分考えたやつは、IQ3くらいだな。


「ただ、思ったより参加者が少なくて、今から参加出来るカップルを探していたんですよ」


 なるほどな。

 まぁ、そんな頭悪いイベントに参加するやつらなんて、そうそう居ないだろうな。


「それでどうでしょう? この際、偽造カップルでもいいので、参加してくれませんかね?」


 偽造カップルって……そんなでいいのか?

 つーか、それ以前に普通に参加したくねぇわ。


「はいっす! 理子、喜んで参加させてもらうっす!」

『おい、何勝手に決めてんだよ。俺は嫌だぞ』

「えー!? どうしてっすか!」

『当たり前だ。何でそんな、訳の分からんイベントに参加しなきゃいけないんだよ。大体、俺らはカップルじゃないだろ』

「だから、偽造カップルでもいいって言ってくれているじゃないっすか〜」

『それでも嫌だ。俺に何のメリットがあるんだよ』

「むぅー! クマパイのバカ!」


 こいつ……仮にも先輩でもある俺にバカって言いやがった。

 理子じゃなかったら、ぶん殴ってやるところだぞ。


「あの一応、優勝者には特典として、全国共通の焼肉食べ放題券があるんですけど」

『出ます!Σd=(・ω-`o)』

「決断早くないっすか!?」


 うるせぇ、男子高校生には焼肉食べ放題は正義なんだよ。


「むぅ……何か釈然としないっすけど、まぁこの際もういいっす……」

「決まりですね。イベントの開始は、1時半からです。場所は大プールがあるステージですので、遅れないで来て下さいね」

「了解っす!」

『了解です(`・ω・´)ゝ』


 よーし、絶対に優勝して焼肉食べ放題券をゲットしてやるぜ!

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