第5話
「クマパイ、クマパイ! こんなのはどうすっか?」
理子は、そう言って更衣室のカーテンを開ける。現れたのは、赤と白を基調としたビキニ姿の理子。胸の部分には、ピンク色のヒラヒラとしたフリルが付いていて、いい感じの可愛さがある。
理子のイメージによく合っていて、お世辞抜きで可愛い。
『うん。悪くないと思うぞ』
俺達は、理子の水着を選んでいる最中だ。何だかんだで、選び始めてから1時間が経とうとしている。
ぶっちゃけ、飽き始めた頃なんだが、眼福には変わりないから文句は言えない。
「むぅ……ちょっと反応がイマイチっすね」
『そんな事ないぞ。自信を持てよ。本当に似合ってるぞ(´ー`*)』
「まぁ似合ってるのは、理子自身が1番分かっているんすけど、やっぱりクマパイの微妙なのでこれはやめとくっす」
うーん。本当にいいと思うんだけどなぁ。
てか、自分が似合ってると思うんだったら、それに決めればいいのに。
「んじゃ、また着替えるんでちょっと待ってて下さいっす」
えぇ……まだやるのかよ。
俺、そろそろ朝姫さんに頼まれたお使い終わらせたいんだけどなぁ。
「クマパイー、着替え終わったんで、開けるっすよー」
ん? 今度は意外と早かったな。
「じゃじゃーん! どうっすか?」
おぉ……こりゃすげぇな。
黒と赤のチェック模様のビキニで、下は俺好みのショートパンツだ。
はっきり言って、今までの中じゃ断トツで1番似合っている。
あまりにも似合い過ぎて、一瞬見蕩れてしまったまでである。
「ほうほう。その反応はかなり良いっぽいっすねぇ」
『あぁ、一言で現すと最高だなΣd=(・ω-`o)』
「にひひー、嬉しいっす! それじゃ、クマパイから最高って言ってもらえたんで、これに決めちゃうっす!」
『なぁ何でもいいんだが、俺の好みに合わせていいのか? 理子だったら、もっと似合うやつとかあるだろ』
確かに意見を聞かせてくれとはいわれたけど、あくまでそれは参考程度だ。実際に着るのは理子なんだから、最終的には理子が好きな物にすればいいのにさ。
「はぁ……クマパイ分かってないっすねぇ」
『何がだよ?(´・ω・`)』
「もういいっすよ。こんなところもクマパイっぽいっすもんね」
え? 何で呆れられてんだ俺は?
「とりあえず、これ買ってくるんでクマパイは外で待ってて下さいっす」
『了解だ(*`・ω・)ゞ』
そろそろ2時か。やれやれ……こりゃ思ったより時間食っちまったな。こっから、頼まれた物を買うとなると、お使いが終わるのは早くて5時前くらいか?
まぁ付き合ってもらってる手前、文句は言えないか。
「お待たせっす!」
『んにゃ、それほど待ってねぇよ』
「お? クマパイにしては、珍しく気の利いたセリフっすね」
『お前は、俺のことを何だと思ってんだよ……まぁいいけどさ。ほら、さっさと行こうぜ』
「了解っす!」
――――――
――――
――
「いやぁ、やっと終わったっすね」
『そうだな。流石にこれを1人だと大変だったわ。助かったよ』
「にひひー、クマパイの助けになったなら、良かったっすよ」
分かっていたことだけど手荷物が大量だ。理子が半分持ってくれなかったら、両手が塞がってスマホで文字が打てなくなっていたところだ。
「そういえば、あのピンクの戦車とか良かったんすか?」
『気にすんな。あんなもん探したところで、見つかったりしねぇから』
「まぁそれもそうっすねぇ」
やれやれ……朝姫さんってば、どさくさに紛れて変なもんを頼みやがって。ピンクの戦車に飽き足らず、ショットガン型のスタンガンとか杖の仕込み刀とか、訳の分からんもんのオンパレードじゃねぇかよ。
マジで、あの人戦争でもする気かよ。とりあえず、帰ったら文句言ってやる。
「ねぇクマパイ?」
『どした?(-ω-?)』
「クマパイは、夏休みの予定とか決まってるんすか?」
『いや、まだ何も決まってねぇぞ』
てか、今まで夏休みの予定とかまともにあった試しが無いんだよな。
何となく適当にダラダラと1日を過ごして行くうちに終わっているのが定番だ。
「なら、夏休みは理子と遊びに行きませんか? ほら、せっかく水着も買ったっすからプールとか海に行くのはどうっすか?」
『まぁ予定もないし、別にいいぞ。あ、ただ海はちょっと嫌だな。プールだったら全然いいぞ』
「本当っすか! じゃあ約束っすよ!」
理子は子供のように飛び跳ねながら喜ぶ。よっぽどプールに行けることが嬉しいっぽいな。
「にひひー、楽しみっす」
『理子が楽しそうでなによりだよ』
「むぅ……何かクマパイは、そんなに楽しそうじゃないっすね」
『そんなことないぞ。何せ夏休みに予定が出来るのは中々無いことだからな』
「悲しいこと言わないで下さいっすよ……理子に言ってくれれば何時でも付き合うっすよ」
『そうか? んじゃ、気が向いたらお願いするよ』
「はいっす! 任せて下さいっす!」
よしよし、これで今年の夏休みは暇をせずに済みそうだな。
「あれ? 匠馬じゃん。何してんの?」
後ろから名前を呼ばれて振り返ってみると、そこには制服姿の歌夜がいた。時間帯的に今が帰りなんだろう。
「あ、歌夜先輩じゃないっすか。お疲れ様っす!」
「あぁ理子ちゃんも居たんだ」
「はいっす。クマパイと遊んでいたんっすよ」
「ちょっと匠馬。あんた停学中でしょ? なのに何で出歩いているのよ。しかも、後輩を引き連れちゃってさ。随分といいご身分ね」
うわぁ……歌夜のやつ怒ってねぇか? こりゃ、早いとこ誤解を解いておいた方がいいな。
『ちょい待て、誤解だ誤解。俺は朝姫さんにお使いを頼まれたんだよ。んで理子とは、たまたま会ってお使いを手伝ってもらったんだよ』
「結局、遊び歩いてたんじゃない」
『何でそうなるんだよ┐(´д`)┌』
「うっさい。口答えしないの」
『へいへい……分かりましたよ』
あぁ……こりゃダメだ。歌夜がこうなったら、もう何言っても聞きやしねぇんだよなぁ。
「おぉ、クマパイ何か大変そうっすね」
ったく、誰のせいだと思ってんだよ……
「それじゃ、理子はこの辺で失礼するっすね!」
理子はそう言って、持っていてくれた荷物を俺に手渡してくる。
ありゃりゃ、これで両手が塞がってしまった。
「クマパイ! 約束忘れないで下さいっすよ! ではでは、さよならっすー!」
俺は手を振って、帰って行く理子に腕を上げてじゃあなの挨拶をしながら見送る。歌夜も同じように手を軽く上げて見送っていた。
「さて、私達も帰ろっか」
歌夜の言葉に頷いて、2人で帰路に着く。
「はい」
ん? 何だ?
歌夜は、右手を差し出してくる。俺は意味が分からず、首を傾げた。
「片方持つわよ。早く貸しなさい」
あぁ、そういうことね。
俺は片方の荷物を歌夜に手渡した。ふぅ、助かるわ。これでスマホを操作出来る。
「随分買ったわね」
『あぁ、結構大変だったぞ(o´Д`)』
「全く相変わらず、お姉ちゃんは人使いが荒いんだから」
『まぁ今に始まった事じゃないからな。それにもう慣れたから大した事じゃないよ』
「それもそうね」
むしろ、今日に関しちゃまだマシな方だしな。
「それで? 理子ちゃんとは、何の約束したの?」
『あぁ、夏休みにプールに行く約束したんだよ』
「随分と唐突ね」
『実は今日、あいつ水着を買うのを手伝ったんだよ。何か俺に意見を聞きたかったんだと』
「やっぱり、遊び歩いてたんじゃないの」
確かに水着買いに行ったことに関しちゃ、否定出来ねぇけどよ、何でそんなに不機嫌になるんだよ。
「それで? 行くの?」
『まぁ約束しちまったからな』
「ふーん……」
何だよ。また不機嫌そうな顔してんだよ。しかも何か言いたげな顔しやがって。
「ねぇ、私キャンプに行きたい」
『どうした急に?』
「別に。ほら、この間お姉ちゃんがキャンプ用品もらってきたじゃない。せっかくだから使いたいなって思ってさ」
あぁ、そういやそんなこともあったな。
誰からもらったか知らねぇけど、キャンプ用品一式をもらって来たんだよな。
『まぁあれだけの物を使わないのは、勿体ないしな。いいぜ、んじゃ行くか』
「うん」
『ただ、あれだな。キャンプ用品を持って、電車とかバスはきついよな。どうする?』
「あー、原付で行くのは?」
『なるほどな。久々に乗るのも悪くねぇかもな。よし、んじゃ原付で行くかd(˙꒳˙* )』
「ふふっ、オッケー」
へへっ、今年の夏休みは中々楽しくなりそうだな。
ちょっと気が早いけど、ワクワクしてきたぜ。
「あ、因みに今日の夕飯は何?」
『カレーだ』
「待って、今からカレー作る気?」
『まぁそうなるな』
「時間かかるじゃない。私、結構お腹空いているんだけど」
『なるべく急ぐから勘弁してくれ( ′д`)』
「はぁもう……いいわよ。手伝ってあげる」
『おぉ! そいつは有難い話だ(*ˊ˘ˋ*)』
「全くもう……ほら、それじゃさっさと帰って作るわよ」
『了解だ(*`・ω・)ゞ』
――――――
――――
――
―理子視点―
「にひひっ」
あぁもう、どうしよう。嬉しくて笑いが止まらない。
今日は最高についている。まさか、クマパイとデート出来るなんてさ。しかも、夏休みに一緒にプールに行く約束までしちゃった!
いやぁ、学校もたまにはサボってみるのもいいものだねぇ。
でも、最後がちょっと残念だったかな。あのタイミングで歌夜先輩に会っちゃうなんてさ。
「はぁ……どうせだったら、最後までクマパイと一緒に居たかったなぁ……」
っと、いけないいけない。こんな事で落ち込んでいちゃダメだよね。切り替えて行かなきゃ!
クマパイと夏休みにプールデートの約束が出来たってことで、今は満足しておこう。
「にひ、にひひっ」
あぁ、やっぱりダメだな。思い出すだけで、ニヤニヤが止まらない。
どうしよもないくらい、理子はクマパイの事が好きだ。自分で制御出来ないくらいに。
きっかけは、一目惚れだった。嘘みたいな話だけど本当だ。
入学式の時、一目見た瞬間にまるで雷に撃たれたかのようにビビっときたんだよね。マジで漫画の世界かよって話だけどさ。
そっから、すぐにクマパイのこと調べてさ、上級生に色々聞きまくって、やっとクマパイのことを知ったんだよね。
でもまさか、声が出せないって知った時は驚いたな。
だけど、話してみたらすごく話しやすくて面白くて、それでもってすごく優しい人。
本当は、すぐにでも告っちゃおうと思ったけど、1つ誤算があった。そう、歌夜先輩だ。
すぐに分かった。歌夜先輩は、クマパイの事が好きだ。ただ、歌夜先輩本人は気付いてないっぽいけど。
あ、当然クマパイは歌夜先輩の好意に全く気付いてない。
理子的にはラッキーなことなんだけど、残念なことに理子の気持ちにも全然気付いてないんだよねぇ。
本当にクマパイは唐変木で困ったもんだよ。
まぁそんなわけで、告るのは一旦やめることにした。だって、歌夜先輩みたいな可愛い人が近くに居たら、ぽっと出の理子に勝ち目ないもんね。だから、時間をかけてゆっくりとクマパイを落とすことに決めたんだ。
「にひっ、理子は絶対に負けないっすよ。歌夜先輩!」
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