第3話
いや、まじかぁ……
家の前の近くをうろついていたからって、普通拾ってくるかよ。本当に冗談は勘弁してほしい。夢なんだったら、早いとこ覚めてくれ。
はぁ……ダメだな。現実を受け入れないとだな。よし、ここはポジティブに考えよう。
家の前をうろついていた、女の子を拾ってきちゃう朝姫さんの行動力。そして、予想の遥か斜め上をいく意外性を素直に称賛しよう。
うん、それがいい。じゃないと、俺のメンタルが持たん。
「何でそんなに清々しい顔してんの?」
『なぁに、現実を受け入れポジティブ思考に切り替えただけさ(❁*ᵕᴗᵕ )』
「残念だけど、それは現実逃避しているのと、ほとんど変わらないわよ……」
『よせ、それ以上言うんじゃない。せっかく、いい感じの逃げ道を作ったんだから』
「もうその発言で、全てが台無しになってるわよ」
はぁ……結局、2人揃って大きなため息と一緒に頭を抱えて突っ伏す。
もう嫌だ。どうしようね。
「へいへーい! どうしたんだい2人共? 元気がないぞー! テンションあげていこうぜー! ポンポーン!」
「ポンポーン! なのだ!」
「お願いだから、少し黙ってて……」
『右に同じく』
「何だ何だー。つれないぞ2人共ー!」
「そうだそうだなのだー!」
うわぁ……何だこいつら、くっそうぜぇな。
「ねぇ匠馬。私さ、何だかだんだん腹が立ってきたんだけど」
『奇遇だな。実は俺もだ』
「どうする匠馬? やっちゃう?」
『いいねぇ( ¯ω¯ )その話乗った』
2人で顔を見渡せニヤリと笑う。
いやぁ、歌夜のやつ悪い顔してるなぁ。まぁ多分、俺も同じくらい悪い顔してるんだろうげどさ。
『それで? どっちを潰す?』
「ちょいちょい匠馬さんや。何を言っているんですか。どっちも潰すに決まってるじゃない」
『ほほう。お主、中々に悪よのぉ( ・́∀・̀)』
「ふふっ、こういうの匠馬も結構好きなくせに」
『まぁな』
そして、またお互いにすごっい悪い顔でニヤッと笑う。
へへっ、やっべぇな。久々に面白くなってきやがったな。
『それで? 作戦はどうする?』
「そうね。とりあえず、お姉ちゃんの方は匠馬に任せるわ。私はあっちの眼帯女をやるわ」
『了解した。んじゃ、朝姫さんにはいつも通り、シミュレーションOAでいく』
「オッケー。しくじんないでよ」
『任せろ(*•̀ㅂ•́)و』
さてと、そんじゃ早速取り掛かるとしますかな。
シミュレーションOAは、オーバーアルコールの略称だ。内容はその名の通り、思いっきりアルコールを摂取させて、酔い潰すってものだ。
実は、朝姫さんは意外と酒が弱い。大体、缶ビール3本くらい飲むとそれなりに出来上がる。
ただ、この人は出来上がった後も地味に飲み続けられるタイプの人間だ。だから、酔い潰すためには、キャパ量のメーターを一撃で振り切る必要がある。そのために開発されたのが、このシミュレーションOAだ。
さて、それじゃレシピを紹介しよう。
まずは、普通のグラスに氷を4つ入れます。その後に氷半個分までアルコール度数40度のウォッカを入れます。さらにアルコール度数55度のテキーラを氷半個分入れます。ここで、マゼラーで軽く混ぜるのがポイントです。仕上げにアルコール度数96度のスピリタスを入れてから、ほんの少しの優しさでオレンジジュースを入れたら完成です。どんなアル中もこれを飲めば1発KOの特製カクテルだ。名付けて、デットエンドってところかな。
注)本当に危険なので絶対に真似しないで下さい!
『朝姫さん。これは俺からの気持ちです』
「お? 何だ何だ? 急にどうしたのかな?」
『いやぁ、朝姫さんには普段お世話になっているので感謝の印ですよ(❁*ᵕᴗᵕ )』
「なるほどねぇ。匠馬も成長したんだねぇ。それじゃ、有難く頂こうかな」
『はい。是非とも一気に飲みほして下さいませ』
「一気飲みね。まっかせてよ!」
そう言って、朝姫さんはデットエンドを一気に飲みほした。
「きゅう……」
「あ、アサ姉っ! 大丈夫なのだ!?」
計画通りだぁ!
案の定、朝姫さんは気を失うように酔い潰れて机にぶっ倒れた。
『おやおや、どうやら寝てしまったようですね』
「さ、真田君……? アサ姉にいったい何したのだ……?」
『嫌だなぁ。何もしてないですよ翼ちゃん(*^^*)』
「いやいや、そんな悪そうな顔しながら言われても、全く信用出来ないのだ……」
おっと、いけないいけない。どうやら、嬉しさのあまり顔に出ていたようだ。気をつけないとな。と言っても、もう遅いか。
「あれれー? お姉ちゃん寝ちゃったの? もぉう仕方ないだからー。匠馬、悪いけどお姉ちゃんを寝室まで運んであげて」
『了解だ( ̄^ ̄)ゞ』
「こっちはこっちで、すんごいわざとらしいのだ……セリフが思いっきり棒読みなのだ……」
「ふふっ、何を言っているの? もぉ翼ちゃんったら面白いんだからぁ」
「いきなりどうしたのだ? 気持ち悪いのだ」
「ふふっ、気持ち悪いとか、そんな酷いこと言わないでよー。私たち友達でしょ?」
「ボクは君と友達になった覚えはないのだ!」
「まぁまぁそう言わないでよ。それよりほら。デザートにシュークリームがあるから食べていきなよ」
お? この真っ赤に染まったシュークリーム。なるほどな、翼ちゃんには、シミュレーションDFか。
「な、何なのだ……? これは……?」
「だからー。シュークリームだってぇ」
「ううう嘘をつくななのだ! こんな赤いシュークリームがあってたまるのかなのだ! こんなの見るからに危険なのだ!」
危険ねぇ。うんまぁ、確かにその通りだ。
シミュレーションDFとは、デンジャラスファイヤーの略称だ。
あのシュークリームには、世界各国から取り寄せた、激辛唐辛子や激辛香辛料などなどをふんだんに使った、歌夜特製シュークリームだ。名前は確か、天使の微笑みだったかな。
因みに、歌夜は超が付くほど辛党である。もはや舌の感覚がバグっているレベルでやばいくらいに。
しかも、歌夜は自分が異常なほど辛党であることを自覚している。それが分かったうえで、このシュークリームを作ったんだ。全く、性格が悪いにもほどがあるよな。
「ほらほらぁ、文句言わずに早く食べなよ」
「い、嫌だなのだ!」
「こら! 暴れんなっての!」
「や、やめるのだー!」
「ち、仕方ない。匠馬、眼帯女を押さえつけなさい! 後は私が無理矢理口に突っ込んでやるから!」
よし来た。任せろ歌夜!
俺は、すっと翼ちゃんの後ろに回り込んで、動けないように羽交い締めにする。
「ちょ、真田君……? な、何するのだ……?」
『スマンが諦めてくれ(-人-)』
「じょ、冗談だよね?」
『大丈夫だ。死にはしないから。多分な……』
「い、いやぁー!」
歌夜は、涙目になっている翼ちゃんの口に超激辛シュークリーム(天使の微笑み)を容赦なく突っ込んだ。
口に突っ込まれた翼ちゃんは、初めはバタバタと暴れたが、すぐに糸が切れたかのように動かなくなる。見ると、白目を向いて失神していた。
おぉ……相変わらずものすげぇな。俺も1回食った時、同じように失神したのを思い出すわ。
「さて、これでミッションコンプリートね」
『あぁ完璧だな』
「それじゃ、匠馬はお姉ちゃんを寝室まで運んでおいて。私は、この眼帯女をタクシーで家まで送っておくから」
『住所とか分かるのか?』
「分からないわよ。でもまぁ、財布の中とかに保険証なり何かしら住所が分かるものが入っているでしょ」
『あぁなるほどな。そんじゃ、そっちは任せるわ』
「はいよー。あ、お風呂湧いているから、お姉ちゃん運び終わったら、先に入っちゃっていいから」
『オッケー』
そう言って、俺は朝姫さんを担いで寝室まで運んで行った。
やれやれ、今日は疲れたな。明日から停学で休みなんだが、もう眠てぇからさっさと寝ちまうとするか。
あ、そういや朝姫さんに停学になったの言ってねぇわ。まぁ仕方ねぇ明日の朝にでも言えばいいか。多分大丈夫だと思うけど、怒られねぇといいなぁ……
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