二節 第七話 一難去って
朝日も昇り人々が街で溢れた。遠くからは大鐘の音が響いていた。
───あれから数日が経った。あの日からというものアイリスがやけに私の身の回りの面倒を見ようとしてくる。掃除、洗濯、料理。気付くと全て終わっているなんて事はしょっちゅうあった。本人曰く、私の力になりたいらしい。
まぁ、助かってはいるわね。私より料理は上手だし、仕事は早いし。何より私の役に立てて嬉しいみたいでいつも楽しそうにこなしてる。そんなアイリスを見ていたらなんだかこっちまで嬉しくなっちゃうわ。
「ほんと、いつも楽しそうね……」
「え? リリーネさん、何か言いました?」
不意に口から漏れてしまった。アイリスはキョトンとした顔をした。
「あ……ごめんなさい。ただの独り言よ」
「……? ふふふ…変なリリーネさん」
何故かドキッとしてしまったリリーネは頬を赤らめ顔を逸らした。
───なんで私ドキッとしてんの!? ……た、たしかにアイリスは可愛いしスタイルも良くて声も綺麗だけどさ……って何考えてんの私……!?
その時、扉をノックする音が聞こえた。アイリスが扉を開けるとそこには見知らぬ男と数名の鎧を着た人と女性が立っていた。その者は鎧を身に纏い、腰には剣が携えてあった。先頭に立つ男は兜を外していたが鎧を見る限りこの隊の長であることが容易に想像できた。
「この者で間違いないか?」
「ええ……! 確かにこの二人です!」
鎧を纏った男は女性に確認をしていた。よく見ると女性は何かに怯えるように手が震えていた。そして先頭の男は横にいた騎士に筒状の紙を渡され紐を解き、二人の前に突き出してきた。
「貴様らには出頭命令が出ている。大人しく着いてきてもらおう」
それは国からの手配状だった。男はアイリスの手首を強引に捕まえ連れ去ろうとした。アイリスは痛がっていた。リリーネはすぐに男の手首を掴み返し鋭い眼光で睨みつけた。
「やめなさいよ……! 痛がってるじゃない!」
「ほう、悪魔でも痛みを感じるのだな。」
「……っ!? どういう意味よ……!」
「この間、街を襲撃したのはお前たち悪魔の仕業なのだろう?」
男の目には生気を感じなかった。何者かに操られている。そんな気がした。
「そんなわけ───」
「口答えをするな。貴様らが街で暴れ回り禍々しい悪魔の姿に変貌したという目撃情報もある。
それに加え貴様らは先日より前の日にこの街を訪れた余所者という証拠もある。これ以上貴様らを連行するのに必要な理由があるか?」
それは言い掛かりだった。だが当たっている部分もあった。全てを言い返すことが出来なかった。これ以上話していても何れ連行される。もしそうなった場合拷問は免れない。最悪の場合は処刑だ。そう思ったリリーネは鎧の男の鳩尾を掌底打ちして吹き飛ばした。
「アイリス!!」
リリーネはアイリスを抱え上げ窓を割り向かいの屋根に飛び出した。宿の前には騎士が待機していた。
「追いかけろ!! なんとしてでも捕まえろ!!」
リリーネは屋根を伝い街の路地に入った。先回りしてくる騎士を回り角を使い錯乱させるが先回りされた。怖がるアイリスを宥めながら、波のように押し寄せる騎士たちを飛び越えていった。
───このまま走ってても埒が明かない……!どうすれば……
すると目の前にローブを被った女性が手招きをしてこちらを呼んでいた。
「こっちこっち! 早く!!」
すると彼女はワープホールのようなものを作った。
───っ!? 魔力!? もしかしたら……!
味方かどうかは分からなかったが、一か八かの賭けに出てみることにした。リリーネはすぐに飛び込み、ローブの女性もその後に続いた。
そこを抜けると周りには街の面影はなく広い草原が広がっていた。
「いやー! 危ないところだったな〜」
その女性は軽々とした声で言ってきた。
「助けてくれてありがとう」
「あっはっはっは! 困った時はお互い様だぜ!」
「それはそうとあなたは一体誰なの?それにさっきの…魔力を感じた。もしかしてあなた」
「おおっと! それは答えられねー質問だぜ。まぁ少なくとも敵ではないぜ! 今のところは、な……」
最後の方は聞き取れなかった。聞き直そうとすると女性は慌てた様子でまたワープホールでいなくなってしまった。
「アイリス大丈夫? 怪我はない?」
「はい! リリーネさんがいっぱい守ってくれましたから!」
「良かったわ」
「あれ? さっきの人は……?」
「なんか、慌ててどっかに行っちゃったわ」
「そうなんですね……私まだお礼してないです……」
「それにしても、また泊まるところが無くなったわ……」
リリーネは今まで様々な場所を転々としておりその度に街に長居せずに時に野宿などを繰り返してきていた。
自分一人なら野宿でも構わなかったが、孅いアイリスを外で寝かせるなんてさせたくなかった。落胆しているとアイリスの表情が暗くなり瞳が涙で濡れた。
「ごめんなさい……私のせいなんですよね…」
アイリスは震えた声で呟いた。あの日、自分が何をしていたのか記憶が断片的に無くなっていた。私と星を見た後の記憶がなく"気がついたらリリーネの膝の上にいた”と言っていた。
リリーネは自分の言葉選びが悪い事に気づき慌ててフォローした。アイリスは記憶を失ったせいなのか、すぐに泣いてしまう癖があった。だが無理もない。そんな彼女をリリーネは優しく抱きしめ頭を撫でてあげた。この子は感情豊かで喜怒哀楽が激しくとても感受性が強い子だと改めて思った。
「あれ……? なんですか?これ。」
アイリスが持っていたのは手紙だった。いつの間にか持っていたその手紙にはこう書いてあった。
“やぁ。さっきはいきなりいなくなってすまない! こう見えて色々と忙しくてね。それはそうと君たちこれから行く宛てがないだろう? あたしの所に来るといい! しばらく匿ってあげよう! 場所は以下に記した! では無事を祈っている。
ニール=アストロノーズ“
アイリスは文字を読むことが出来ないため読み聞かせた。
リリーネは思った。“胡散臭い“と。リリーネは引きつって笑った。
「わぁ! 良かったですね! リリーネさん!」
「え?」
「きっとさっきの人ですよ!!」
その顔は太陽のように輝いていた。疑うことを知らないアイリスにとっては救世主のに感じたのだろう。リリーネは顎に手を当て一人考え込む。
───正直言ってこの手紙はなんか怪しいけどあれは私と同じような魔力を感じた。もしあの女が私と同じような悪魔の契約者だとしたら。何とか仲間になってくれないかしら……今は一人でも多く戦力が欲しい。またあんな奴が来たら……
「リリーネさーん!」
「うぇっ!? な、なに!?」
「ごめんなさい。ここなんて書いてあるんですか?」
「ああ、そうね。場所を確認してなかったわね。どれどれ……」
ひっくり返るような叫び声を上げた。
「えええぇぇぇぇ!!!!????」
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