第六話  本当の悪魔


ガブリルはアイリスに向けて光線を放った。そして放たれた光線はアイリスの心臓を無慈悲に貫き、地面に血溜まりを作った。体に空いた穴からは向こう側が見えた。普通の人間に光の速さなど反応出来るはずなどなかった。やがて意識が無くなり全身が弛緩し地面へと叩きつけられた。


慟哭がリリーネの喉を貫く。涙で歪む視界には炎で赤く染った夜空。逃げ惑う人々。

そして血溜まりに倒れ込むアイリスの姿。


「あ……ああ……」


リリーネは目を見開きその光景を見ることしか出来なかった。死んだ。そう思った。やっと救えた命すらも無くなった。また、守れなかった。


もうリリーネに残されたものは暗く深い絶望だけだった。彼女の心は落ちた硝子玉のように砕け散った。


「さぁ、次はあなたの番です」


ガブリルはリリーネの方へ振り向き、ゆっくりと歩み寄ってきた。


リリーネは逃げれるような状態でもなければそんな考えすら湧かなかった。


ガブリルはリリーネの目の前に立ち、手を伸ばしてきた。

リリーネは虚ろな眼差しで天使の手を見た。


───こんなのどうやったって勝てるわけない……もういっそ……このまま……


そう思った瞬間、ガブリルの腕が切断された。


「ぐぁっ…!! 誰だ───」


ガブリルの顔は禍々しい拳で潰され勢いよく吹き飛んだ。


『全く手間のかかる契約者だ』


リリーネにははっきりと聞こえた。ガブリルの声でもない。自身の悪魔でもない別な存在。暗く深い闇の底から嘲笑う様な声だ。そしてクルルゥっと喉がなる獣のような吐息と翼の羽ばたく音が聞こえる。


「……っ!?」


リリーネは言葉を失った。その目に映ったのは、本来の姿とは掛け離れた姿をしたアイリスだった。頭にはくの字に曲がった角、背中には爪の付いた大きな羽、手足は鱗で覆われ鋭い爪あった。更に長い尻尾が生えていた。


「アイ……リ、ス……?」


驚愕のあまり自分の目を疑った。人間の様な姿に禍々しい鱗や翼。そして理性を完全に失い獰猛な動物のようだった。


「お前は……何だ……!? 何なんだ……!!」


ガブリルは怒りを露わにし、顔と腕を再生させた。


「グアアアアアア!!!!」


それは何かに飢えてるような雄叫びだった。もはや人ではなかった。悪魔に取り憑かれた様だった。


「まぁ何でも良いでしょう……! 貴方が何者であろうと、僕の邪魔をする者は処刑するまでです……!」


ガブリルは先程よりも強力な光線で攻めてくる。しかし、それを躱す事無く猪突猛進し天使を蹴り飛ばした。


「がはっ……!」


ガブリルは口から血を吐き出した。


「何故だ……!何故避けない……!?」


ガブリルは驚愕した。確実に攻撃は当たり全身を貫いていた。だが再生速度が早く、傷はすぐに塞がってしまったのだ。

通常は天使の攻撃には魔の力を浄化する力がある。それすらも意味をなさない程の膨大な魔力が”それ”にはあった。


ガブリルは立ち上がり、再び攻撃を仕掛けようとするが、”それ”は先にガブリルの顔面を拳で殴りつけそのまま地面に叩きつけた。

その時点で完全に動きが止まっていた。それもそのはず。天使の頭は水風船のように弾けていた。


だが攻撃の手を緩めていない。頭が無くなったら次は胸部を殴り、腕を引きちぎった。辺りには骨の折れる音と肉の潰れる音が響き、血飛沫が散った。何度も繰り返しているうちに体は原型を失っていった。”それ”は狂気に染まった瞳で楽しそうに笑っていた。


リリーネは少しづつ戻ってきた魔力で立ち上がれるように足の治癒を優先し肩の瓦礫を引き抜いた。リリーネには耐えられなかった。元気で溢れた声。満面の笑み。優しい言葉遣い。この世の穢れを知らないような純粋な瞳。そんな彼女が変わりた果てた姿でいつもとは違う笑顔で殺しを楽しんでいる。これ程胸が痛くなる思いはない。


「もうやめて……!もういいから……!」


折れて激痛の走る腕で必死にアイリスを抱き締めた。”それ”はまだ止まらない。殴りつける衝撃でズキズキと腕が痛かった。それでも元の姿に戻したい。その一心で必死にしがみついた。


「お願い……! 戻って……! アイリス……!! アイリス!!!」


すると、ピタッと動きが止まった。


「リ…リ、リーネ…?」


「……っ!?」


「リ、リリーネさん……?」


「アイリス……! 私はここよ……!」


「リリーネ…さん……これ……私が……」


アイリスは見てしまった。目下に広がる血溜まり。バラバラに潰された飛び散った肉片。それを隠すようにリリーネは彼女の顔を自分の胸で抱いた。意識を取り戻したアイリスの目から大粒の涙が溢れた。


「ごめんね……ごめんね……怖かったよね……私が守ってあげれなかった……」


アイリスは泣きじゃくりにながらリリーネの名前を呼び続けた。それにつられてリリーネも涙を浮かべた。アイリスの体はゆっくりと元の姿に戻っていった。


「もう大丈夫……もう何も心配しなくていいのよ……!」


「リリーネさん……!」


アイリスはリリーネにギュッとしがみついた。リリーネは優しく頭を撫でるとゆっくりと眠ってしまった。他の天使の兵はガブリルの存在が消えると一斉に消えた。

しばらく経ってアイリスはリリーネの膝の上で目を覚ました。


「あれ……? 私……寝ちゃってました……?」


「おはよう、アイリス」


「リリーネさん……」


アイリスはゆっくり起き上がると周りの惨状を確認した。


「なんで私こんな所で寝てしまったのでしょう……?」


「きっと疲れていたのね」


───この様子だとさっきのことは覚えてなさそうね。まぁ不幸中の幸いだわ。

リリーネは立ち上がり手を差し伸べた。


「アイリス、立てる……?」


「はい……!」


二人は街を見渡した。リリーネは感覚を研ぎ澄ませたが天使の存在を感知できなかった。天使はいなくなったが、街は荒れ果てており、たくさんの被害者が出た。


「とにかく街の様子を見に行きましょう。」


とリリーネが歩き出そうとすると急に体から力が抜け、目眩がしてふらっと倒れそうになった。


───あれ私ったらどうしゃったの……


「おわっと……! 大丈夫ですかリリーネさん!?」


「ごめんなさい……ちょっと疲れちゃったみたい」


「分かりました! 私に任せてください!!」


倒れそうになったリリーネを支えるとアイリスは徐にしゃがむと目をキラキラと輝かせ、ふんっと鼻息を大きく立てて来た。


「さぁ! どうぞ! 来てください!!」


どうやらおんぶがしたいらしい。正直フラフラで立っているのもやっとな状態なので素直に受け入れた。


が、その後すぐに後悔する事になった。リリーネは子供の頃ですらロクにおんぶをされた事が無かったにも関わらず、大人になる手前の年齢で、同い年におんぶされている所を街の人達に見られている事が恥ずかしいことこの上ない状態であった。


「アイリス……! もうそろそろいいわよ……! 下ろしてもらえるかしら……!」


「まだダメです! また倒れちゃいますよ! 私はまだまだ元気なので!!任せてください!!」


「もうほんとに勘弁してぇーーー!!」



こうして二人の長い一日が終わった……


*


***


<第一節 完>


~あとがき~


第六話読んでいただきありがとうございました!今回で一節は終了、二節へと突入します。

来週を一回休載して、再来週に二節の投稿をしていきます。把握のほうよろしくお願いします。


ここからはいつもの雑談です。といっても他の投稿サイトにこの後書きしたことないんですが…

実はなろう小説限定だったんですよね。


この物語、一応リアルな心情やアニメとかの普通気づくだろ!とかそういう物語の違和感をなくすように注力しているのですがなかなか大変な上に自身の偏見が入ってしまうのが難点なんですよね。それに自分の考え方が結構変なものが多いので余計に…ね。

でもこれはあくまでフィクション、二次元、想像の世界なので好きにやりたい放題できるんだからっていう考えも忘れず縛られずに自由に書いていこうかと思います。文句がある人はブラウザバックしていただいて構いません。そういうスタンスでやっていきます!


さてまた新しい節目に突入していきます。投稿頻度遅いですがついてきていただけるとありがたいです。これからも「アイリス~この素敵な世界が終わらないように~」をよろしくお願いします。

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