第二話 記憶
───どこからか声がする。
小さい声が遠くから響いてくる。
幼い子供のような声はずっと何かを伝えようとしていた。それはとても大切な事な気がした。
しかし何を言っているのか聞き取れない。必死に伝えようとしている。だんだんとその小さな声は大きくなっていく。
すると後ろから温かな光が刺してきた。光の中には幼女のような光の影があった。その幼女は涙を流しながら手を差し伸べていた。
だが手を取ろうと近づくと同時に割れるような頭痛が襲ってきた。痛みに耐えきれず膝から崩れ落ちた。痛みは増していく頭痛に涙が滲んだ。
幼女はゆっくりと歩き、遠ざかっていってしまった。温かい光が遠ざかり冷たい闇が全身を覆っていく。
必死に手を伸ばし叫んだ。
「待って!!」
「うひゃあ!!」
リリーネはいきなり起き上がった少女に飛び上がるように驚いた。それに「待って」と叫んでいた事に困惑していた。
きっと悪い夢を見ていたのだろうと思った。
「びっくりしたぁ……二日も寝てたのにいきなり飛び起きるんだもん……」
「あの……ここは?」
「あなたが倒れてた森から少し離れた街よ。調子はどう? 何処か痛むところはない?」
「いえ……大丈夫です……」
「そう。良かったわ」
リリーネは微笑んだ。それは起きた時にまた泣き出してしまわないか心配だったからだ。
するとお腹の音が鳴った。どうやら少女は空腹のようだった。目が合うと少女は少し恥ずかしそうに目を逸らしお腹を抑えた。
「おなか空いたのね? ちょっと待ってて」
リリーネは部屋を出ていき、しばらくして戻ってくると両手にパンとスープを持ち、それを少女に差し出した。
「はいこれ、食べていいわよ」
「……ありがとうございます」
少女は礼を言いパンとスープを手に取り口に運んだ。正直な話リリーネはあまり料理を得意としていない。そのため美味しく食べてもらえるか心配だったが、少女の表情は少し明るくなった。
食べ終えると少女は頭を下げてきた。
「あの、これありがとうございました」
「気にしないで。すべき事をしたまでよ」
そう言うとリリーネは笑みを見せた。
「名前を聞いてもいいかしら?」
「えっと……」
少女は困惑している様子だった。確かに目が覚めてから突然知らない人間から話しかけられれば誰もが困惑するだろう。そう思い先に名乗ることにした。
「ごめんなさい、先に名乗るべきよね! 私はリリーネ=イルミナスよ。リリーネでいいわ」
「あ……その……ごめんなさい……私……」
少女は悲しそうな表情で俯いた。リリーネは察して声をかけた。
「もしかして思い出せないの……?」
「……はい」
話を聞くと親や住んでいた場所、何故森にいたのかも覚えていないそうだ。記憶喪失というものだろうか。
リリーネは少し悲しい表情をしたが一ついい考えがあった。
「じゃあさ、一緒に外に行ってみない?」
「え……?」
「外に出て気分転換しない?」
そう言ってリリーネは手を差し伸べる。この少女がこの街の住人もしくは来た事があるとしたら何かを思い出すと考えた。少女は少し考えていたがリリーネの手を掴んで立ち上がった。
部屋の扉を開くと廊下に出た。そこは長い一本道になっていた。左右にいくつものドアがあり、一番奥の部屋からは光が漏れている。おそらくそこに誰かがいるのだろう。歩き続けていると階段が見えたので降りていく。一階に着くとそこには広い空間が広がっていた。床には大きな絨毯がひかれていた。
広間は観葉植物や絵画があり、飾り過ぎないシンプルな場所だった。少し歩くとその先には大きな両開きの扉がある。
そこを抜けると今度は外へ出た。太陽の日差しを浴びる。風を感じながら辺りを見渡すとそこにはたくさんの人がいた。建物の中には多くの人がいて皆忙しく動き回っている様子だった。
「さあ、こっちに来て」
少女の手を引き、大きな噴水がある広場へと辿り着くとそこで二人は立ち止まり、リリーネは少女の方を向いて話し始める。
「ここがこの街の中心にある広場よ」
「わあ〜……綺麗ですね……!」
「ふふっ。そうね」
少女が嬉しそうに笑うとリリーネも釣られて笑顔になった。
それから少女を連れて色々な所を見て回った。市場ではたくさんの食材を売っていたり綺麗な装飾品やお洒落な洋服の店もあったりした。二人で歩いた道はそのどれもが新鮮だった。
何より楽しかったのは少女と話しながら歩いている時だった。
どうやら少女はとても明るく優しい性格のようだ。記憶が無くなってしまい心配だったが太陽のような笑顔で着いてきてくれた。それがすごく嬉しかった。
しばらく街を歩いていると後ろから誰かを呼ぶ声に振り向くと壮年の夫婦が立っていた。
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