第33話 最終話 完了(レオンフィード視点)
ランドルフとアンジェラ嬢の結婚が決まった。ランドルフは婿入りしてレキソール侯爵家を継ぐ事になった。さすがに王兄殿下が婿入りするのに侯爵ではなぁということになり、レキソール家は公爵になった。
「私はまた、商会の仕事に力を入れたい。公爵家の事はランドルフ殿下にお任せします」
ジェフはそう言って早々と公爵の爵位をランドルフに渡し、引退すると言っている。まぁ、この計画を立てた時からの約束だからな。
ランドルフはレキソール家の領地やその他の仕事に加え、カインロッドの補佐もあるので大忙しになるだろう。まぁ、有能なランドルフのことだ、きっと抜かりなくやるはずだ。
「これでやっと無事ミッションは完了ね。私も王太后としてのんびりしたいわ」
「ミランダ、結婚しないか? 君は未亡人だし、他の人ところなら難しいかもしれないが、私は王家の者だし、独身だし問題はないと思うんだ。ひっそり籍を入れて一緒に暮らすのはどうだろう?」
肩の荷を下ろしたのか、私に背を向けて伸びをしているミランダに今更ながらだがプロポーズをしてみた。
「本当なら、随分前に私達は結婚していたはずだし、もう父も兄もいない。母もカインロッドも賛成してくれるだろう。今更かな?」
ミランダは後ろを向いたまま動かない。
「ミランダ?」
私はミランダの前に回り込み顔を覗き込み絶句した。ミランダが号泣しているのだ。
気が強く、男勝りで誇り高き公女。曲がったことが嫌いで弱気を助け強気を挫く、前世の日本で言うなら暴れん坊将軍みたいな感じだろうか。決して人前で泣くことなどない。
私はどうやらかなりのレアモノを見てしまったようだ。
「もう、泣かせないでよ!! 今更こんなおばさんと本気で結婚するなんて言ってるの? あなたは独身貴族で私はバツイチの傷者なのよ」
バツイチの傷者ってその傷をつけたのは兄ではなく、私だけどね。結婚前だから不貞じゃないけど。
「元々は私達は結婚するはずだった。回り道したけれど、そろそろいいんじゃないか? フレデリックとシンシアみたいに私達も幸せになろう」
「うん。新婚旅行はラックノーラン国よ」
「ああ、ふたりに会いに行こう」
それから少しして、私とミランダは結婚した。亡くなった兄の妃をスライドすることは王家や高位貴族の間ではよくあることだ。熟年結婚を周りは祝福してくれた。
これはこの一連の計画を立てた私だけが知る最後のミッション。全て終わったらミランダにプロポーズしようと思っていた。
今世で私が愛するひとはミランダしかない。これからは大手を振って2人で歩いていきたい。
「真実の愛」とはかなり違う話になってしまったな。でも、みんな幸せだからいいんじゃないか?
原作者は誰なのか知らないけれど、小説の世界とこの世界は違う。
私達は小説の登場人物ではなく、それぞれが自分の人生の主人公なのだ。
「真実の愛」の主人公だったランドルフとアンジェラはこれからどんな人生を送るにしても、原作のようになることはないだろう。
きっと明るく楽しい家庭を築いて行くと思う。
あの時、神らしき人に「真実の愛」を上書きしろと言われ、この世界に転生した。
まさか、私が上書きさせられるとは思わなかった。本来なら梨沙がやるはずだったが、梨沙は神様に私を同じ世界に転生させてほしいといったそうだ。
あいつらしい。前世でも自分で種を撒いておきながら、困るとすぐに私を頼っていたから、死んでもそうしたのだな。
この世界には、ミランダがいた。初めは梨沙がミランダに転生したのかと思ったが、全く違った。
ミランダはキラキラしていて眩しかった。私はひとめで恋に落ちた。
前世では一目惚れなどするような性格ではなかったが、今世での私はなかなか激しいものをもって生まれていたようだ。
きっと神様が「真実の愛」を上書きするためにミランダを私にくれたのだろう。梨沙には申し訳ないが、梨沙とではこの計画は遂行出来なかっただろう。
梨沙は私たちが上書きした世界で幸せに暮らせばいい。そのために私たちは頑張ってきた。
私もこれからは、ミランダとのんびりさせてもらうつもりだ。
私が薫だということは私の胸にしまっておこう。今の梨沙は薫を必要としていない。そして薫も梨沙を必要としていない。
また次の世界に転生した時にでも笑いながら真実が話せればいいかな。
「真実の愛」の上書きは完了した。
〈了〉
「真実の愛」を上書きします 金峯蓮華 @lehua327
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