第16話 シンシアが消えた 

*途中からシンシア視点、レオンフィード視点になります* 


それから1週間程経った朝、シンシアの様子を見に行った私は部屋を見て愕然とする。シンシアの姿がどこにもないのだ。

 同じ部屋の中でシンシアを警護していた女性騎士と側に仕えていたメイドは倒れていた。薬のようなもので眠らされているようだ。


 部屋の前には公爵家の騎士を配置していた。誰も入ってきた様子はない。

 シンシアはまだ捻挫が治ってなくゆっくりとしか歩けない。誰にも見つからず部屋を出る事は難しい。窓近くにも騎士を配置していたので窓からの侵入も無理なはずなのに護衛の女性騎士やメイドの様子から見ても間違いなくシンシアは連れ去られた。

 しかし、どうやって? この屋敷の守りは鉄壁なはずだ。


 私達は必死でシンシアを探してがシンシアは見つからなかった。


―・―・―・―・―・―・―・―


シンシア視点


 ここは?


 目が覚めたら全く見たこともない場所にいた。私はミランダの屋敷に匿われていたはず。


「目が覚めたのですね」

 気がつくと側に男がふたり立っていた。


「ここはどこなのですか?」


 自分でも驚くくらい力の無い声しか出ない。


「王宮ですよ」


 王宮? 何故? ミランダの屋敷の守りは鉄壁のはず。部屋の扉前や窓近くにも施設騎士団の騎士が配置されているとミランダは言っていた。部屋の中にも女性騎士とメイドがいたはず。


「どうしてと思っているのでしょうな。魔法ですよ。移動魔法。王宮には移動魔法を使える魔導士もおります」

 男は無表情でそう言う。


 部屋の扉がバン!と大きな音を立て開いた。開いた扉から入ってきたのは、私が一番会いたくない王太子殿下だった。


「シンシア、大丈夫だったか? 公爵家に軟禁されていたのを私とこの者が助け出したのだよ。もう安心だからね」


 王太子殿下はそう言うと私を抱きしめようと手を伸ばし近づいてきた。


 私は咄嗟に痛めていない方の足で思い切り王太子殿下の鳩尾を蹴った。


「チッ」

 王太子殿下は鳩尾を押さえながら顔を歪ませ私を見た。

 そして、私を殴りつけた。


「お前、自分の立場がわかっているのか? 私に危害を加え、怪我をさせたのだぞ。無かったことにしてやろうと思っているのにその態度はなんだ! お前が大人しくしていれば、コレット子爵家にもヴァーナリアン公爵家もお咎めなしだが、今のようにお前が反抗するなら、王太子に怪我をさせた犯人のお前の生家は取り潰し、連帯責任でお前の家族は処刑、お前を匿ったヴァーナリアン公爵家も……そうだな。王太子を亡き者にして謀反を起こそうとして手先にお前を使ったとかにして取り潰すのも面白いな。大人しく言う事を聞くんだな」


 そう言うと、私の髪を引っ張り壁に向かって放り投げた。

 私は壁に頭を打ちつけ、頭から生暖かい者が流れ落ちてきた。

 

 血のようだ。

 

 どうやら頭を打った時に切れてしまったようだ。

 

 みるみるうちに足元は血溜まりができている。

 それを見て私は意識を手放してしまった。


―・―・―・―・―・―・―・―

レオンフィード第2王子視点


 私はミランダから連絡を受け、すぐにヴァーナリアン公爵家に飛んだ。


「レオン様、シンシアが消えたの。どこを探しても見つからなくて……」


 ミランダは青い顔をし、涙を流しながら私にそう言う。

 シンシアがいた部屋に行ってその状態を見てこれは奴らの仕業だとすぐにわかった。


「ミランダ、これは魔導士の仕業だ。多分兄上が絡んでいる。まさか、魔導士を使うとはな。私も油断していた」

「王太子殿下ですか? シンシアは? シンシアは大丈夫なのですか?」


 ミランダは私は兄上が絡んでいると知り狼狽している。


「影に探らせる。少し待ってくれ」


 そう告げて私は踵を返した。



「シンシアがどうなっているか調べてくれ」

 私は影に伝えた。


 暫くすると影から報告が入った。ミランダは兄上に暴力を振るわれ怪我をして意識不明だと。


 こんな事ならシンシアに影をつけておくのだった。まさか魔導士まで使うとは。油断していた。


 あいつ、許さない。私は拳をにぎりしめた。



 私と兄上は腹違いの兄弟だ。兄上は側妃の子供であるが、私より半年早く産まれた。


 父である国王が寵愛している側妃の子供とあって、父は溺愛している。私は政略結婚をした王妃の子供なのだ。


 父は仕事のできる母と母に似ている私が煙たいらしく、私の事は無い者のように扱っていた。


 私は母の力と、先代の国王と王妃である祖父と祖母、そして母の実家の公爵家の力で守られ第2王子として生きていた。


 影から兄上がシンシアに言った話を聞いて怒りが込み上げてきた。

 コレット子爵家とヴァーナリアン公爵家を潰すと脅していたのか。

 きっと既に両家にも秘密裏に同様の事を告げる使者が来ているだろう。


さて、どうしたものか?


 私は任務の為に辺境の地にいるシンシアの恋人に連絡をとった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る