第17話 無力さが悔しい(レオンフィード視点)
シンシアを診ていた医師は祖父の側近で私も小さい頃から世話になっていた。
私は医師に、シンシアは意識が戻ったものの大量に出血したのと、酷い目にあった為に精神状態が不安定なので起き上がる事は困難と兄上やその取り巻きに伝えるように頼み込んだ。
医師はまた兄上が悪い事をしていると察し私の言う通りにしてくれた。
本当にシンシアは体調が悪かった。しかも、王太子に脅されて心も壊しかけていたようだ。
「レオン、シンシアを取り戻す事はできないの!」
ミランダが口惜しそうに私を睨んでいる。
「あの部屋には外に出られないように魔法がかけらている。移動魔法も無効化の魔法がかけられているので使えない。出られたとしても周りにはこの国屈指の護衛がいる。しかもシンシアの体調はかなり悪いようだ。医師に面会謝絶にしてもらい兄上と会わせないくらいしか今の私にはできない」
「でもなんとかしないとこのままではシンシアが……シンシアはどうなるの」
ミランダに腕を掴まれた。
「兄上がシンシアを妃にしたいと言っているらしい。父上は兄上に甘い。このままだと王命を出すかもしれない」
私は項垂れた。
「フレデリック様からの返事は? フレデリック様はまだ帰ってこられないの?」
辺境の地にで戦っているシンシアの恋人のフレデリックにはシンシアが兄上に拉致されてすぐに知らせを出した。しかし、まだ返事はない。
フレデリックは騎士で、所属している第2騎士団は辺境の地に魔物が現れた為に派遣されている。現地は大変なようで知らせが届いていないのかもしれない。
私は母や祖父母にも協力を願い、なんとかシンシアを助け出そうとしたが、兄は「自分達は愛し合っている」と言ってシンシアを解放しようとしない。医師が面会謝絶にしてくれて、兄がシンシアに接触できない事くらいしかできない自分の無力さが恨めしかった。
シンシアが拉致されてから2ヶ月が過ぎた。シンシアの体調は良くなるどころかどんどん悪くなっているらしい。最近は食べ物も受け付けないようで痩せ細り衰弱しているらしい。
祖父に呼ばれ、私と母が祖父の部屋に向かうとシンシアを診てくれている医師がいた。
「シンシア様はご懐妊されております」
突然の医師からの言葉に私は耳を疑った。
懐妊?
あの時以来、兄とは会っていないはずだ。まさか、拉致された時に暴行されたのか?
「兄上の子なのか?」
私は医師の目を見た。
「わかりません。シンシア様がお怪我をして私が診た時は着衣の乱れもありませんでしたし、魔導士も達も側にいたのでそういう行為はなかったと思いますが、絶対に無かったとは私には解りかねます」
あの時に兄上が……。
「兄上はこのことを知っているのか?」
「今はまだご存知ありませんが、いずれわかると思います」
「もし、子供があれの子だったら、シンシア嬢は解放されないわね。レオン、シンシア嬢は恋人は? その者の子供だという可能性はないかしら?」
母が私に問う。
「恋人はいます。ただ卒業式の夜会のひと月前に辺境の地に遠征に出ています。それ以前に契りを結んでいたとしたらあり得るかもしれませんが」
いくら仲の良い友達でもミランダやソフィア、ライザはシンシアから恋人と深い仲になったと聞いてはいないだろう。
シンシアはそんなことをペラペラ喋る女ではないと思う。
困ったことになった。どうすればいいのかと私は腕組みをした。
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