「真実の愛」を上書きします

第9話 リンジーとカインロッド殿が婚約しました

　しばらくしてリンジーとカインロッド殿下の婚約が発表された。

　これできっとカインロッド殿下の次期国王は決まりだなぁと密やかに貴族達は噂をしているようだ。

　国王陛下にはランドルフ殿下のお母様の王妃とカインロッド殿下のお母様の側妃様の他にも何人か側妃様がいらっしゃるが、お子様はふたりだけだった。

　どちらが後を継がれてもおかしくは無いが、お母様の実家の力をかんがえるとカインロッド殿下の方が優位だと言われていた。

　しかも侯爵令嬢と婚約したのでほぼほぼ決まりだろう。

　しかし「真実の愛」ではカインロッド殿下って名前が出てきただけのモブだったのよね。

　リアルな「真実の愛」の世界は名前だけしか登場しないモブの方が濃いのかもしれない。主要登場人物のランドルフ殿下も私も今のところ完全にモブでしかない。

　カインロッド殿下とリンジーの婚約式のパーティーの招待状がきたので両親と共に出席することになった。

　ミレーヌお姉様はもちろんレナード様がエスコートする。ここで絶対ランドルフ殿下に見染められ無いように私が盾にならなくちゃね。私は気合いを入れた。

「婚約式のパーティー行きたくないな。なんとか出ないわけにはいかないかな」

　父は臍を曲げている。

「陛下は一瞬しかいないんじゃないかしらね。もしくは来ないかもしれないわね。新しい愛妾に夢中らしいわよ」

　国王陛下ってどんな奴なんだ？　息子の婚約式なのに、愛妾の方が大事なのか？　確かに「真実の愛」ではランドルフ殿下を溺愛していたようだけど、リアルな世界では違うのだろうか？

「お母様、国王陛下と王妃様やランドルフ殿下とは仲良くないのですか？」

　思いっきり無垢な子供な振りをして聞いてみたい。

「う〜ん、仲が良いとか悪いとかそんなレベルではないわね。大人は色々あるのよ」

　母はうまく逃げた。

「私はミレーヌやアンジェラには好きな人と結婚してほしいと思っているの。我が家は別にどの家とも政略結婚なんかしなくても大丈夫だから、家のことなど考えなくてもよくってよ」

「そうだ。身分なんて気にしなくて良い。好きな男と結婚すれば良いぞ」

　母と父は恋愛結婚だ。だから私にもそう言うのかな。

　原作を乗り越えてミレーヌお姉様がレナード様と結婚したら私がこの家を継がなければならない。

　そうなったらランドルフ殿下と結婚して王妃になるなんてないなぁ。やっぱり似て非なる世界なんだろうか。

　そんなこともちらっと考えてはいるが、今はリンジーの婚約式のパーティーで出てくるご馳走様のことが一番気になる私だった。