第7話 あの第一王子、ランドルフ殿下と出会いました。

 お茶会の日はとても良いお天気だった。


「アンジェラ〜、良かったわ。アンジェラが来なかったら私ひとりでつまらないと思っていたの」

「えっ? どうして来ないと思ったの?」

「お母様がアンジェラのお父様は国王が嫌いだから来ないかもって。あっ、ヤバい。これって不敬ですわね」

「誰もいないから大丈夫ですわ。確かにお父様はそうみたいですが、今回は断れないから行ってくれと言われましたの」

リンジーのお母さんも父が国王嫌いなのを知っているのね。

「まぁ、うちのお父様もお母様も嫌ってますわ。でも王妃様や側妃様はいい人だと」

「そうなのですね」


 あの国王を好きな人などいないだろう。うちは伯父様が国王の用事で移動している時に事故にあい亡くなったので、父は余計に国王を嫌っているのかもしれない。


「今日はあちこちの令嬢がたくさん来ているので、私達が食べまくっていても誰も気がつきませんわね」

 

 私とリンジーは顔を見合わせてふふふと笑った。


 しばらくすると王家の方々が入ってきた。王妃様と側妃様、そして第一王子と第二王子かな。王妃様はちょっと具合が悪そうに見える。


 参加している令嬢達が王家の方々に爵位が高い順に挨拶をする。私達は侯爵家なので早い方だ。


 私はリンジーの後に挨拶をした。


「本日はお招きいただきましてありがとうございます。レキソール侯爵家次女のアンジェラでございます」


 カテーシーもばっちり決まった。


「あなたがレキソール家のご令嬢なのね。伯父様が亡くなられて淋しくなりますわね」


 王妃様は悲しそうに私に声をかけてくれた。王妃様と亡くなったおじさまは知り合いなのだろうか?


「シンシア」


 側妃様が王妃様の背中を撫でた。


「アンジェラ嬢、今日は楽しんでね。ランドルフやカインロッドと色々お話してみてね」


 側妃様が一歩前に出て私にそう告げる。


「ありがとうございます」


 私は礼をして後ろに下がった。王妃様と側妃様は仲が良さそうだった。

「真実の愛」ではどちらもほとんど登場しなかったのでモブ王妃&モブ側妃だと思っていたがそうでもなさそうだな。私は色々考えながらリンジーの元に行った。


「何を話していたの?」

「伯父様が亡くなって淋しくなるって。王妃様が」

「王妃様とアンジェラの伯父様って知り合いなの?」

「さぁ、私は知らないわ。それと側妃様が王子様達と色々話しをしろって」

「そうなのね。私の時は来てくれてありがとうくらいだったよ。やっぱり何かあるのかしら?」


 リンジーは不思議そうに私を見る。私も不思議だ。


「それにね。王妃様と側妃様って仲が悪くないのね。私はてっきり仲が悪いと思っていたわ」

「ふたりは学園の時の同級生だったらしいわ。私もおばあさまからちらっとしか聞いてないからよくわからないけど。お母様はそのあたり教えてくれないのよ。何があるのかしらね?」


 そうなのか。最近まで男爵令嬢だった私は貴族間の事情に疎い。「真実の愛」で書かれてなかった背景は色々複雑みたいだ。


「アンジェラ、ちょっと飲み物を取りすぎたみたい。お花摘み行ってくるわ」

「それは大変。ひとりで大丈夫?」

「ええ、侍女のルーシーが控えているので一緒に行ってくるわ。ちょっと待っててね」

 リンジーはお花摘みに行ってしまった。



「こんにちは。今日は参加してくれてありがとう」

 ひとりになり、ご馳走を食べまくっていた私は後ろから声をかけられた。


「レキソール家次女のアンジェラでございます」


「第一王子のランドルフです」


出たな第一王子。しかし、阿呆ヅラではないな。見目麗しく、聡明そうだ。腰も低いし、話し方も優しく偉そうな感じはしない。とても小説に出てくる傲慢で我儘放題な第一王子と同じ人には思えない。


「君はレキソール侯爵の姪だと聞いたんだ。私は侯爵には色々世話になった。本当にあの方が亡くなって悲しい」

 

 ランドルフ殿下は俯いて涙を流している。伯父様と懇意にしておられたのかな? 泣くほど仲が良かったのか?

 

 この辺りは小説には無い設定なのでさっぱりわからない。


「伯父様と仲がよろしかったのですか?」

「ああ、侯爵は私の心の支えだった」


 そんな親密な関係だったのか?


「私はおじさまには洋服をプレゼントしていただいたり、甘いものを食べに連れて行ってもらいました。優しいおじさまでした」

それからリンジーが戻ってくるまでランドルフ殿下とは伯父様の話で盛り上がった。


「殿下と盛り上がっていたわね。求婚でもされた?」

 戻ってきたリンジーは面白そうに笑う。


「まさか、伯父様の話で盛り上がったの。ランドルフ殿下は伯父様と懇意にされていたようで亡くなって悲しいとおっしゃられていたわ」

「そうなの。懇意にされていたのね」

「そうみたいよ」


 結局、その日のお茶会はたらふく食べてランドルフ殿下と伯父様の話で盛り上がった不思議なお茶会だった。


 カインロッド殿下とはお話できなかったな。

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