第5話 お茶会
男爵令嬢から侯爵令嬢になってから、社交が増えた。
男爵令嬢の時はそんなになかったのに、やっぱり上位貴族は大変なんだなぁと思う。
この国のデビュタントは15歳で夜会にはそれまでは出られない。子供はもっぱら昼間のお茶会だ。学園に入るまではそんなお茶会で子供も横の繋がりを作る。
我が家は美人のお姉さまがいるのでやたらめったら誘いが来る。私もおまけでくっついていく。私はお姉さまの護衛みたいなものだ。
うちは最近まで男爵家だったので、事情がよくわからないのか、たまに意地悪してくる人もいる。
「メイラック侯爵夫人、今日は男爵家も参加ですの?」
「いえ、いつも通り、伯爵家以上ですわ」
「おかしいですわね。レキソール男爵夫人と令嬢方がいらっしゃるわ」
「レキソール様は侯爵家ですわ。思い違いではありませんこと?」
「まぁ、そうでしたの。私、存じ上げませんでしたわ」
つまらない大人代表みたいなゼロンナ伯爵夫人が主催者のメイラック侯爵夫人に言っている。もちろん私達に聞こえるように。
「レキソール侯爵様は元々は侯爵令息ですのよ。お兄様が後を継がれていたので、商会を立ち上げ、分家の男爵を継がれていらしたけれど、お兄様が急に亡くなられて、侯爵位をお継ぎになられなしたの。夫人も元はレナミッド伯爵家のご令嬢ですし、子爵令嬢から伯爵夫人になったあなたにそんな事を言われる筋合いはございませんわ。気に入らないならお帰りくださいませ。ゼロンナ伯爵夫人がお帰りですわ。玄関までお見送りして頂戴」
メイラック侯爵夫人やるなぁ。男前だ。
それにしてもゼロンナ伯爵夫人って嫌なやつだ。自分が子爵家出身だから爵位が下の男爵家を蔑みたかったんだな。
「レキソール侯爵夫人、嫌な思いをさせて申し訳ございません。ゼロンナ家に抗議して出入り禁止にいたしますわ」
「私は全く気にしておりませんわ。子爵令嬢から伯爵夫人になって考え違いをしていらっしゃるのでしょう。マウントを取るより、ご自分を磨く事に力を注げばよろしいのに残念ですわね。我が家からもゼロンナ伯爵家に抗議しておきます」
お母様は見た目も話し方も穏やかで優しい感じだが、なかなか腹は据わっている。さすが伯爵令嬢だ。貴族社会のいやらしい社交も平気なようだ。
「皆様、ゼロンナ伯爵夫人のような方をお呼びしてしまい申し訳ございませんでした。今後一切我がメイラック家の会には参加させませんので、今日のところはご容赦下さいませ。さぁ、気を取り直して本日のお茶会をお楽しみくださいね」
メイラック侯爵夫人の挨拶でお茶会がはじまった。
メイラック家の子供達だろうか? お姉さまと私のところに近づいてきた。
「レキソール令嬢方、嫌な気持ちにさせて申し訳なかった。私はメイラック侯爵家嫡男のレナードです。レナードとお呼び下さい。こちらは妹のリンジーです。よろしくお願いします」
「お気遣いありがとうございます。私はレキソール侯爵家長女ミレーヌでございます。ミレーヌとお呼び下さいませ。こちらは妹のアンジェラです。よろしくお願いします」
お姉さまは綺麗なカーテシーをする。
レナード! レナードが登場したぞ。そしてリンジーか。まさかこんなに早く会うなんて。
小説の「真実の愛」の中ではアンジェラはレナードとはまだ面識がなかったはず、リンジーとも会ったのは、王太子ランドルフが刺された謁見の間だろう。話はガンガン変わっているなぁ。
私がぼんやり考えているとお姉さまはレナードに誘われているようだ。
「お姉さま、どうぞお庭を案内してもらって下さい。私はここでお菓子をいただいていますわ」
「私もアンジェラ様とお菓子をいただいてますので、お兄様、ミレーヌ様を案内してあげて下さいませ」
どうやらリンジーもふたりにしたいようだ。
「そうか、ではミレーヌ嬢を案内してくる」
「アンジェラも一緒に行きましょう」
「いえいえ、私はお庭よりお菓子です。レナード様、お姉さまをよろしくお願いします」
ふたりは庭の方に消えていった。
「ふふふ、お兄様はミレーヌ様にひとめ惚れしたようですのよ。ミレーヌ様はお美しいですわね」
「はい。自慢の姉です。レナード様もとても素敵ですわ。美男美女でお似合いです。仲良くなるといいですわね」
リンジーの言葉に私も同調する。
「私達も仲良くなれそうですわね。アンジェラ様、お友達になりましょう」
えっ? お友達になりましょうって? 私達天敵じゃないの?
それから、お菓子を食べながら私達は盛り上がり、お茶会が終わる頃にはすっかり親友になってしまっていた。
神様、補正どころか、話を変えすぎてるんじゃないの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます