第2話 魔術を使いこなせ

「あの……私と同盟を組みませんか?」


彼は静かに頷いた。


「良いですよ。僕は【剣士】のクロンです。よろしくお願いします」


「私は【魔法使い】のビラです。よろしくお願いします」


私達は同盟を組み、森の中を再び歩き始めた。隣を見るだけで胸がドキドキしてしまう。


「クロン、記憶は戻ったの?」


「僕は病気で死んだ事。1年前に僕のお母さんが死んでいた事。僕には小学生の時からずっと好きだった人がいた事を思い出した」


その瞬間、私の胸が痛くなった。クロンにも好きな人がいたんだ……。現実世界のどこかに。私よりも断然可愛いのかな……。


「そのクロンが好きな人の名前とか分かったの?」


「名前は真澄……。でも、もう死んでいるらしい」


え……。楽しかった雰囲気が一気に暗くなった。クロンの目に少しだけ涙が見えた。


「でも、もしかしたら異世界転生しているかもしれないから、とにかく先に進もう」


「うん……」


私達は、森の中を進んでいった。でも、不思議な事に森の出口がなかなか見えてこない。


地図も持ってない私達はもしかした迷ってしまったのかもしれない。


「クロン、私達迷子になってない?」


「……」


クロンは何も答えてくれなかった。何か知っているのかな。



ガサッ


近くの草が揺れた音がした。


「ビラ、気をつけろよ。モンスターが来るぞ」


クロンが言った瞬間、目の前に大きなスライムが現れた。レベルは10。


「ビラは下がってろ。僕が倒すから……」


「待って!!私にやらせて……。私もレベルを上げないと。記憶を取り戻せないから」


私は魔法の杖を前に出して、力を込めた。お願い、私はこんな異世界なんて嫌だ。早く記憶を取り戻して現実世界に帰りたいんだ。


「炎の魔術!!」


私が無意識に出した声と共に、魔法の杖から炎が出た。その炎はスライムに一直線。


スライムは燃えて、ダメージが一気に入った。


でも、倒れなかった。魔法を使った反動で、私は倒れ込んでしまった。


まだレベルは0。体力なんて1つもない。


霞む視界の中、目の前のクロンが記憶のカセットを持っていた。


そして、何も言わずに、私のスマホに記憶のカセットを差し込んでいった。


「これ、回復の薬だから飲んで」


クロンは鞄から回復の薬という名の栄養ドリンクを私にくれた。


それを飲んだ瞬間、体力が回復した。スマホを見ると、記憶のカセットの枚数は5枚となっていた。


記憶のカセットが作り出した写真は誰かの上半身の写真だった。この人は一体誰なんだろう……。胸の膨らみは無いことから男だと考えられるけど。


「クロン、ありがとう」


「どういたしまして」


再び起き上がり、森の中を進み始めた。


「ねえ、この森って何なの?」


「それは……」



人間の足音がどこから聞こえてきた。2人。どこかにいる。


「ピラ、逃げるぞ。お前は狙われてるんだ」


「え……何で?」


クロンは私の腕を引っ張りながら森の中を走っていった。後ろから誰かがずっと追いかけている。


クロンは鞄から煙玉を取り出して、投げた。煙が森の中に広がり、何とか私達は逃げる事に成功した。


「ねえ、クロン説明してよ。どういう事なの?」


「僕達【剣士】のミッションが【魔法使い】を倒す事なんだ。そのミッションをクリアしないとこの森からは出られない」


「この森には【剣士】は何人ぐらいいるの?」


「そもそも、最初の選択で【魔法使い】を選ぶ人が少ないし、【剣士】を選ぶ人が多いから。【魔法使い】を倒すのに飢えている【剣士】が沢山いるんだ。50人ぐらいは居ると思うよ」


その言葉を聞いた瞬間、血の気が引いた。50人もの【剣士】が私を狙っている……。


「クロンは私を倒さないの?」


「僕は倒さないよ。だって僕の好きだった人に顔が似ているから……」


〔現在の記憶のカセットの枚数 5枚〕

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