腕試し(其の七)
やがて、人族とも思えぬ強大な闘気を纏った左拳が、顔面を護っていた
思わず呻いて転がりそうになりつつ、打撃の芯をはずして受け、
ふと、いつかの声が脳裏に響いた。
――どうした、一人では勝てぬか。
(くそっ、またおまえか! 俺に構うな!)
――まあよい、助けてほしくばいつでも言え。おまえの真の力は俺とともにあるのだからな。
(何だと?)
声は、それきり聞こえなかった。
国師と対面して以来、時々夜昼となく不意に聞こえてくる謎の声であった。
非常に親しみを覚える懐かしい声なのだが、それでいて、どこか禍々しい響きも感じられた。
あれから時折ふと聞こえてくるのだが、最近はいよいよ頻繁に話しかけてくるようになっている。
まるで、自分が病的な二重人格のようにも感じられ、どこか不気味であった。
――しまった!
我に返った時は遅く、後頭部をしたたか強打され、武舞台の外へ弾き出されてしまった。
どんな技をくらったかもわからぬまま意識を失い、
そして、そんな成り行きを誰よりも納得できぬのが
――こんな馬鹿なことがあるか!
直前まであれほど巧みに攻撃を躱し、虎視眈々隙を覗っていたはずの
これが禁軍総大将の実力とは、到底考えられなかった。
*******************************
そこに立っているのは、まぎれもなく
ふと気がつくと、薄く笑みを浮かべた自分自身が、
「おまえ……またおまえか。俺と同じ姿、いったい何者なのだ」
――すでに何度も言うておるはず。俺はおまえだ。
「馬鹿な、俺は俺だ!」
――違う。俺こそが本来のおまえ自身。俺を認めぬがゆえのその無様な姿だ。惨めだのう。
「何を言う、おまえが現れ俺に語りかけさえしなければ、このようなことになってはおらぬ!」
――いい加減理解せよ。おまえは俺の存在を抜きに生きられぬ。それが証拠に、ほれ、おまえの頭蓋にはあの者の一撃により修復できぬ亀裂が入った。意識を取り戻したところで、生ける屍にすぎぬ。
「……」
――そも、おまえが全能者と呼ばれちやほやされてこられたのも、すべては俺の力。そろそろ目を覚ませ。そして、以後は俺の陰に隠れ、おとなしくしておることだ。でなければ、あの方のお役には立てぬぞ。
「あの方……閣下か?」
眼前の
――おまえは知らずともよい。ここからは俺が代わろう、さあ、消えるがよい。
懸命に立ち上がろうとする
その場へ一人残った方の
*******************************
「――
耳元に響くその声の主は、
「大丈夫でござるか、
ようやく我に返った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます