耀輝の実力

 交替して耀輝ようきの前に立った武藝者は、相変わらず摑みどころのない印象であった。


 四肢はむしろ華奢にみえるし、膂力もさきほどの武藝者のほうがよほど強そうであった。


 さほどの闘気も感じられぬし、内力も特段優れているようには思えなかった。


 だが、


 ――もう一人は俺より強いぞ。


 偉丈夫の残した言葉は、疎かには聞いていない。


 筋力より内力の強い種類の武藝者と思われるので、おそらく得意なのは剣であろうと予想した耀輝であったが、意に反し、この武藝者も剣を抜こうとしない。


「おまえも抜かぬのか?」


 耀輝ようきが問うと、武藝者は柔和な笑顔をみせ、


「俺をみると、みなそう思うらしい。剣に頼らねば闘えぬとな」


 そう答え、ゆっくりと構えに入った。


 いきなり闘気が膨れ上がり、耀輝ようきに襲いかかった。


「なに?」


 相手の闘気の膨張ぶりに一瞬息を呑んだ耀輝ようきも、慌てて構えをとり、迎え撃つべく闘気を高めた。


 武藝者の闘気はとどまることを知らず、果てしなく膨らみ続けている。


 それは、さきほどの武藝者の闘気を遙かに上回るものであった。


(どうやら、直感は正しかったらしい)


 初対面で感じたように、この武藝者は手の内をみせぬため、敢えて内力を抑えていたようだ。


 自身の闘気を自在に制御しているというだけでも、相当な修行を経た達人に違いなかった。


「おもしろい!」


 耀輝ようきの顔に自ずと笑みが浮かんできた。


 ――笑ってやがる。


 と、折れた肋骨のあたりを抑えながら、偉丈夫の武藝者が呟いた。


 ――これだけの闘気をぶつけられれば、並の使い手なら闘志を挫かれるはず。


 耀輝ようきは相手の表情をみながら、それに合わせて自身の闘気を高めていった。


 すると、突如、敵の闘気が周囲を包んで一気に膨れ上がり、その急激な波動に対応しそこねた耀輝ようきは、圧力に耐えきれず、体勢を崩した。


 素早く打ち込まれた武藝者の一撃を躱しきれず、右の肩口に強烈な衝撃を受け、後方へ弾き飛ばされると、あやうく転倒しかけた。


 空中で姿勢を立て直し、辛うじて地べたに転がる無様は回避したものの、右肩に受けた痛みと痺れは、なお消えなかった。


 耀輝ようきの笑みがさらに輝いた。


 それも当然で、これほど強烈な一撃を入れられた記憶は久しくなかった。


「あの武人は、おまえたちの主であったな」と、右肩を抑えて耀輝ようきが言った。「むろん、おまえたちより強いのであろう?」


「あたりまえだ」と、武藝者が答えた。「われらなど、あの方には触れることすらできぬ」


「そうか。それほどか」と、耀輝ようきの笑顔が、獲物を見つけた肉食獣じみたものに変わりつつあった。「やはり都は広い。それでこそ出てきた甲斐があったというものだ」


 耀輝ようきの闘気がにわかに爆発し、辺りを包んでいた武藝者の闘気を一瞬で打ち払った。


 周囲の空気が一変し、武藝者の顔色が変わった。


 負けじと闘気を高めるも、耀輝ようきのそれを上回ることはできなかった。


「まさか、これほどとは……!」


「行くぞっ!」


 耀輝ようきは、掛け値なしの全力で襲いかかった。


「おまえを倒し、主とやらを引きずり出してやる!」


 武藝者は最初の一撃を入れた後、防戦一方となった。


 当初はかろうじて防いでいたものの、耀輝ようきの動きは急速に早まり、持久力の消耗もあって、次第について行けなくなった。


 次々と闘気の衝撃波をくらい、ついには両脚が宙に浮き上がった。


 耀輝ようきの闘気は武藝者の全身を縄のように縛りつけ、動きを完全に封じている。


 目に見えぬ拳が無数に命中し、武藝者はやがて意識を失った。

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