辻斬り
「何をそのように殺気立っている」と、武人は振り返らず言った。「俺は、おぬしに恨まれる覚えはないぞ」
「俺もおまえに恨みはない。悪いが、腕を試させてもらう」
「腕試しは結構だが」と、武人は振り返った。「辻斬りはいただけぬな」
「――問答無用!」
(思ったとおりだ。俺の速さについてくる!)
天才を自負する
魔族はしらず、これまでその神速の抜剣を躱した者は一人もいない。
「――待て、待て、待て!」と、制止にかかる。「わかったから、辻斬りはよせ。腕が泣くぞ」
「構わぬ。ようやく本気で闘えそうなやつを見つけたのだ。この機会を逃してたまるか!」
その言葉に何を感じたか、武人の足が止まった。
「舐めるなっ!」と、
ところが、武人は
――どうした、そんなものか?
と、力の違いを見せつけるかのようであった。
素手の相手に翻弄され、
そのためか、動きが大味になり、隙が生まれた。
冷静に相手の剣を見切ったその武人は、サッと
「なにっ!」
動きを封じられた
しかし、相手のほうが役者が上だということは、認めざるを得ぬようであった。
「参った、俺の負けだ」と、
そして、動けるようになると、すっかり兜を脱いで包拳し、
「いや、恐れ入った。敗け知らずの俺を、ここまで子供扱いとは」
武人は微笑み混じりに首を振って、
「……でもない」と、上衣の袖口を摘まんでみせた。
見ると、鋭く切り裂かれている部分が数ヶ所あった。
武人の動きは、まるで風を捕らえる如くに感じられたが、掠り傷程度は与えていたらしい。
武人は斬られた箇所に触れながら、
「うまく避けたつもりであったが、剣気を躱しきれなかった。なかなかどうして大したものだ」
――やはり、相当に名のある武人らしい。
「辻斬りのような真似をいたし、大変失礼仕った。
「
「はい」と、
「師範代ということは、当然師範がおるのであろうな」
「その師範は、おぬしより腕が立つであろう?」
「もちろんです」
「俺の名を知りたければ、明後日の
それだけ言い残すと、
(ずいぶんと勿体をつけるのだな)と、苦笑したが、それでも、あの武人の正体を知りたい気持ちに変わりはなかった。
どうあっても突き止めずにはいられなかった。
あの武人の上等な身なりとはまるでそぐわぬ場所であったが、
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