齊訡の帰還
陣の外れの方でにわかに歓声があがり、最初は遠く潮騒のように聞こえていたその音が、次第に近づくにつれ、はっきりとした言葉となって本陣まで届くようになった。
「お帰りだ、御大将がお帰りになられたぞ!」
「おお、御無事であらせられたか!」
「やめよ、年寄りの肩を借りてどうする」
そう言って、卓のそばの椅子へ大儀そうに腰を下ろした。
天幕の陰に立っている黒装束の六人に初めて気づき、
「あの黒い連中は何だ?」
「いや、待て!」
そのうちの一人が
「そなたは
「ですから」と、
「おい」と、
「なるほど、勇ましいですなあ」と、いつしかすぐそばに立っていた
「言いおるわ。はるばる都からやってきて仕事がないのでは、減らず口の一つも叩きたくなるか。しかし、その減らず口すら懐かしいから困る」
「久しく都へは帰っておらぬが、母さまは息災であろうな。庭の野菜は今年もよく実ったことであろう」
「母も五十の坂を越え、さすがに自ら畑仕事はきついと。しかし、家の者達が代わって続けておるそうで、都の評判は相変わらずです」
と、
「それはともかく、王子様が一騎打ちで後れをとるとは驚きました。
「半分はわしの油断が招いた結果だが、確かに奴ほどの強者は滅多におるまいよ」
と、
敗北の記憶がよぎったのか、険しい表情であった。
「いま一度闘えば、勝てるとお考えですか?」
「さてな、断言はできぬ」
「ともあれ、御大将が御無事でお戻りになられたのですから、もはや恐れるものはござらぬ」と、
「確かに、よい機会かもしれぬ。
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