第三章 緑林の戦い

緑林の雄・岳賦(前編)

 成人し、かつてのゆうの地である西邑せいゆうの王となった齊訡せいぎんは、鳳凱ほうがいに鍛えられ、継承権二位の王族にして鳳凱ほうがいに次ぐ齊国第二の勇将となっていたが、討伐軍の指揮官として緑林を攻めた際、岳賦がくふとの一騎打ちに敗れ、屈辱の捕虜となった。


 もちろん、緑林軍はその将が齊訡せいぎんであることなど知る由もない。


 しかし、敵将ともなれば、何者であろうが関係ない。


 いたぶって、いたぶって、いたぶり尽くして殺すだけであった。


 霊力を帯びた縄で雁字搦めに縛られ、身動きのとれない齊訡せいぎんに、殺気立った男達が刃をかざして襲いかかろうとする。


 傍らに座って見張りについていた岳賦がくふが、巨大な槍を突き出して防いだ。


 無視して跳びかかろうとする浪人達には、槍が一閃し、まとめて叩き伏せた。


岳賦がくふ、貴様!」


「裏切る気か!」


 沸騰した浪人達が口々に罵るが、岳賦がくふは悪びれる風もなく言い放った。


「こいつは俺が捕らえた俺の獲物。生かすも殺すも俺の勝手だ」


「おのれ、邪魔をするな!」


 と、浪人達は怒りを露わにしてにじり寄った。


「たとえ岳賦がくふといえども、我らの志を愚弄することは許さぬぞ!」


「ならば、どうする?」と、岳賦がくふは落ち着き払って言った。「俺を斬るか?斬れるかな、おまえ達に」


 岳賦がくふが鋭く睨めつけると、浪人達は一瞬たじろいだようにみえた。


「だが、国を奪われ、家族を殺されたおまえ達の怒りや怨みもわかる。ゆえにこそ、俺もこれまで手を貸してきたのだからな」


 岳賦がくふは、取り囲んだ者達を見回して提案した。


「では、こうしよう。こやつをいまから解き放つ。おまえ達は俺に頼らず、自らの力でこやつを捕らえてみせろ。その時は、俺も口は出さぬ。好きにするがよい」


 浪人達は無言のまま顔を見合わせ、岳賦がくふの方へ肯いてみせた。


 岳賦がくふは縛られ動けない齊訡せいぎんへ向かい、


「聞いた通りだ。これからおまえを解放する。生き延びたければ、死ぬ気で奴らの包囲を切り抜けろ」

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