イレブンゲーム

アイル

第1話「絶対領域ってかっこいい言葉だよね」

「私たちは運命で結ばれているのよ、新藤くん」


この状況で冗談を言えるのは流石というべきか。

事態を懸命に打開しようとしている俺に、ヤツは呑気に話しかけてきた。


俺の手がプロピアニスト並みに高速でキーボードを叩いてる横には、机に腰掛けた女子高生の絶対領域。

普通なら舞い上がり心臓は高鳴っているだろう。

さらには男子高校生の部屋に同級生の女子と2人っきりというシチュエーション。

健全な青少年なら、え、もしかしてこいつ俺のこと好きなんじゃね?と妄想を掻き立ててしまうくらいにはお決まりのテンプレ展開だ。

だが、俺のこの胸の高鳴りは嬉しさではなく圧倒的絶望からきていた。


「いくら足掻いても無駄よ。ネットは繋がらないし、スマホも圏外。逃避行はやめて現実と向き合うべきだわ」


ヤツの言葉を右から左に聞き流しているとパソコン画面が突然ブラックアウトして、黒い画面が鏡のように俺の焦り顔を写し出す。

横を向くと満面の笑みでパソコンのコンセントを片手に掲げている悪魔がいた。


「あ・き・ら・め・な・さ・い」


悪魔がささやく。


「……嫌だと言ったら?」


「そうね、次はそのパソコンを窓から投げ捨てようかしら」


俺の脳内が高速でフル稼働しシュミレーションする。

諦めよう。

俺の経験上、ヤツはやると言ったら必ずやる。さすが悪魔。

1秒にも満たない間に決断を下し、俺は武力による脅しに屈する。

諦めの言葉を吐かないのはせめてもの抵抗だが、ヤツは俺の心を察したように満足げに微笑む。


「よろしい」


そう言いながら悪魔こと"滝城あかね"はまるでペットの犬を撫でるように俺の頭を撫でた。


こうなってしまった数時間前のことを思い返しながら、俺は深いため息を吐いた。

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