第22話 下水道の依頼
ゼベシュに来て二日目の朝。
俺とフレキは起きてすぐ宿屋を出た。
「朝ご飯をどこかで食べようか。フレキは味が薄い方が良いんだよね」
『む? わしは気にせぬぞ? 先代と旅していたときには色々食べたものじゃ』
俺とフレキは適当に露天で焼いた肉を買って食べる。
『ふむふむ。懐かしい味がするのじゃ。確かに濃い。狼ならば、さけた方が良いじゃろう』
「そんなの大丈夫? 俺は美味しいけど」
『わしは、魔狼じゃ。それも魔狼の王。少しぐらい塩辛い物を食べようともなんてことないのじゃ』
「そっか」
お腹がいっぱいになった後、俺とフレキは冒険者ギルドに向かった。
下水道の掃除依頼を引き受けるためだ。
冒険者ギルドの建物の中に入ると、昨日より沢山の人がいた。
「おお、なにかあったのかな?」
『単に朝だからじゃ。冒険者は朝に依頼を受けて、依頼先の場所に向かうのじゃ』
朝一番に行かないと美味しい依頼は取られてしまう。
だから、みな早朝に集まるらしい。
『それにできれば、日帰りで済ませたいゆえな』
「なるほど」
仮に移動時間含めて十時間かかる依頼でも、早朝に出立すれば、その日のうちに帰ってこられる。
泊まりになったら、余計に宿泊費や準備が必要になり経費がかさんでしまうだろう。
『それが冒険者の常識じゃ』
フレキは、先代死神の使徒が冒険者として活動するのを従者として手伝っていたのだ。
だから、冒険者ギルドのシステムや常識にも詳しい。
俺は依頼掲示板の前から人が少なくなるのを待った。
新人なのに、先輩方と依頼を取り合ってもいいことは無いと思ったのだ。
『下水道掃除をとられるかも知れぬぞ?』
「まあ、その時はその時だよ」
いざとなれば、忍び込めば良い。
そのとき、独り言を呟く俺を見て、一人の冒険者が怪訝な顔をして去って行った。
フレキの声が聞こえないからと、会話するのは控えた方がいいかもしれない。
三十分ぐらい待って、やっと人が少なくなる。
「……さて、下水道掃除は」
下水道関連の依頼はすぐに見つかった。
【下水道の鼠退治】
・一匹につき二千ゴルド。
・五級以上推奨
それしか書かれていない。
「あれ、掃除依頼もあったと思うのだけど……」
『…………』
フレキはじっと俺を見ている。
「……むう」
困った。
死神の使徒として、無益な殺生は厳に慎むべきことだ。
問題は、鼠退治が無益な殺生に入るかどうかである。
俺は鼠を食べない。下水道の鼠の肉など特に臭そうだし、食べたくない。
食べない生き物を殺すことは、基本的に俺はしない。
俺は蚊や蠅すら意識的に殺さないようにしているぐらいなのだ。
「だが……」
鼠が増えれば、疫病の温床になる。
増えた鼠は食料も荒らしに来るだろう。
鼠を殺さなければ、人は困るのだ。
ならば、増えすぎた鼠を殺すことも、また人として自然な行いと言えなくもない。
「うーん。でもそうなると」
殺さなければ困るというならば、人里に近づいた熊や鹿も殺して良いことになる。
もっといえば、他人に迷惑を掛ける人族も殺して良いことになる。
「…………」
ちらっとフレキを見ると、
『…………』
フレキは俺に背を向けてお座りしていた。
その背中で、それは自分で考えろと言っているかのようだ。
「……うーん」
「どうした、少年?」
依頼掲示板の前で唸っていると、突然、ギルド職員に声を掛けられた。
「あ、いや。昨日、下水道掃除の依頼が出ていた気がするのだけど……」
「下水道掃除は詰まりが発生したときにだけでるんだよ」
どうやら、昨日のうちに詰まりは解消したらしかった。
「鼠退治も掃除も大して手間は変わらないよ?」
「そうなのか? ちなみにだけど、失敗した場合のペナルティって」
「鼠退治に? いや、まああり得るか。鼠は素早いからな」
ギルド職員は、納得したようにうなずいた。
「心配するな少年。鼠退治は常設依頼だからな」
「常設?」
「そう。常設依頼の場合、依頼の受諾手続きが必要ない。殺した鼠を持ってきたら、その分の報酬を渡すことになっている」
それは助かる。
失敗続きで、除名されかけている冒険者への救済もかねているのかもしれない。
「少年のような五級なりたての冒険者のための依頼だからね」
「それは助かるけど、下水道に入るのに手続きはいらないの?」
「問題ないよ、冒険者なら手続きなしで入れるから」
どうやら冒険者ならば下水道に自由に入れるらしい。
ならば、難しいことを考えずともいい。
「あ、ちなみに、下水道ってどこからはいればいいの?」
「えっと、こっちにきて」
俺とフレキは冒険者ギルドの裏庭に案内された。
「入り口はいくつかあるんだけど、冒険者ギルドで管理しているのはここ」
「おお、こんなところに出入り口があったとは」
誰でも入れるようにしたら、犯罪者の巣にされかねない。
街全体の治安が悪くなるだろう。
だから、誰でも自由に出入りさせるわけにはいかない。
だが、冒険者は毎日のように入り込む。
それをいちいち管理するのはとても大変だ。
だから、こそ冒険者ギルドの中庭に出入り口を用意したようだ。
「ありがとう、助かった!」
「あ、少年」
お礼を言って、早速中に向かおうとしたのだが、呼び止められた。
「中古で良いからちゃんとした武器と鎧は買った方が良いよ?」
「そっか、そうだね」
「盾も大事。あるのとないのでは全然違うから」
「わかった。ありがとうね」
「うん、ちなみに、武器防具なら、この店がオススメ」
「何から何まで、ありがとう、装備買ってくる」
そして、俺とフレキは冒険者ギルドを出たのだった。
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