第18話 冒険者ギルド

 そして、俺とフレキは冒険者ギルドに向かう。

 大通りから一本裏に入ったところに冒険者ギルドの建物はあった。


 三階建ての、それなりに大きな建物だ。

 大きな看板に「冒険者ギルド」と書いてあった。


「フレキに読み書きを習っておいて良かったよ」

『うむ。人として生きるには覚えておいたほうがよいからのう』


 俺とフレキはギルドの建物の中へと入る。

 建物の中には沢山の人がいて、騒がしい。


 俺はまっすぐに正面にある受付へと向かった。

 受付には仕事ができそうな三十代ぐらいの男が立っている。


「冒険者になりたいのだけど」

「身分証はある?」

「仮身分証なら」

「見せて。うん、問題ないよ。読み書きはできる?」

「はい」

「じゃあ、これを読んで、同意するのなら、必要事項に記入してサインしてくれ」


 そういって、五枚の文字がびっしり書かれた紙と、記入用紙を渡された。


「ふむふむ」


 五枚ほどの紙には、冒険者ギルドのシステムの説明が書かれていた。


 依頼は掲示板に貼られるので、受けたい依頼があれば、受付に持っていけば良いらしい。

 依頼にはランクがあり、冒険者の等級によって、受けられるランクが違うようだ。

 一番上は一級で、一番下が五級らしい。


 依頼を達成した実績で、五級から徐々にランクがあがっていくのだ。 

 あまりにも依頼を受けなかったり失敗が続けば降格もありうるようだ。

 一番下の五級ならば、降格ではなく除名になる。


 従魔登録制度にも書かれている。

 従魔の証に首輪をつける必要があり、従魔が暴れたら、その責任は冒険者が負うことになるらしい。


 俺は紙に書かれたことを読み、必要事項を記入して受付へともっていく。


「うん。確かに。それじゃあこの魔導具に手を触れて」


 指示に従って、魔導具に手を触れると、冒険者ギルドのカードに俺の名前が刻印されていく。


「これで、フィルは冒険者だよ。おめでとう」

「ありがとう。あ、従魔登録もしたいのだけど」

「そっちの狼?」

「そう。昔からの相棒なんだ」

「了解。首輪代と登録料をもらうよ」


 淡々と事務的にフレキの従魔登録が終わる。


「これから人神さまの神殿にお参りしようとおもっているんだけど……」

「ああ、狼は入れないものな。ギルドで従魔を預かることもできるよ。手数料は掛かるけどね」

「じゃあ、お願いするよ」


 冒険者ギルドには活気があり、受付は忙しそうだ。

 だから、受付担当者の仕事は基本的に事務的で、非常に早かった。

 冒険者たちも忙しそうで、新人である俺に絡んでくる者もいない。


 ギルドに預けるとき、

「きゅーん」

 フレキはまるで可愛いペットのように甘えた声を出す。

 演技が上手い。


「フレキ、しばらく待っていてくれ。人神さまの神殿にお参りしたらすぐ戻ってくるからな」


 そして、俺はフレキと別れて、歩き出す。

 途中、依頼票の貼られた掲示板が目に入った。

 五級の俺でも受けられる依頼も、それなりにありそうだ。


(下水道の清掃、鼠退治、迷い猫探し……、五級でも受けられる魔物退治も一応あるな)



 冒険者ギルドを出ると、まっすぐに人神の神殿へと向かう。

 寄り道などしたら、フレキがへそを曲げてしまうだろう。


 神殿に到着すると、先ほど対応してくれた門番にギルドカードを見せる。


「おお、早速来たな。少年。確かに確かに。身分証はばっちりだ。記帳してくれ」

 指示に従い、記帳を済ませる。


「少年、人神さまのご加護を」

「ありがとう」


 俺は門番にお礼をいって、人神の神殿の門をくぐった。


 信者たちの服装は様々だが、白い服を着ている者はいない。

 白い服の着用を許されるのは神官だけのようだ。


 神官は、金や銀、青や赤の装飾が施された白い絹のガウンを身につけている。

 それが人神の神官服なのだろう。


(死神の神殿はないから……神官もいないし、よって神官服もない、か)


 少し寂しさを感じながら、俺は信者の列に交じって少し歩き、大きな建物の中へと入る。

 天井の高い大きな部屋があり、正面に大きな像があった。

 恐らく人神の神像だろう。


 その像に向かって、信者たちは両膝と頭と両手を地面につけて、礼拝している。

 人は沢山いるが、誰も何も言わず、物音も立てない。静謐な空間だった。


 俺は立ったまま神像をじっと見る。

 神像自体はただの石だ。だが、

(神域に雰囲気が似ているな)

 神気とでも言うべき、厳かな空気がだ漂っている。


 もちろん、神域に比べたら神気の濃度はなきに等しいほど薄いものだ。

 だが、ここは、確かに人神の領域なのだと俺に実感させるには充分だった。


(人神さま。信者ではありませんが、ご挨拶に参りました。よろしくお願いいたします)


 俺は心の中で挨拶する。

 俺は死神の使徒だが、他の神に敬意を払わなくてよいというわけではない。

 不死神は別だが、他の神とは友好的な関係を築きたいものだ。


(人神さま。私が扱うべき神器がこの近くにあるようです。探すことをお許しください)


 心の中で人神に挨拶を済ませてから、神具である大鎌のありかを探る。


(ん? 地下か?)


 中に入って初めて気付いたが、鎌の気配はどうやら下にあるらしい。


(しかも、これは、かすかにだが不死者の気配?)


 人神の神気のせいで不死者の気配に気付くのが遅れた。

 だが、確かにこれは不死者の気配である。


(どこだ?)


 気配を探るために、集中していると、

「どうかされましたか?」

 後ろから声を掛けられた。

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