第4話 転生者フィルその2
『フィル。魔導具以外の魔法はどうだったのじゃ?』
「よくわからないけど、攻撃魔法とか治癒魔法があったような」
『治癒は魔法ではなく神の奇跡じゃ』
奇跡を行使できるのは使徒だけだとフレキに教えてもらったことがある。
いや、奇跡を行使できる者を使徒と呼ぶと言った方が正確かも知れない。
「でも神の奇跡って感じじゃなかったんだよなぁ。いや、治癒の神の使徒が沢山いたのかな」
俺の前世では病気や怪我を治すことができた者は複数いた気がする。
『使徒はそう多くないはずではあるのじゃが……』
「それに、奇跡って言うか魔導具を使っていた気がするよ」
血管とか口とかに管みたいなのを突っ込んだり、傷口をバチッと止めたり。
「俺は治癒術を使えなかったぽいし、詳しくもないからわからないんだけど」
前世の記憶は、夢の中の記憶に近い。
ぼんやりとして、どんどん忘れていくのだ。
加えて、俺自身にまつわることはまったく記憶にない。
まるで、前世に俺という人物がいなかったかのようだ。
ならば、前世というのはおかしい気もする。
過去を見ただけなのかもしれない。そんな気がした。
『ふむ』「わふぅ」
フレキと一緒に、母と弟妹たちも首をかしげて考えていた。
『フィルが先代使徒さまの転生体でないならば悠久の過去から来たのかもしれぬなぁ』
「やっぱり、俺の前世の記憶に合致するような地方はないの?」
『ない』
フレキは断言した。
「俺を転生させたのは、死神さまだよね」
俺がそういうと、フレキはうなずいた。
死神は輪廻の輪を司る神である。転生はまさに死神の領分なのだ。
『記憶を持ったまま、もしくは記憶を与えられて輪廻の輪から現世へ送られたことには意味はあるのだろうと思うのじゃ』
「どんな意味が?」
『わからぬ。わかるはずもない。いと高き死神さまの真意など、卑小極まる我にわかるわけもない。だが――』
そこまで言って、フレキは黙った。
恐らく、死神は自分の使徒にするために、俺を転生させたのだ。
(俺に使徒が務まると思いますか?)
声を聞いたことも、姿を見たこともない死の神に向かって、俺は心の中で尋ねた。
当然、返事など在るわけもない。
フレキによると、使徒になれば、奇跡を使えるようになる。
呼吸したり歩くことのように、教わらなくとも自然と奇跡を行使できるようになるという。
だが、奇跡を行使すると身体と精神に負担が掛かるから、鍛えておかねばならないらしい。
『使徒にならなくとも、奇跡に耐えられる身体を作って無駄にはならぬ』
そういつもフレキが言っている。
「まあ、全ては大人になってからだね」
『うむ。使徒になるにしてもならぬにしても、奇跡の行使に耐えられるよう身体と精神を鍛えることは無駄にはならぬからな!』
「そうだね」
『ああ、人族社会は魔狼社会以上に弱肉強食。鍛えておかねばならぬのじゃ』
「そんなに?」
『弱者は食い物にされるのは当然として、強くとも愚かであれば、食い尽くされるのじゃ。だから、鍛え学ばねばならぬぞ』
「わかった。頑張るよ」
俺は十歳。難しいことはまだ考えなくて良いだろう。
ただの子供に過ぎないのだ。教えてくれることを一生懸命学ぶしかない。
◇◇◇◇
さらに三年が経ち、俺は十三歳になった。
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