第3話 転生者フィル
俺には前世の記憶があった。
生まれおちた直後、困惑したことをよく覚えている。
突然、自分が赤子になっていたからだ。
「いや、名前については相変わらずさっぱり」
『そうか』
フレキは少し残念そうだ。
「フレキ。名前を思い出せない以上、絶対ってことはないけど……、俺は使徒さまの生まれ変わりじゃ無いと思うよ」
『そんなことは期待しておらぬわ』
言葉とは裏腹に、薄く期待していることはわかる。
俺の髪と目の色が先代使徒と同じだからだろう。
『名前以外に思い出したことはないのか? 改めて今思い出せることを全て語るが良い』
「全てか」
俺は何度も語っている。
改めて語らせるのは、語ることで前世の記憶を思い出すことを期待しているのだろう。
「うーん。そうだな」
俺はフレキに語っていく。弟妹たちも大人しく俺の言葉を聞いていた。
遠くと話す携帯できる手のひら大の板のような装置。
人を乗せ、自動でとても速く走る鉄の乗り物。
遠くの情景を映し出す四角くて薄い大きな装置。
俺が語り終えるとフレキが言う。
『やはり魔法技術が発達していたようだな。古代には現代より優れた魔法文明があったというし、古代の記憶かもしれぬのう……』
俺が前世でみた装置類を、フレキは古代の魔導具だと考えたようだ。
「未来の可能性は?」
『未来か。もちろん、その可能性もあるのじゃ。技術以外には何か覚えていないのか?』
「子供はみんな集められて集団で勉強していた。貴族がいなくて、政治のリーダーは投票で選んでいたな」
『学校に民主制か。それも古代にはあったと聞くのう』
やはり、フレキは俺の前世の時代を古代だと推測しているらしい。
「度量衡は重さがグアム、いやグラム? 長さがメトルだがメートルだった気がする。古代の単位でそんなのない?」
『それは聞いたことがないな。そこまで思い出せても、自分の名前は思い出せぬか?』
「うん、そもそも、俺が大人だったのか子供だったのか、男だったのか、そもそも人間だったのかすらわからないんだ」
だが、赤子ではなかったことだけはわかる。
俺の自我に関わるところは、まったく思い出せない。
『親兄弟姉妹は?』
「それも、まったく思い出せない」
『神は?』
「神の名前も覚えていないけど、信仰される神はいたと思う。それこそ八百万とか」
『多すぎる……いや、現代でも人にあまり知られていない神を合わせればそのぐらいか? 古代は神の知識も現代よりは豊富であろうし……』
どうやら、古代には現代以上に優れた文明があったらしい。
フレキの言葉を聞きながら、俺はなぜ偉大な古代文明が衰退したのだろうかと考えていた。
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