第55話 真価

◇◇◇◇




「はい、最上階」



 僕はお姉さん先輩の言葉を聴きながら、お姉さん先輩の腰に手を回して一緒に二歩後退し、際限がない空と地面が永遠に続く空間を一気に創る。


 お姉さん先輩は目の前に黒い穴が出来て心底驚いていると思うが、僕の情報は止まることはない。


 二回目の世界では身体はまだ元気だが、精神がガクッと減らされた状態だ。すぐに雨を降らせクラウンの才能の誤認識を誘う。


「日影君! なんで身体から黒いモヤが出ているの!?」


「アブノーマルの知り合いがいましてね。ちょっと勝手に借りて来ました」


 お姉さん先輩の疑問に答えながら考える。


 全世界の人の未来の可能性を引き換えに僕の個人的な一回目の後悔を消してくれる才能を使った。


才能劣化アブノーマルスキル 瞬間忘却グリード


 一回目の世界ではアブノーマルと戦えると本気で思っていたが、僕のノーマルスキルでは手も足も出なかった。



 僕の未来の映像をお姉さん先輩に共有する。


「私たちは一回負けたと言うことね。コンティニューはあと何回使えるの」


「全世界を巻き込む程の才能です。もう使えません」


 僕の身体から出る黒いモヤは段々と薄くなっていき、出なくなる。


 チュートリアルは終わった。


「月夜先輩、周りに何も無いところに連れて行ってください」


「分かったわ」


 お姉さん先輩は何も言わないで了承してくれる。


 すぐさま見てる景色が変わる。




 空に。


 地面を創造するだけで良いなんて。やっと僕の才能全部をアイツにぶつけることが出来る。


「アブノーマルから離れてよかったの?」


「大丈夫ですよ、餌は撒いてます。後ろに飛んでください」


 お姉さん先輩は僕の言うことを聞いて才能を使ってくれる。



 僕とお姉さん先輩がさっきまで居たところに黒い穴が出来た。


 ムシャムシャ、ムシャムシャ、ムシャムシャと。


 気色悪い音を鳴らしてその黒い穴からアブノーマルが現れる。


 才能で食ったところから現れるって、どんだけ規格外なんだ? 魔法と言ってもいいんじゃないかと思うんだが、未来の僕はアブノーマルの他に転移する人がいると思ってたみたいだ。


 何がやばいってコイツは存在するのか? 頭の中すら覗けなかった。



 ポツポツと、濡れても濡れない雨を降らす。


 コイツの最大の弱点は強すぎる力に胡座をかいて研鑽をしなかったことだ。僕がアブノーマルスキルに唯一勝てるのがノーマルスキルで誰よりも研鑽を積んできたこの技術。


「日影くん、何をしたらいい」


「前の世界では足がなくて負けました」


「じゃ私は黒い穴が発現する前にどこかに飛べばいいのね」


 僕の足になると言うことはお姉さん先輩がアブノーマルを殺すというのが叶わない。


「日影くんは大事なことの優先順位が違う。アブノーマルを私の手で殺すことよりも、私は日影くんと明日笑って過ごせる未来の方が断然優先度は高いんだからね」


「でもそれじゃ……」


「悔しいよ、でもだって私じゃ敵わなかった! 私じゃ戦うという舞台にすら立てなかった!」


 前の世界の情報を見せてコレが今起こったことですと言っても普通は聞く耳を持たないと思うが、僕は本当に信用されてるな。



「私じゃダメなの。日影くん、お願い。アブノーマルを倒して」



 僕もアブノーマルに勝てなかったんですけど。と、そんなことお姉さん先輩にはどうでも良くて、僕が倒すことを願う? 信じて? 違う。


 お姉さん先輩の怒りは規格外な化け物に踏み潰された。


「嫌です。僕より強い月夜先輩が諦めてどうするんですか」


「えっ!?」


 僕は主人公じゃない、でも。



「目の前のアブノーマルを倒すよりも、パンケーキをひっくり返す方が難しいと僕は思うんですよね」



 お姉さん先輩は僕の言葉を聞いてフッと吹き出した。

 


「じゃあ、サポートはよろしくね」


「もちろんです」


 僕は主人公じゃない、でも、


 お姉さん先輩を主人公にしないとこの復讐の物語は綺麗に終われない。



 僕は『空間移動』の才能を共有して、お姉さん先輩から距離を取ると景色が一変する。


 クラウンの目の前に転移した僕は思っきり、クラウンの顔面を殴った。



「お前のアブノーマルスキル、借りるよ」



 未来で二回も殺されてるんだ、才能を借りるぐらいは許される。


 サブキャラの真価を見せる時かな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る