第50話 アジト
お姉さん先輩は海が近くにあるデカい倉庫で身を隠すみたいだ。
デカい倉庫が並んでいる一つの倉庫の前に着地して、やっとお姫様抱っこから解放された。
空奏の魔術師から隠れても、すぐに見つかるだろう。
お姉さん先輩には悪いが、それが現実だ。
空中飛行デートも楽しかった。このデートの為だけに空奏の魔術師に喧嘩を売ったと言ってもいいぐらいだ。
お姉さん先輩は見るからに古びた倉庫の扉に手をかけ、入っていった。僕も後に続く。
なんだろう、思ってたより古びた倉庫っていう感じはしない。倉庫って感じより基地の方が近いかも、なんか見てもわかんない機械も沢山ある。
キョロキョロと周囲を見渡している僕の肩の上から腕が生えてくる。
袖が白い、そしてゴツゴツした男の人の手だ。
僕は後ろから抱き着かれてしまった。
「やぁ」
小さく耳元に囁かれた男の声に背筋が震える。
僕が目をつぶってビクビク震えていると、お姉さん先輩が僕の様子に気づいたのか声をかけて来た。
「雷華、日影君にちょっかい掛けるのはやめて」
「ちょっかい? 人の自宅にノコノコ入って来て、日影君とも遊べないなんてあんまりじゃないか?」
え? ここ雷華の家?
「冗談だよ、日影くん」
僕の耳元で雷華は舌なめずりをした後に、僕が思っていた事の返事をされて気色悪い。
雷華の電気を操る才能は具体的な心まで読めるのか?
「いや、人の心までは読めないよ。ただ同じ景色を見て思う事は大体似通っている。この場で月夜と私の掛け合いを聞いて思う事は大体検討がつくだけさ」
……。……。……。
「これだけ当てられたら、今な〜んにも考えたく無くなるよね」
コイツなに!?
「雷華もういいよね? 私たちは空奏の魔術師に追われてるの」
「月夜が何をやったのかなら知っている。でも良く捕まらなかったですね」
「日影君の力に頼っちゃった」
「
「炎さんは日影君から右腕を奪われたらしくて、日影君との約束したってことで、私が逃げる時間もくれた」
「炎隊長から逃げ切ったのですか!?」
雷華の視線が僕に突き刺さっているような気がした。
オッサンは
空奏の魔術師でもオッサンはランクが上の方にあると思う。ランク的に言えば、お姉さん先輩と同じレベルかもう少し上か。
「これはますます調べたくなりました。月夜、ちょっとこの子を借ります」
「ダメよ」
僕の視界が一瞬で変わり、雷華が目の前にいた。そして僕の左肩に右手を掛けているお姉さん先輩の胸が背中に当たっている。
僕はキリリと真面目な視線を雷華に投げる、この場が長く続くように。
「冗談ですよ」
雷華はそう言いながら、抱きしめていた両手を肩と同じ位置に上げ、首を左右に振る。
その仕草見たお姉さん先輩は僕を解放した。僕は心の中で舌打ちした。
「雷華が私を仲間にしたいって言ってたよね? 私を仲間に入れて、アブノーマルに復讐したいの。空奏の魔術師と戦う準備はもう既に出来てるんでしょ?」
「月夜、残念ですが、仲間に欲しかったのは空奏の魔術師だった頃の貴女です。元空奏の魔術師は要らない。しかも追われてるというオプションまで付いている」
「それは……」
お姉さん先輩は当てが外れて、言葉が出なくなっていた。
「月夜先輩、待ちましょう」
「えっ?」
お姉さん先輩が驚いたところで、僕は雷華に向き直る。
「雷華は戦う準備は既に済んでる。じゃ雷華について行けば決行の日になるでしょ? 僕たちは人数が欲しいだけなんですから。で、雷華の狙いは?」
「私の狙い?」
雷華は吹き出すように笑い、それが落ち着くと。
「遊びですよ」
子供のような無垢な笑顔で雷華はそう言う。
「着いて来るというなら止めません。決行は一ヶ月後の予定でしたが、今日にずらします。どうせ月夜が入ってきた時点で空奏の魔術師にこの拠点もバレてますし、日影くんが面白いから今回は月夜の復讐を手伝ってあげます」
いや、今回はって……次はないから!
雷華は僕たちに四時間の猶予があると教えてくれて、地下に案内された。警報が鳴ったらこの地下の空間にいる人は空奏の魔術師の本拠地バベルタワーに転移するらしい。
「私、日影君助けて貰ってばっかりだね」
「はい、今度ちゃんとお返しして下さい」
「わかった、約束ね」
お姉さん先輩のはにかんだ笑顔が、堪らなく愛しかった。
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