第47話 眠り姫
◇◇◇◇
ピピピピピ、ピピピピピ。聞き慣れないアラームが私の眠りを妨げる。
いつもの家の匂いじゃない? 落ち着く匂い。
ベッドから起きて、目をさする。
ここはどこだろう? 私のベッドとは違うベッド。硬い。
あっ、日影君の家で寝ちゃったんだ。
すぐ横の机の上に置いてあるデジタル時計を見れば、八時を指している。日影君はリビングで寝てるのかな?
たっぷり寝て、元気になった。
これも日影君のお陰かな。
デジタル時計のアラームを止めて、ベッドを跳ねるように飛び起きると、部屋を出た。
扉を開けると、くしゃくしゃの紙が落ちる。
なんだろう、と思って拾うと……。
「一日私を好きに出来ます券!?」
これは日影君にあげた券だ。券の裏に返すと、ペンで文字が書かれてあった。
『空奏の魔術師を軽く倒してきます。これを見たら、月夜先輩は逃げてください。タダの一般人の僕は大丈夫です! 倒せなくても、殺したりはされないでしょうし!』
日影君からのメッセージ。
すぐに私は『空間移動』の才能で、家の玄関の前まで飛ぶ。
外に出ると、空の色はオレンジ色で埋め尽くされていた。柵から下を見ても、空奏の魔術師すらもいない。
「人がいない!?」
どこを見ても、人がいない。
マンションから見る外に違和感がある。私がここに来たことが鍵になったのか、違和感がある外の空間一面にB1サイズの紙が沢山貼ってあって、その紙の一つがめくれると、伝染にしてドミノのように全ての紙がペラペラペラとめくれ上がる。
沢山のめくれ上がった紙は一瞬で消えた。
これは日影君の才能の力?
私は呆気に取られる。
マンションの外は先程と違う。炎さんと両膝をついた日影君がいて、空奏の魔術師たちが周りを囲んでいた。
日影君が地面に倒れていく所で、正気に戻る。
私は『空間移動』を使い、日影君を抱きかかえる。
「炎さん分かってるの!? 日影君は戦いには向かない才能なんだよ!」
「おい月夜。そいつは違う、そいつは普通の『
私は知ってた。でも日影君に頼ったのは私だ。
「もういい。炎さんもいるし、こんなに空奏の魔術師がいたら、ここから逃げる事は出来ないよ。炎さんが私を捕まえるの?」
私が抱きかかえる日影君の体温は段々と冷たくなっていってるのに、全然実感がわかない。
いつもみたいにあっけらかんと軽口をたたいて、動き出すんじゃないかと思ってる私がいる。
「一時間だ。一時間、俺と空奏の魔術師連中は、お前に手出ししない」
「なんで?」
「その男に言え。命と引き換えにお前を逃がしてくれ、と、俺に言ったんだ」
日影君が、そんな事を。
日影君を抱きかかえたまま、私の『空間移動』を使い、飛ぶ。
◇◇◇◇
「炎さん! いいんですか!」
下っぱが俺の言う事に口を出す。
「俺に意見するなんて良い度胸してんな」
月夜が空間移動で、何処に飛んだか分からないが、青空日影も一緒に連れて行かれてしまった。
オレンジ色の空は、月夜が空間移動で飛んだ瞬間から、ガラリと変わる。
「俺の……いや、違うな。俺たち空奏の魔術師の時間を遅くして、空の色まで変えやがった。普通じゃねぇな、化物かよ」
夕方の風景だったのに、空は青く、爽やかな朝の陽射しが目を焦がす。
青空日影が俺にのみ集中していたらと考えて、俺はゾッと身体が寒くなり、額から冷汗が垂れた。
「ここにいる空奏の魔術師が全員、青空日影の術中にハマって、そして誰一人騙されていることにすら気づかなかったのか」
俺はアイツが、俺を殺す気じゃなかった事に安堵し、それと同時に悔しさが心の底から滲み出る。
「あの目、あの言葉、あの態度」
しかもアイツは天下の空奏の魔術師だって出来ない事をやってのけた。
「まさに魔法……俺が小さい頃に憧れた空奏の魔術師みてぇだな」
奇跡としか思えないことをやって月夜を守ったアイツを、カッコイイと認めてしまう俺がいた。
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