第46話 弱者の戦い方
僕は最初から負ける事を考えている。
僕の人生は負けてばかりだ。
負けて来たから、オッサンの攻撃を避けれている。
負けて来たから、勝ちに貪欲になれる。
負けて来たから、僕は勝者よりも、死に物狂いの敗者であろうとする。
「僕は勝ってきた奴らよりも、諦めが悪いぞ」
僕は敗者だ。この揺れようもない事実は変わらない。
オッサンはそれほどに強い。
正直、分身に使える力はもう、残ってない。幻影で見えないように隠れていたのに、それを維持出来ないほど力を使ってしまっていた。
オッサンは僕が正体を現したと思っているのだろうか? また幻だと思っているのだろうか?
まぁオッサンから逃げ回っていただけなのに、やっと現れた僕本体がガス欠で満身創痍の状態とは思わないだろうな。
オッサンが空中にいたのに、トンッと僕の至近距離に現れた。
僕の肩を叩くように気軽に、オッサンは右手で僕の心臓を貫く。
オッサンは周囲を見渡しながら、僕が何処から現れるのかと警戒している。
本人を目の前にして、キョロキョロされちゃ、嫉妬しちゃうぞ。
両手でオッサンの右腕を、離さないように掴む。
お姉さん先輩の為に命を張っているのに、オッサンぐらいは道連れにしないと割に合わない。
「お前が本体か!?」
僕は運命を決める。
未来の僕や緑山さんから止められてる技。もうすぐ死ぬ状況でも罪悪感を覚えている僕に心底うんざりする。
『
オッサンの姿かたちが不安定になり、世界からオッサンの有るという情報を、僕の才能で消していく。
ジグソーパズルのピースをはめるように、慎重に。
頭が悲鳴をあげて、視界も虫食いのように穴ボケて広がっていく。
オッサンは自分の右腕を躊躇なく切って、僕の射程範囲から逃げた。
僕はオッサンの右腕を、この世界から無くし、両膝をつく。
「ここまでやったのに、右腕だけ」
オッサンは道連れにしときたかったんだが、しょうがない。
空奏の魔術師の、しかもオッサンの右腕を貰って逝けたら、儲けもんだろう。
「才能が切れる前に、なにか言い残す事はないか?」
オッサンは僕の才能がもうそろそろ切れることを感じ取っている。
才能が切れると、後払いにしていた身体のダメージが、僕を襲う。
心臓がないんじゃ、そのまま僕は死ぬ。
「僕が死ぬって事で、月夜先輩は逃がしてくれないですか」
オッサンは目をつぶり、空を見上げる。
「一時間だ。お前の命と引き換えに、俺と空奏の魔術師たちも一時間。月夜には手出しさせない」
一時間か。命をかけてまで、稼いだ時間が一時間。
良くやった! と、僕は僕自身を褒めたい。
宇宙のような空間は消えていく。
僕の才能の力は、段々と弱くなっているようだ。
空を見れば、空の色はオレンジ色で塗りつぶされている。これがオッサンと空奏の魔術師を僕が、止めていられた時間。
「もう夕方か」
オッサンが零した言葉は、なぜか悔しそうだった。
手足の感覚もなくなって、急に寒くなってくる。これが死ぬ間際の感覚か。
まぶたを静かに閉じる、もう開けることは出来そうにない。
あれ、寝てたっけ? 立ってたっけ?
僕は考えるのはやめた。凄く眠い。
起きたら、お姉さん先輩の所へ行って、、、
自慢しよう、自分の事のように喜ぶからな。
月夜先、輩……。
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