第41話 湧いてくる殺意
コーヒー牛乳をコップに移し、カウンターキッチンからリビングに持って行く。
ソファーにお姉さん先輩が座っていて、テーブルを挟んだ向かいのソファーが空いているが、僕はお姉さん先輩の横に座る。
両手に持ったコップを机に置く。
「あの日のことは今でも思い出す」
お姉さん先輩はテーブルに置かれたコップを持ち、にこやかにポツポツと話し始めた。
「私は小学1年生だったんだけど、初めて才能が発症した日。お母さんとお父さんに私ぐらいの大きなぬいぐるみを頼んだの」
そう言えば僕のおばあちゃんも、妹の才能が発症した日には何でも買ってあげると言って、大袈裟に祝っていたな。
「お母さんもお父さんもウッキウキですぐに買いに行こう! ってなって、ショッピングモールに行ったの。昼ごはんはそこで食べたわ。お子様ランチにでっかいパフェ」
でっかいパフェ……。
「お母さんもでっかいパフェを食べてて、お父さんはいつもの事だって呆れながら私とお母さんを見てた」
フフっと笑い零すお姉さん先輩につられて頬が緩むのを感じる。
「昼ごはんも食べ終わると、私はお母さんとお父さんの間に入ってショッピングモールを探検して、アクセサリーとか服とかを見て回ったわ。お母さんはセンスがあるんだけどお父さんはセンスがなくて……そして、そして、おもちゃコーナーに行ったの」
両親とお姉さん先輩の仲睦まじい姿がイメージ出来た。
「そしてお母さんとお父さんは死んだの」
脈略が無さ過ぎて意味が分からなかった。
コップのコーヒー牛乳を飲んで落ち着いた、が、さっぱり分からなかった。
「ショッピングモールの天井にはガラス張りで張ってあって、1階からも真上を向けば空が見えるの。私がいたおもちゃコーナーは2階だったんだけど、太陽が昇っている時間だったのに」
黒い霧が覆われたように真っ黒だったとお姉さん先輩が続ける。
「ほら、模擬戦争の対抗戦で日影君のチームにレアスキルのバリア貼る男の子いたじゃない。お父さんがそのレアスキルの同系統の才能を持ってて、私とお母さんを守って死んだわ」
えっ? さっきから『死んだ』の脈略が無い。
「あぁ、話だけじゃ分からないよね。もうショッピングモールがアブノーマルの才能の中だったわけ。沢山の人がいたのにあっという間にお母さんと私は残して消えたんだよ」
お姉さん先輩に了承を貰い、お姉さん先輩の手に触れる。
『
記憶のショッピングモールに入れた。小さいお姉さん先輩可愛いなと言っている暇はない。
幼いお姉さん先輩の前で、大人の男の人が誰かに食われてるみたいに頭から無くなって、胸、腹、太もも、足と順に消えていく。この人がお姉さん先輩のお父さんだった人だろう。
食われていくのはお姉さん先輩のお父さんだけじゃなく、周りにいる人も同じ。
身体は歯型のような跡と共に穴ぼけて消えていく。
ショッピングモールは耳障りな『ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ』という気色の悪い音がずっと響いていた。
僕は耳障りな音と、惨い殺戮現場に堪らなくなり、情報の共有を切る。
はぁはぁ、と息を切らす僕を見詰めるお姉さん先輩。
「日影君も人がわけも分からず食べられるさまを見るのは堪えたみたいだね」
僕はガクガクと震える両手でコップを持つと、口まで持っていき一気に飲み干す。
コーヒー牛乳の甘みが口全体に広がり、苦味が降りて来る間に、手の震えは無くなった。
お姉さん先輩のコップも空だったのでキッチンに行き、冷蔵庫からコーヒー牛乳の紙パックを持ってリビングに戻った。
お姉さん先輩のコップにコーヒー牛乳を注いで、僕のコップにも注ぎながらソファーに座る。
紙パックをテーブルの上に置くと、お姉さん先輩が話し出す。
「私の空間移動はお母さんからの遺伝なの」
だからアブノーマルの才能の中でも逃げられたのか。
いや、でもお姉さん先輩のお母さんも死んだんじゃ……。
「お母さんとは別々に逃げたの」
またお姉さん先輩の手を触る。
『
幼いお姉さん先輩とお母さんの対面が映像として流れる。
「助かるために才能を使いなさい。私たちの才能ならショッピングモールに覆われている真っ黒い壁を抜けることが出来るから別々に逃げましょう」
「嫌だ! お母さんといるもん!」
幼いお姉さん先輩の泣いてる姿にお母さんは額にキスをする。
「別々に逃げるのはどちらも助かるために必要なことです。真っ黒い壁を抜けたら会いましょう。勝負だね! お母さんも頑張って、月夜に負けないようにしなくちゃ!」
お姉さん先輩のお母さんは平然と今の状況では不自然な優しい笑顔を崩さない。
「お母さんには負けない!」
「よーいドン!」
幼いお姉さん先輩は必死に足を動かし、才能を使う。転けそうになりながらも空間移動をしていた。
僕は幼いお姉さん先輩の後ろ姿を見詰めるお母さんの姿を見る。
空間移動の才能を持っている幼いお姉さん先輩も知っていた。後ろにいるお母さんが一歩も動いていないことに。
お姉さん先輩のお母さんは、幼いお姉さん先輩を逃がす確率を上げるために自分が囮になったんだと思う。
僕はお姉さん先輩から手を離す。
僕は怒っている。
頭は冷静で腹の奥からマグマのような怒りがグツグツと湧いてくる事に僕は心底驚いている。
「そのアブノーマルは何処にいるんですか?」
僕の全力を持って……ソイツを殺す。
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