第40話 共犯者の理由


 僕とお姉さん先輩は空奏の魔術師から逃げてる。


「日影君を巻き込んじゃったね」


 お姉さん先輩は目を涙で濡らす。それがしょうがない事だとでも言うように。


「月夜先輩のセイですよね」


「日影君が手を伸ばしたら届く位置に居たから、しょうがないよ」


 そうですか。……いや、しょうがなくないよ。


 一瞬お姉さん先輩のキッパリ言う物言いにコッチが間違えたんじゃ、と心配になったが全然間違えていなかった。



『空間移動』で移動しながらここまでの経緯を聞いた。


 追われている始まりは、空奏の魔術師ですら許可なく入ってはダメな所にお姉さん先輩が許可なく入った。


 終了。全面的にお姉さん先輩が悪い。



 呆気なくバレて空奏の魔術師達に追われている。


 早く謝ってくれよと路地裏に着地して隠れながら思う。


「あっ、こっちに来た」


 お姉さん先輩はギュウと僕の方に身を寄せる。


 そして大きくて柔らかい物体が僕の胸に当たって……。


「月夜先輩」


「んん?」


「僕は月夜先輩の味方ですから」


 お姉さん先輩の顔と僕の顔がもう少しで触れそうな程近くなっていた。


 そんな中でお姉さん先輩はポーとしたと思ったら、カァーっと顔が真っ赤になって頬が蒸気する。


「ありがと……」


 えっ、可愛い。



「いたぞ! 包囲しろ!」


 空奏の魔術師に見つかってしまった。


 おいお前! もうちょいタイミングを考えろよ!


「早くこっち!」


 お姉さん先輩の腕を引かれながら、空奏の魔術師たち恨みつつ……いたぞって言った奴は本当に覚えておけよ!



 お姉さん先輩の才能で空間を移動する。空奏の魔術師にも居場所が分かる才能持ちがいて、持久戦になると体力的に詰む。


 僕が居た方がお姉さん先輩の負担になるのでは? ハンバーガーショップにまで来て、お姉さん先輩が僕を巻き込んだ理由がよく分からない。


 空奏の魔術師たちが本気でお姉さん先輩を捕まえようとしているのに、こんな足でまといが居たら逃げれる物も、逃げられなくなる。



「ちょっと待ってください」


 僕は走るのをやめると、手を引いてたお姉さん先輩も止まる。


 僕の方に振り返ったお姉さん先輩。


「そうだよね」


 お姉さん先輩は僕の手を離し、薄らと涙を目に溜めていた。そして僕とは反対の方に身体を向けて「ごめん」っと言うと走り出してしまった。


 その後ろ姿を見て、僕は「ごめん」の意味が僕には分からなかった。







 僕は家に帰ってきた。


「ごめん」って意味も分からずに。



「すいません、さっきのは何だったんですかね?」


 お姉さん先輩は顔を赤くしながら家に入って来た。


「日影君の才能はこう言うとき便利だけど、普通の使い方に驚く日が来ようとわね」



 さっきの事だ。


 僕は走り出したお姉さん先輩の手を掴む。


「月夜先輩動かないでくださいよ」


「えっ?」


 路地裏から通りに出ると、通行人はお姉さん先輩に気づいてはいないようだ。


 通行人は誰か知らない顔をくっつけられて、それに気づいた人がパニックに陥っていた。


 そのパニックは伝染する。


「私達の顔。『共感覚ラビット』の情報の共有!?」


 お姉さん先輩は僕の方を見て唖然としている。


「これだけの人数を共有状態にするのは凄く疲れるんですか。この隙に僕の家に帰りましょうか」


「う、ん」


 助かったのにお姉さん先輩は釈然としない顔をしていた。




 で、家に帰ってきた所だ。


「さぁ、月夜先輩が仕出かしたホントに理由は何ですか?」



「殺人よ」



 僕の笑顔が引きつってるのが分かる。


「日影君はなんでも分かっちゃうんだ」


 え〜と、僕が思っていたのと違う。皆んなで食べようとしてた物をお姉さん先輩が食べてしまったとかのレベルの話だ。


 そんな殺人なんて、考えてもいなかった。


「お母さんとお父さんを殺した相手を殺そうとしたら、空奏の魔術師にバレて逃げて来たってわけ」


 新幹線では触れてはいけない所だと思って聞かなかった。聞く暇もなかったけど。


 お姉さん先輩の両親がアブノーマルに殺されたって言う話。



「両親が殺されたと言うのは月夜先輩が何歳の時の話しですか?」



 僕とお姉さん先輩は共犯だから、僕も理由だけは知っておかないといけないと思った。


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