第39話 逃走者


 新幹線に乗っていた次の日、僕は久しぶりに学校に来ていた。


 通学路には誰もいない。そんな中を一人寂しく歩く。学校は休日と言うわけじゃないけど早く着きすぎたみたいだ。


 お姉さん先輩の思い付きで行動する事が多かったインターンも、お姉さん先輩が居ないと始まらない。


 朝まで僕の家で待ってみたが、お姉さん先輩は現れなかった。



 あまり好きではない学校の匂いというのがある。


 下駄箱の匂い、廊下の匂い、階段の匂い、廊下の匂い。


 教室の匂い。


 静かすぎる教室に入ると何処か隔離された空間みたいだ。


 カチカチカチと時計が鳴る音をBGMに椅子に座ると、僕の前にあった緑山さんの席が無くなっていた。


 この前まではあったのに。


 いつも風景がいつの間にか変わってて、僕だけが時間の流れに取り残されている。そう感じた。


 流れに取り残された僕の周りを、皆んなが『邪魔』だの、『鬱陶しい』だのと、通り過ぎざまに言ってくる。


 僕ももう少し器用に生きれたら人の流れに逆らうこともなく、流れに身を任せて普通を味わえたんだろうか。普通に友達が出来て、普通に授業中に喋ったり、普通にご飯を食べたり、普通に放課後遊んだり、普通に部活をやったり、普通に恋人が出来たんだろうか。


 ちらりとお姉さん先輩が脳裏に過ぎる。


 恋人は普通じゃないな、ちょっと欲張った。



「はぁ」


 後ろからため息が聞こえた。


 朝イチで来た時は僕はドアを閉めてない。ボッチの経験上「いえ〜1番! あっ、いたの!?」と言う事を無くす為だ。


 ため息に振り向く事もない。何故かそう言う時に限って話掛けてくる奴がいるが、仲間が来るまでの暇つぶしに使われるだけだ。


「おい青空!」


 僕の名前を呼ばれる。


 振り向くというようなアクションを起こしていないのに対して、声をかけてくる奴は相当やばい。コイツは強行犯だ。


「おいって!」


 僕の肩に手を置いた新手の犯行に僕の脳が停止した。


 やぁと言葉にしながら振り向いて、そこには教師がいた。


「今日は……」





 僕は学校の校門を出て、通学路を帰っている。


 今日は創立記念日らしい。教師は休みと知らない奴が来るかもしれないと、学校に来ていたそうだ。今日来ていた生徒は僕だけだったようだがな。


 教師も随分変わったな。最初は生徒を退学処分にしようとしてたんじゃなかったか? 今日見た教師は熱血オーラを纏っていたぞ。


 教師が来て助かったのは事実で、学校の創作記念日とか知らないし。


 学校もない。インターンもない。


 僕はそよ風に吹かれてブラブラ街を歩くかな。


「あのお兄ちゃん変だよ」


「こら、見たらいけません!」


 くねくねとそよ風なっていた僕見て、幼い女の子がお母さんに怒られていた。


 高校に入学してから大変だった記憶しかない。高校に入る前の僕は一人の時に何をして時間を潰してたんだったか? 思い出せない。まぁ僕の一人の時の行動は思い出しても、つまらないことは確かだ。


 ファーストフードのお店でも行くかと、くねくねをやめて飲食店が建ち並ぶところに舵を切った。



 ハンバーガーショップで買い物を済ませる。袋を持って席に座る。十数台ある空中に浮かぶテレビは空奏の魔術師の映像で埋め尽くされてる。


 数個のテレビではニュースもあるが、空奏の魔術師が全国で見回ってるからか事件も昔ほど多くない。ニュースになる程でもないのが大半だ。


 雷華のようなテロリストは民間には伏せられる、丁度良い事件なんて滅多に起きない。


 袋からジュースの烏龍茶を取り出す。


「えぇ〜、ニュースが入りました!」


 空中に浮かぶテレビが慌ただしく叫び出した。


 ハンバーガーを袋から取り出し、紙を剥いて口に運ぶ。


「空奏の魔術師、月夜様が空奏の魔術師たちを相手に戦っています! どうゆうことでしょうか!」


 昨日まで空奏の魔術師として役目を果たしていたのに今日になったら空奏の魔術師に追われてるってどうゆうことだ!?


 テレビの中継が切り替わり、ビルとビルの間からお姉さん先輩が飛びながら出てくる。


 お姉さん先輩は空奏の魔術師の攻撃を受けてビルの中に強引に入っていった。


 僕だったら死んでるけどお姉さん先輩は大丈夫だろうと当たりをつける。


 アナウンサーはどういう事か分かってないようで、当たり障りのないことを騒いでいる。


 ビルの中を空奏の魔術師が集団になってお姉さん先輩を探してる。


 お姉さん先輩が空奏の魔術師に追われててビックリしたが、お姉さん先輩のことだ、何かやらかしたんだろう。


 早く謝らないと僕は知らないっぞっと。


 ハンバーガーを食べて袋からポテトを取り出す。


 ポテト三つ摘んで口に放り込む、ポテトは美味い!


『ピンチになっちゃった。また助けてよ日影君』


「そんなこと言ったって、月夜先輩はピンチにならないじゃないですか」


 お姉さん先輩の声で初めて幻聴が聞こえた。誰も聞いてないよね! 危ない、独り言を喋ってしまった。



「ちょっと空奏の魔術師たちに追われちゃってね」


 えっ? 幻聴? 幻覚?


 お姉さん先輩が僕が買った袋に手を入れて僕のハンバーガーを取り出す。


 ハンバーガーの紙を剥いて一口に頬張った。


 昨日僕は寝てなかったし幻聴、幻覚を見ても可笑しくない。


 そうだ、そうだよ、可笑しくない。今日ぐっすり寝れば大丈夫。


「日影君の反応がしたから来ちゃった」


 スマホのGPSを指しながらお姉さん先輩は可愛く小首を傾げる。


 え〜と、お姉さん先輩と一緒に居る所を誰かに見られたりしたら……それよりも空奏の魔術師に見つかったりしたら。



 ガシャンと大きな音がしてハンバーガーショップの壁が壊れる。


 えっ。


 えっと言う間に、空奏の魔術師たちが土煙から現れて。


「空奏の魔術師、星水月夜ほしみずつきよと他1名の身柄を拘束します」


 えっ。


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