第38話 幻覚操作


 僕は雷華と相対してる。新幹線で。


「え〜と、こんな所で放電はやめてください」


 新幹線で席が被った? そんなご都合主義あるか! お姉さん先輩は雷華がいても「着いたら起こして」と、眠りに入った。


 雷華は両手を広げてバチッバチッと拳に電気を集めている。


 あっ、これ終わった。



「青空日影君少し話しましょう。月夜も私がこんな公共場で才能を行使するとは思っていないようですし」


 雷華は才能を解き、両手を下げて座席に座る。


 お姉さん先輩は雷華がターゲットにすると言ってたが、僕の名前ももう既に知っていると……。ブルっと寒気が頭から足まで全身に流れた。


 少しの話だけで良いなら適当に流そう。


「適当に流したり嘘をついちゃダメですよ。テロリストの私の気が変わらない方が良いですよね」


 一気に警戒レベルは上がったぞ。



 雷華は僕のことを質問してきた。調べれば分かることと、僕しか知らないことを聞いてきた。


 調べれば分かることは「兄弟は?」や「何処に住んでる?」等などで、全部嘘偽り無く答えた。


 僕しか知らないことは「好きな食べ物」や「好きなスポーツ」等などで、全部嘘を教えた。


「君はよく余裕な顔で嘘つけますね。脅されてるのが分かんないのでしょうか? 嘘12、本当16。嘘ダメだって言いましたよね」


 ビックリした。雷華は嘘まで分かるのか。


 僕は『共感覚ラビット』で、反対側に座っている男性の身体状況を共有して話す。


「本当に聞きたいことを話せ」


 雷華は心が読めるのかいと言いながら「ここからが本題だ」と続ける。


 聞きたいことはもう終わりだったら詰んでたな。



「君の能力はインビジブルボディじゃないだろ」



 まぁ、雷華の前であれだけ使ってたらバレるだろ。


 僕は正直に言う。



「幻覚操作です」



 そうかと雷華は合点が行くと立ち上がる。それと同時に新幹線が止まり雷華は降りて行った。





 ドッと疲れたので新幹線の中で販売してる駅弁を三個とお茶を二本買った。


 新幹線が加速して進んで行く。外を見てもビルばっかりだ。子供の時はビルばかりだったとしても、宝石を眺めるように窓に張り付いていたのに。


 今では寝ているお姉さん先輩の二つの山に視線が引っ張られる。


 んん、とお姉さん先輩が口をつぐみながら伸びをする。欠伸をすると眠そうな顔で「雷華どこ?」と言った。


 二つの山から視線をそらして僕はお姉さん先輩にも用意していた駅弁とお茶を渡す。ついでに雷華と話したことと、もう新幹線から降りて行ったことを話した。


「へぇ〜、雷華は身体の電気信号の動きを見て、嘘か本当か分かるらしいから、日影君の話を聞いて雷華も驚いたでしょうね。半分は嘘ってどういう事よ」


 腹を抑えて吹き出したお姉さん先輩。



 笑いも落ち着いて駅弁のフタを開けて食べ始めた。


 僕が買った駅弁はホタテが三個とカニの脚が付けてるカニの炊き込みご飯。


 四千八百円と結構高かった。とでも言うと思ったか! インターンの実習生にも空奏の魔術師専用カードが使える。まぁ、お姉さん先輩が居る時だけだが買い物は半額に出来るカード。


 最近テレビで【空奏の魔術師の秘密】と言う番組で、カードの存在を知ってお姉さん先輩に作って貰った。空奏の魔術師はお金を使っても使っても無くならないとお姉さん先輩は言っていた。だからそんな半額カード知らなかったらしい。


 お姉さん先輩は美味しいと駅弁を褒めると「お金は?」と疑問顔で言ってきた。カードを使ってお得になった事を伝えたら不機嫌オーラで納得してくれた。


 お姉さん先輩は半額カードにまで嫉妬してる。『半額カードに頼るぐらいなら私を頼って!』と言葉では言わないがカードを使う度に不機嫌オーラを醸し出すのだ。



 僕も、お姉さん先輩と一緒に駅弁を食べることにした。


「美味しそうで、すで……ッ!」


 駅弁のフタをとった時にお姉さん先輩の胸のボタンが外れていることに気づいた。


 お姉さん先輩が伸びをしている時に胸のボタンが外れたのか? さっきまでシッカリ閉まっていたボタンが外れ、水色のフリルが男を誘う。ありがとうございます! って違う! 目のやり場に困る。


 僕は気づいてはならない。僕がボタン外れてますと言うとお姉さん先輩は恥ずかしくて「日影君の顔も見たくない」と言い出すかも知れないじゃないか!


 だから僕はお姉さん先輩が気づくまで見守ろうとしている。目的地に着くまでに気づいてなければ言うしかないが。


「あ! ボタンが外れてる」


 お姉さん先輩は自分で気づいて、僕の出番はなかったな。


 お姉さん先輩はボタンを付け直す。


「日影君見た?」


 もちろんと言うわけはない。お姉さん先輩の目を真摯な目で見つめ、知らなかったですよアピールをする。でもコレは言わないといけないと思った。


「ご馳走様でした」


「日影君はそんな人だよ。ボタンを外したのは私だけど」


 えっ!? お姉さん先輩は僕の反応を見て楽しんでいたのか。


「っと!」


 お姉さん先輩は袋を取り出した。ん? どっから出したんだ? お姉さん先輩は新幹線に乗る時にそんな袋持っていなかった。


「あ、コレ。雷華に日影君を貸す代わりにちょっと頼んでたんだよ」


 え? じゃブラ見せてくれたのは。


「正解!」


 僕の反応を見て回答するお姉さん先輩。そしたらもっとちゃんと見て楽しんどくんだった。


 僕が落ち込んでる傍でお姉さん先輩は袋から資料を取り出した。


「それはなんの資料ですか?」


「これ? コレは両親が殺したアブノーマルの情報」


 なんで雷華に? 空奏の魔術師なら何処からでも情報をなんて揃うのに。


「まぁ空奏の魔術師より上の権限がないとこの資料の情報は見れないのよ」


 お姉さん先輩はパラパラと資料を見ていくと眉間に皺を寄せる。



「クラウン」



 お姉さん先輩が一言。クラウン? なにを言っているのか僕には分からない。


 一拍を置いたらお姉さん先輩は資料を持ったまま僕の目の前から消えた。


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