第33話 先輩

◇◇◇◇




 僕は今日も今日とて人気者です。


 校門を潜れば告白されたり、部活の勧誘があったり、僕はそれを横目に見ながら通る。


 教室に入ればおはようと皆んなが一斉に声を揃えて言い出して、僕はそれを横目に席に座る。


 ……人気者どこ行った?


 ノーマルスキルで活躍した僕との距離感が分からないということか。


 それは分かるが無視は良くない泣くぞ。


 いつものおはようが来ないと顔をあげれば、緑山さんはまだ来てないみたいだ。


 緑山さんを友達って言っていいのかな?


 ボッチだった僕に『消しゴム落としましたよ』以外で話してくれた女子は緑山さんが最初だったな。


 今では黒川、白井さん、赤星さんまで友達認定していいかもしれない。


 高校に入って友達が四人も出来た。


 人生で一番エンジョイしてると言っても過言ではない。


 もうそろそろ学校も始まる。


 少しは僕も高校生レベルに上がったということだろうか。



 先生が入って来て、皆んなが席に座る。


 緑山さんの席はポカンと空いていて。


 寝坊かな? 遅れてくる事もあるだろう。


「緑山日向は家の都合で転校という運びになった」


 へ? 緑山さんが転校したのか?


 僕は咄嗟に口から漏れた。


「何処へ転校したんですか!」


 ハッと我に返り先生の返答を待つ。


 少しの沈黙の後に。


「プライバシーに関わる。詳しくは言えない」


 お前がそれを言うか? 俺のプライバシーを白井さんにペラペラ喋ったのはお前だろうが! でもプライバシーということでそれ以上聞かなかった。


 それではと先生が言葉を切ると、目の前にチェックマークのシートが浮かび上がる。


 授業は淡々と進められていく。


 昨日緑山さんは用事があると僕を置いてどこかに行ってしまった。


 最初の友達なのに僕は何も出来ていない。


 家も知らないし、好きな食べ物も、行きたい場所すらも知らない。


 友達と言っても、僕が知り得ることは何もなかった。


 友達とは? と考えていたら授業は全て終わってたみたいだ。



「青空、黒川さんと白井様は残ってください」



 先生がそう言うと赤星さんがまたねと僕にウィンクしながら帰って行った。


 可愛い。


 僕達三人は残されて、他のクラスメイトが全員教室から出ると先生が話し始める。


「君達には空奏の魔術師のインターンが来ている。特に黒川さんと青空は候補生でもないのに呼ばれるとは名誉な事だ!」


 仮でも憧れの空奏の魔術師に入れるのか!


 マジか!


 結果を残さねば! 緑山さんがくれたチャンスと思っても良いぐらいだし、転校した緑山さんにも気づいてもらえるように頑張らねば。


 友達が転校したショックで寝込むよりも、頑張ってる姿を見せるのが一番いいはずだ。



 先生は空奏の魔術師から支給されたという制服を僕達に渡した。


 人手不足な現状で明日から治安維持活動をやらないと行けないらしい。


 要は空奏の魔術師の雑用係だ。


 学業は免除される。


 その場の経験は明日に繋がると先生から力説された。


 最初は目の敵にしてたの僕は覚えてるからな。


 盛大な手のひら返しだとは思うが、冷めていた先生の目に熱が入っていたのは何が原因なんだろうか。


 僕達が帰ったのは辺りがすっかり暗くなってきた時だった。



 黒川も白井さんも用事があるらしくサッと帰って行った。


 友達との放課後の買い食いとかやりたかったが、それはまた今度みたいだ。


 断られないよね? 


 学校の帰り道。僕は黒川に貰ったステーキ券で高級ステーキを食べに行く。


 次に緑山さんと会う頃には空奏の魔術師になって驚かせてやろうと心に誓った。







 ピンピンピンピンピーンポーン、ピピピンピンピピピンポーン。


 僕の朝はけたたましくなるインターホンで目が覚める。


 何時だと思ってんだ! デジタル時計を見ると朝の六時だ。


 一切鳴り止まないインターホンをしり目にドアを開ける。


「ヤッホー、朝だよ!」


 やけに元気なお姉さん先輩がドアの前に立っていた。


「なんだいなんだい。ほら早く昨日あげた制服着て来てよ」


 僕は分かりましたと一言告げてドアを閉める。



 インターホンの電源を切り、再度ベットに入った。


「ほう、空奏の魔術師様に起こして貰う事なんてないのに、なかなかのお寝坊さんだね」


 声に反応して目を開けると目の前にはお姉さん先輩が立っていた。


 お姉さん先輩は空間移動の才能を持っている。


 家に入るなんて造作もないだろうが。


「不法侵入ですよ」


「この国で私を止められるのは、私より権限が上の人だけです」


 確かにそうだろうな。


 僕はベットから起き上がり、泣く泣く着替えに移る。


 お姉さん先輩が着ている制服と同じような物だ。違いはスカートかズボンかの違いだろうか。


 基本的に青の制服だが装飾として金と白が際立つ。


 二度寝しないようにお姉さん先輩が見張ってるのでそのまま着替える。


 僕が着替えようとすると、お姉さん先輩はスっと違う方に視線をやりチラチラと僕を見ていた。


 お姉さん先輩もピュア組らしい。


 僕が着替えを終えると早速。


「ご飯にしよ!」



 家を出てコンビニに向かう。


 昨日の僕……なんで食材を買って置かなかった。


 お姉さん先輩が料理すると言って冷蔵庫を開けたが何も置いてなかった。


 男なら誰もが羨むだろう美少女の手料理が食べれなかった。


 僕は激しく後悔した。



 コンビニで軽く買って来て、歩きながら食べる。


 僕はお姉さん先輩の雑用係に任命されたのか。


「なにするんですか?」


「なにしよっかなぁ」


 スカートがヒラッヒラッっと上下に揺れる。


 朝早くに起こされてこの仕打ち。


「なぁにしよっかなぁ」


 でもパンの袋と紙のジュースを片手に、何故か嬉しそうにスキップするお姉さん先輩は可愛く見えてしかたなかった。


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