第31話 お祭りデート

◇◇◇◇




 目の前の少年は俺が差し出したチケットを満面の笑みで受け取り、それを天に掲げる。


 そしてそのまま地面に倒れ込んだ、顔面から。


「おい大丈夫か!」


 少年を揺すって声をかけるが返信はない。


 俺はすぐさまレクリエーションを終わらせて少年を専属の医者に任せた。



 あの少年の才能は『共感覚ラビット』というノーマルスキルであるという事は既に情報として知っていた。


 だが空間を掌握するスキルはレアスキルなはずだ。


 あの少年は何をした?


 俺の中で疑問がフツフツと湧き上がる。


 そして俺の中で一つの答え合わせをする。


 レベル5のノーマルスキルの放界者。いや、俺が手も足も出なかったんだ。それ以上のレベルなのは間違いない。


 レベル6のレベルエラー? ノーマルスキルを極めるのか? どうやって? ありえない。


 俺は会場から控え室に場所を変えて、そのレベルエラーの事について、ずっと考えていた。


「へぇーい、えんさん! 何辛気臭い顔してんのぉ。渋い顔が更に渋くなってるよぉ」


 肩を叩かれて振り返ると俺を唆した女がニコニコと愛想を振り撒いてやってくる。


「さて炎さんから見てあの子はどうだった?」


 ウキウキと言葉を弾ませる女。


「ボコボコにされちまったよ。俺も名前を聞いた時に要注意人物だからと警戒したんだがな。お前はアイツの何処を気に入ったんだ?」


「炎さん負けたらチケットの承諾した二人が怒るよぉっと、あの子には才能の可能性を感じたの。不思議な感じ」


「不思議な感じ?」


「そう、私が現れて皆んなが勝てるか分からないって状況なのに、あの子が絡むと皆んな勝てるって本気で思ってるような目をするんだもん」


 そしてと女は続ける。



「本当に勝っちゃった」



「俺はお前よりもアイツを持ち上げたりしないが、空奏の魔術師がノーマルスキルに殺されるという未来がありえない話じゃなくなったな」


「持ち上げてんじゃん! で、どうするの?」


 あの才能は隠してもいつか表に出る日がくるだろう。


 この女はこうなる事が分かってて、俺と戦わせる舞台を整えたのか。


「俺があの少年の担当者だ。判断は俺に一任されてる」


「さっすが炎さん」


 ニコニコと待ってましたと言わんばかりに俺から言質を取って部屋を出ていく女。


 上の奴らが切り捨てた、未来に起こるノーマルスキルが空奏の魔術師を殺すという最悪の可能性が少しでもあれば、少年を殺せと言われるんだろうな。


 寝覚めが悪い。


 俺達を殺すような奴には見えないが、俺がアイツの担当者だからな。


 上の奴らには負けたのは盛り上げる為の演出だとシラを切るか。


 気が重くなる。



 バタンと扉が勢いよく開く。


 アイドルとモデルが鬼の形相で部屋に入ってきた。


「聞いてないよ炎さん! アイドルがデートなんて有り得ないから」


「そうよ! 空奏の魔術師が一般生徒に負けるってどういう事!」


 キンキン声を聞き流しながら俺はあの少年ともう一度戦いたいと考えていた。


 あののらりくらり掴み所がない女が気に入るはずだ。


 俺までその気になってる。


「デートぐらい減るもんじゃねぇし良いじゃねえか」



「「私達の貴重な時間が減るわ!」」



 可能性の裏側か。あれが全力じゃないだろうな。


 面白くなってきた。




◇◇◇◇




 目を開けると馴染み深い白い天井。


 何度目の保健室?


 僕の手に違和感があり、布団から手を抜きだす。


 チケットが力強く握られてあった。


 勝ち取った人気アイドルと人気モデルのデート券!


「そんなにその券が大事なの?」


 緑山さんが冷めた目で僕を見下ろしていた。


 僕はサッとポケットに券を隠す。


 この為に死に物狂いで戦ってたというのはちょっと恥ずかしい。


「そんなにデートしたいなら私としてみる?」



「お願いします」


 僕はベットから即座に立ち上がり、緑山さんの気が変わらない内にエスコートする。


 美少女とのデートの誘いを断る馬鹿な男はいない。


「そう言えば空奏の魔術師様との対戦ってどうなったの?」


「どれも白熱してて面白かったけど空奏の魔術師に傷を付けたのは青空君だけだね」


 僕もあんな奇跡みたいな事が起きなかったら一撃KOだったからな。


「パーティの最中に抜け出すの苦労したんだよ」


 僕そのパーティに呼ばれてない。


「抜け出そうとすると先生に注意されるからね」


 緑山さんはその先生達からの視線を掻い潜って僕の所まで来たのか。


 どうやって?


 僕みたいに認知されない才能でもあるのか。


「それよりも行こうか」


 僕は緑山さんの手を握り外に出る。



 学園内には屋台が並んでいる。


 一般にも解放されて少し祭りっぽくもある。


 近くで空奏の魔術師が見れるイベントがあったからだろうが、凄い賑わいだ。


「緑山さんは何が食べたい?」


「私は焼き鳥でいいよ」


 ほう緑山さんは僕が今食べたいと睨んでた所をピンポイントに指してきた。


「僕も食べたかったんだよね」


 焼き鳥を買い込んで緑山さんとベンチに座り、焼き鳥を一心不乱に食べる。


 これはデートと言うのだろうか? 六本目の串を取り上げた所でそう思う。


 緑山さんはずっと笑顔で僕を見てる。


 何が楽しいのか。


「食べてていいよ」


 僕の手が止まってたのを気にしてか声をかけてくる緑山さん。


「緑山さんは僕の食べてる姿見てて楽しいの? これデート?」


「私は貴方が隣に居るだけで凄く楽しいよ。私の中では青空君が楽しめてたらデートだよ」


 そういう物なのか。


 デートにも色々あるんだな。


 女の子は考えはよく分からん。


 僕は焼き鳥をまた食べ始めた。



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