第23話 先輩


「先輩行きますよ」


 黒川が先陣を切り先輩に向かう。


 僕の視界には結果を終えた二人の姿が映る。


 消えては現れ、消えては現れる先輩と黒川。


 黒のマントを翻し拳を振るう結果、先輩はそれを寸前の所で避けているようだ。


 常人離れしている戦闘に黒川の本気が見て取れる。


 黒川の攻撃。僕なら何度も戦闘不能になっている自信があるが、先輩は涼し気な顔で黒川と相対している。


 これがレアスキル同士の戦闘。


 僕がその戦闘に見惚れていると、ペタッと頬に何かが張り付く感触がする。


 手で触れるとパリンと弾け飛んだ。


「何すんだ! ボケが!」


 前にいた紫之宮が僕の方を見ながら怒鳴り散らす。


 僕は何が何だか分からずにハテナマークを浮かべる。


「チッ! お前にシールドを貼り付けてるから次は触れんなクソが!」


 舌打ちをしながら才能を教えてくれる紫之宮。


 『シールド』の才能は一度受けた攻撃を無効化する力だが、紫之宮のはシップのように貼るタイプのようだ。


 ペタペタとヒンヤリするシールドが僕の身体に貼られていくのが分かる。


 よく見ると半透明の青いシールのようだ。その青い色もすぐに消える。


 次は触れないように気をつける。


 黒川の戦闘では、パリンッ! と何重にも割れた音が響いてるから、紫之宮が先輩と黒川の戦闘に追いつき、黒川をサポートしてるんだろう。


 さすがだと思う。紫之宮は対抗戦に選ばれる程の実力者だ。



 白井さんは光る矢を出現させ幾度も射出する。


 黒川と先輩の戦闘の結果を追うしか出来ない僕は、白井さんの矢が先輩に届く前に消えてると錯覚してしまう。


 先輩は必中の矢を黒川との戦闘の中でも無力化しているという事だ。


 そんな神業が出来るものなのか? いや、出来ない。

 

 模擬戦争の対抗戦に学生だからって空奏の魔術師が出るとか反則だろ。



「はぁ、きっついな」


 黒川が肩で息をしながら僕の前に一瞬で戻ってきた。


 先輩は余裕なのか黒川と戦闘をしていた所でニコニコしている。


 汗を拭うと僕をチラリと見てきた黒川。


 そして目付きが変わる。



「君に追いつくには俺の壁を超えないとね」



 胸に軽く拳を当てて宣言する主人公。


 えっ? なにそれカッコイイ。


 僕を過大評価してる事は悪い気はしないので置いておくとして、僕はドヤ顔を崩さずにこの戦闘を見送ることにする。


 黒川のような物語の主人公が壁を超えると言ってるんだから、超えるんだろう。



 黒川の拳が黒い霧を纏う。


 スっと僕の前から消えた黒川は先輩との戦闘に戻ったようだ。


 残像のように黒川が通った所に黒い霧が残る。


 パリンと何重にもシールドが割れた音が響き渡る。


 その中でドスンと鈍い音が響いた。


「先輩、そこは僕の拳が置いてありますよ」


「へぇ、面白い才能だね。拳の攻撃を空間に置いてるんだ」

 

「先輩のような芸当は出来ないですよ。時間を先取りしただけです」


「見直したよ、一年生なのに君達本当に凄いね」


「先輩には悪いですが、俺達に倒されてくださいよ」


 黒川の猛攻に先輩が押され始めてるのが僕にも分かる。


 白井さんが放った矢が先輩に当たり鮮血が飛ぶ。


 矢を無力化するまでに意識が回らなくなってるんだろう。


 勝利ムードが僕の中で立ち込める。


 僕は腕を組んでドヤ顔を崩さない。


 あと一息だ。


 僕は戦闘を見守る。






 黒川の足が止まり、先輩の姿が現れる。


 シーンと静まり返った戦場で先輩は傷を負いながら「少し本気を出すね」と、呟いた。



 先輩の雰囲気が明らかに変わる。


 肌がピリついてこの場の空気まで緊張してるようだ。



 空間を支配する程の力がどれ程の力なのか僕はこの時思い知る。


 少し本気を出すと言った先輩。


 すぐさま黒川が戦闘を開始したが、先輩に届いたはずの黒川の猛追は既に昔の事のように置き去りにして、先輩の身体にかすりもしなくなった。


 白井さんの必中の矢すら空中をさまよい対象を見失ってるようだ。


 紫之宮が僕達を守る為に貼っているシールドも作られた瞬間に割られて弄ばれる。


 才能の次元が違う。


 まさに圧倒的だった。



 何も出来なかった僕は息を飲む。


 ゴクリと、唾が喉を通る間に全てが終わっていた。


 先輩は最初に僕達の前に現れた時のように笑顔で僕の前に立っている。


 最初と違う所と言えば、白井さん、黒川、紫之宮が倒れている事ぐらいだ。



「さてさて、足でまといは君だけのようだね」


 図星を言い当てる先輩。


 そう僕は今まで戦闘に参加してない。


 この対抗戦で僕以上のカモはいないだろうと断言できる。


 そして勝負しても負けが見えてる時点で僕の取るべき行動は一つしかない。


 負けを宣言する事だ。


 僕のクラスの奴らや、一生懸命に戦った白井さん、黒川、紫之宮には悪いが僕はここで終わりにする事にする。


 痛いのは嫌だからな。


 僕は深呼吸して。




「今なら負けましたって降参すれば見逃してやるよ。痛いのは嫌だろ? 先輩」



 ドヤ顔で言い放った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る