第22話 模擬戦争

◇◇◇◇



 今日は待ちに待った模擬戦争の対抗戦。


 体育館にクラスの代表メンバーが一年から三年まで勢揃いだ。代表メンバーに選ばれなかった生徒たちは教室のモニターで対抗戦の戦いを見守る。


 黒川と白井さん、緑山さん。そして何名かが、匿名で僕に推薦票を入れた事で、これで行くと当日にチーム発表が行われた。


 苦虫を噛み潰したような顔の先生から「お前も入ってるぞ」と言い渡され今に至る。


 そんなに嫌なら煙草の時みたいに無理矢理にでもチームを変えていれば良かったのにと、脳裏によぎったのは言うまでもない。


 特待生と空奏の魔術師候補生が、僕を推薦しているから手が出せなかったのか? まぁそんなところだろう。


 模擬戦争の対抗戦は一年生、二年生、三年生が入り乱れて行われる。


 AからDの四クラスある。そのクラスごとでチーム分けがなされる。


 簡単に言うと一年生から三年生のAクラスで、十二人のAチームを組みましょうということだ。



「一年Cクラス、前へ」


 僕は胸を張りながら同じCクラスの二年生の隣に向かう。


 三年生から呼ばれ、最後は一年生が呼ばれる。


 そして体育館のゲートの前に立つ。


 三年生と二年生はさすが先輩だ、風格が違う気がする。


 僕のクラスのチームを横目で見る。


 黒川と白井さん、あと紫之宮しのみや。そして僕。


 紫之宮も黒川と並ぶ程にイケメンだ。


 制服を着崩して目付きが鋭い。偏見だが不良という印象がある。さっき黒川に紫之宮の名前を聞いた。


 こんな不良クラスにいたんだとは思うが、僕は男には興味無い。


 制服の着崩しには少しの憧れがある。試しにブレザーの制服のボタンを開けて、前をオープンにしてみる。


 これで僕も不良デビュー。



 隣にいる紫之宮が僕の肩をグイッと押してくる。


「舐めてるとぶっ飛ばすぞ」


 怖!


 紫之宮は偏見じゃなく不良だった。


 僕は空けたボタンを閉め直して、開始の合図と共にゲートを潜った。




 ゲートを潜ると街を廃墟にしたような作りのマップが現れる。


 三年生や二年生はすぐさまポイントを取りにどこかに向かってしまった。クラスの評価を上げないといけないのはどこも一緒か。


 三年と二年と一年で、チームになったからといっても会話は一切なかった。


 僕がやる事は変わらない。いつもの様に生存報酬を貰おうとビルの影に向かう。


 そんな僕の手を掴み、行く手を阻む黒川。


「青空君行こうか」


 普通に嫌だ。


 黒川の手を振り解き。


「あぁ、そうだな」と、僕は明らかに敵意剥き出しで拳をパキパキと鳴らす。


 僕は三年生がどこかへ向かった道を辿って走る。



 さて、どこでコイツらを撒こうか。


 紫之宮も単独行動でグイグイ行くのかと思えば、僕の後ろを着いてくる。


 白井さんも黒川も、僕より先に行かずに後ろを着いてくるのだ。


 なんか見方によっては僕がこのチームのリーダーみたいだ。


 後ろから着いていく形の方がフェイドアウトしやすいが、まるで僕を逃がさないように敷かれている布陣のような気もしなくもない。


 自意識過剰になりすぎているな。


 足を引っ張るつもりは無いからチームワークは乱さないが、戦闘になればどさくさに紛れて簡単に逃げれるだろう。



「近くに敵がいます!」


 白井さんが急に声を上げる。


 僕達は一斉にその場に立ち止まり周囲を確認する。


 白井さんは心の声が読める才能の『心眼』があるから、その範囲内に誰かが入ったと推測出来る。しかも空奏の魔術師候補生の白井さんが意識していた人物となる。


 緊張感が跳ね上がる。ここで僕が呆気なく、なんの成果も上げられずに負けましたなんて日には、明日クラスに僕の席だけが物理的に無くなっていてもおかしくない。



「ねぇねぇ、ねるちゃんが居るってことは君達は一年生だよね? 可愛いなぁ」



 僕達の警戒を掻い潜り目の前に姿を現したのは、スタイルが良くて無邪気なオーラを放つ年上の綺麗なお姉さんの先輩。


 どこかで見た事がある気がする。


 軽快な足取りで僕達の周りをクルっと一周する。



「皆さん! ここは私が受け持つので逃げてください!」


 お姉さんと僕達の間に入る白井さん。


 弓を構え、既に光の矢は装填されている。


 やれやれと首を振る先輩。


「練ちゃん、空奏の魔術師候補生が足でまといの子達を庇いながら、現役の空奏の魔術師に勝てると思ってるの?」


 現役の空奏の魔術師?


 だから僕が見たことあるのか。


「逃げる時間は稼いでみせます」


 ニヤッと先輩は笑いながら身体を仰け反って後方に一回転する。


 パリンと何かが弾けた音が耳に残る。


 黒のレースとはさすが先輩! ありがとうございます。


 僕は心のキャンバスにワンシーンを保存しながらスカートなのにそんな奇行に走った先輩を見届ける。


 先輩が居た場所に黒川の拳が置かれていた。


 黒川は紫之宮に目線を飛ばしながら。


「紫之宮君ありがとう、助かった」


 紫之宮も何かしたらしいが黒川も臨戦態勢みたいだ。


「足でまといは訂正。なかなか今回の一年生は見所があるね」


 先輩は褒め言葉を投げかける。


 褒められた事で僕は何もしてないが一応ドヤ顔は決めておく。


「私の才能は公開情報だから知ってると思うけど、レアスキルの『空間移動』だよ。空間を支配する才能でテレポートよりも厄介だから気をつけるように」


 先輩は忠告しながら僕を指差してウィンクしてくる。


 可愛い。



 なんか逃げれる雰囲気でもなくなってしまった。



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