第21話 妹様
◇◇◇◇
「おいおい随分と帰りが遅いじゃないか」
マンションの家に帰れば、中学のセーラー服にエプロン姿の妹様が仁王立ちで僕を迎え入れる。
苛立ちを含んだ声音に聞こえるのは気のせいだと信じたい。
僕はスっとカバンを持ち上げる。
キョトンとした妹様は差し出された僕のカバンを手に取ると高々と持ち上げた。
僕は靴を脱ぎ、妹様を横目に部屋の中へ入る。
リビングに差し掛かるドアを開けてる最中にお呼びがかかる。
「もしかしてプレゼント!」
僕は振り返りニッコリと微笑みながらリビングに入る。
そんなもの鼻から用意してない。
カバンの中を確認し終えたのか妹様は足早にリビングに入ってくる。
豪華な手料理を前に僕はあぐらをかいて座る。
「そんな気はした」
一言妹様は呟いて、ムスッとしたまま僕の隣に座った。
「学校どう? また一人でお昼ごはん食べてるの?」
妹様は誕生日なのにテキパキと僕の皿に料理を盛り付けていく。
最近は赤星さんや黒川がちょこちょことやってくる。
ぼっち飯は卒業したと告げると「ホントに!」と、ムスッとした機嫌を突破らって嬉しそうにニコニコと笑顔を振りまいてくる。
交わす言葉も跳ねているようだ。
「どこか隠れスポットを見つけて、また鍋とかしてるんじゃないかって不安だったの。高校ではそんな奇行からは卒業したんだね」
僕は妹様から視線を逸らす。
「え? もしかしてまだしてるの?」
僕は食べたい時に食べたい物を食べてるだけだ。
可哀想な者を見る目はやめてくれ。
僕の最近はリア充要素が強い。
「最近のお兄ちゃんは登校デートや放課後デートをした」
僕が自慢話を口にすると妹様はふーんと相槌を打ちながら料理を食べ始めた。
信じてないな。
僕も妹様が盛り付けた皿に箸を運ぶ。
「で?」
ん? 僕が唐揚げを口にした所で妹様が一言呟く。
「で?」
口いっぱいに含んでいた唐揚げを消化する前に追い打ちとばかりに妹様は僕の言葉を急かす。
「で?」
ごくんと唐揚げを消化して妹様の待ってる言葉を言う。
「最近新しい技を練習中だ!」
妹様はもっと僕の自慢話を聞きたいんだろう。
「そんなどうでもいい事じゃなくて、誰とデートしたのかを聞きたいんだけど」
どうでもいい事なのか。
「白井さんと赤星さんかな」
僕はしょんぼりとしながら僕とデートをしてくれた人の名前を口にする。
「その人達は
妹様は天真爛漫で誰からも好かれる才能がある。僕と違って沢山の人に囲まれて育って来た。
おばあちゃんの溺愛っぷりも異常な程だ。
そして容姿も良く、頭もいい。
中学の時は僕の同級生からも告白されていたぐらいだ。
「贔屓目で見てもお前より赤星さんと白井さんの方が可愛い」
だが僕は妹様だからと言って容赦しない男だ。
「そっか、料理美味しい?」
「美味い!」
「そっか」
僕は料理をパクパクと頬張っていく、皿が開きそうになるとすかさず妹様は料理をよそってくれる。
デザートのケーキまで頬張り満腹だと腹を撫でる。
「じゃ、もう帰るね」
送っていこうかと僕も腰を上げる。玄関でおばあちゃんが迎えに来るから大丈夫だと言ってきた。
僕は妹様をエレベーターまで見送る。柵から下を見るとおばあちゃんの車が僕のマンションの前に止まっていた。
妹様の心配はしなくていいなと、僕は家に入る。
早く寝よ。
欠伸をしながら寝室に入り、布団に潜り込んだ。
◇◇◇◇
マンションをエレベーターで降りると、玄関口に一台の車が止まっている。
「料理もできて、可愛くて、そしてお兄ちゃん大好きなのに、私に全然振り向いてくれない。もう少し頑張ろっかな」
車のドアが開くとおばあちゃんが私を迎えてくれる。
お兄ちゃんの部屋を睨みつけて舌打ちすると、私に笑顔を向けてくるおばあちゃん。
本当にお兄ちゃんが嫌いなんだろう。
お兄ちゃんはおばあちゃんが好きなようだけど、ここまで好意がこじれてる親族関係も稀だと思う。
「陽華! アイツに何かされたら私に言うんだよ! 直ぐに処分するからね」
私はおばあちゃんを宥めながら車に入る。
私が一人部屋が欲しくて、お兄ちゃんをおじいちゃんの部屋にと言ったら、お兄ちゃんが出て行くなんて考えもしなかった。
私の馬鹿だ。
あの時のお兄ちゃんを思い出す。
「え? 一人暮らし? やったぜ!」
やったぜ! って何よ、私と離れられて良かったの?
阻止しようとしたけどいつもは噛み合わないおばあちゃんとお兄ちゃんの意見が合致したのか、直ぐに引越しまでの運びになった。
もしお兄ちゃんのデート話が真実だったら、お兄ちゃんの魅力に気づいた人が二人もいるのかな。
嬉しいような悲しいようなだよ全く。
「でも負けない」
私は新たな決意を固めた。
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