第20話 不審者


 夜になって僕は考える。


 何故誰も起こしてくれないのか。



 保健室の先生も僕の存在に気づかなかったのか。僕の能力じゃない『インビジブルボディ』は、これはこれで才能と呼べるんじゃないか?


 夕方から使われてない教室などは自動的にロックがかかるようになっている。


 僕が使っている場合は使われてないのカテゴリに加わるらしい。


 認証のパスカードが無いと内側から鍵も開けれない。


 いや、そんなわけない。


 僕はベットから出ると、椅子に置かれている鞄を持つ。そして保健室を出るために扉の近くに行き、扉に手をかける。


 スっと扉が開いた。


 僕が廊下に出ると自動的に扉は閉まりカチャンと音がする。


 鍵がかけられた。


 その瞬間にピコンと携帯の音が鳴る。


 マナーモードにしなくても音が鳴ることが無い携帯に驚いて、鞄をあさる。


 デカデカとしたディスプレイに表示されるのは『今どこ?』の文字と、妹からの通知。


 普段来ないはずの通知に日付や時間を何度も確認する。


 何だ?


『誕生日なのだ〜! サプライズしたいのは分かるけど、ケーキとかプレゼントとかいいから早く帰ってきて。料理は私が準備してます』


 そんな物鼻から用意してないが、妹様は帰りが遅い僕の事を兄なりに、プレゼントを探し回っていると当たりを付けているらしい。


 誕生日を忘れていたなんて妹様の笑顔が曇る様な事は言えないが、僕は早く帰らねばならない。


 足早に下駄箱に向かう。



 僕は靴を履き替えて、学生証を翳して玄関を開ける。


 扉が閉まってる場合は学生証をかざせばだいたい開くが、保健室などは学生証より上の権限が必要になる。


 こうやってコソコソと学校を出るイベントを懐かしく感じる。



 懐かしい? 僕は変な違和感を持つ。


 学校に取り残された事や、学校からコソコソと出るイベントは初めてなのに。


 遠い昔にやった事ある様な違和感。


 僕は悪夢を見てから少しおかしい。


 何かを思い出さないといけないのに、ポッカリと言い様のない感情が抜け落ちた感覚。


 そんな事を気にしてもしょうがないので学校の塀をよじ登る。



「おい、そこで何してる!」


 塀を降り切った所で右の方から怒鳴り声がする。


 僕は声を出した人を確認をする前に、声がした方向とは逆側に逃げる。



 保健室に取り残されて今帰る途中でと、説明したら良かった事だが条件反射で逃げてしまった。


 後悔しながら追ってくる誰かを振り切るのに必死だ。


 逃げた事は仕方ないが、捕まったら時間がかかる気がする。


「今から十秒以内に止まらなければ才能を行使する」

 

 僕はその言葉にピタリと止まる。



 僕に追いついた人物は薄暗い影から姿を現す。


 青の制服で分かっていたが警察官だ。


「なんだ学生か。何で塀から降りてるんだ?」


「校門が閉まってて……」


 僕は訳を説明して逃げた事を謝罪した。



 説明したら時間がかかるということもなく、警察官は夜も遅いということで親切に僕を送ってくれるらしい。


 僕の肩に腕を組んで、相当フレンドリーに接してくる。


 馴れ馴れしい。


「君はアブノーマルについて何か知ってる?」


 歩きながら警察官が話しかけて来る。何かの注意喚起か?


 僕は危険な存在だとそのまま答える。


「もし赤ちゃんじゃなく、目の前の人がアブノーマルに反転したら君はどうする?」


 もちろん空奏の魔術師に報告する。


 そうかそうかという警察官に、僕は家が近くなったのでもういいと断りを入れた。


 妹様が待ってるからさっさと帰らねばならない!


 僕はお別れを言って足早にその場を離れた。




◇◇◇◇




 青年を見送った警察官は目の前の空中を指でなぞる。そのなぞった空間にモニターが現れた。


 モニターに左手で持った小さな箱型の機械を見せつける。


「目標と接触。アブノーマルの反応は無し」


『空奏の魔術師様には悪いですが、追って調査をお願いします』


 警察官は服を乱雑に脱ぎ捨てると服は消滅して、白と金の装飾が施された制服が暗闇に映える。



「本当に俺は殺されるのか? あの子供に」



『はい。未来予知のレアスキル持ちからの確かな情報です。ノーマルスキルが空奏の魔術師を殺します』


 空奏の魔術師は腕を組んで目を瞑る。


『ノーマルスキルの誰かがアブノーマルに反転すると予知がありました。そこに当てはめると、才能がアブノーマルになったから空奏の魔術師を殺すことが可能になると推測されました』


「だがそれは間違えだったと覆ったはずだが?」


 空奏の魔術師は悪態をつきながらモニターを睨みつける。


『可能性の話です。今は予知が出来ない状態に陥ってますが、ほんの一瞬だけ感知された未来では、それが現実に起きた可能性があります』


「その一瞬でここまで慎重になる事かね。ノーマルスキルの状態で空奏の魔術師を倒したなんて事はありえないか? そしたら他の奴がアブノーマルに反転した事になるんだがな」



『そんな可能性はありえません』



 空奏の魔術師言う可能性をばっさりと切り捨てて、モニター越しの人物は強く言い切る。


 プツンとモニターが切れて、暗闇で空奏の魔術師は次の任務の準備の為に移動する。


 空奏の魔術師もノーマルスキルに負けるなんて鼻から思ってはいないが、もしそんな可能性があるなら見て見たかったなと思った。


 手のひらを見つめボッと小さな炎を纏わせる。



「まぁそうだよな。ありえねぇか」



 手を振るうと炎は声と共に空に溶けた。


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