第19話 夢
僕は待ちに待ったお昼休みに何も持たず颯爽と教室を出ていく。
僕を追えるものは誰もいない。
いや、追うものもいない。
白井さんに推薦された事で変な注目度を持ってしまった僕には誰も話しかけてこない。
推薦。よくよく考えてみれば期待なんかされたこと無かった。
まぁ誰も話しかけてこないのはいつも通りだがな!
普段来ない屋上。
お昼は人気スポットだが、今日は少しだけ雨がポツポツと降っている。
昼休み直後に飛び出したからか辺りを見渡しても誰もいない。
僕は深呼吸を繰り返してイメージする。
それは授業中にみた悪夢の再現。
僕のノーマルスキルを超えた先にある物。
『
見てる世界を塗り潰す程の情報を一気に共有する。
目まぐるしく変わる世界。
夢の僕がやってたのはこんなもんじゃない。
けど。
「きぼちばるい」
僕はとてつもない吐き気と共に意識が暗闇に溶けた。
目を開けると白い天井が見える。
そしてフワフワの布団の中だった。
昨日全然眠れてない僕は保健室だろうと当たりを付けてもう一眠りしておくことにする。
瞼を閉じると慌ただしくガラガラと保健室の扉が開いた音がした。
僕は音がした方向を見ると遮られていたカーテンがガシャンと乱暴に開けられた。
「日影君、大丈夫なの!」
緑山さんが血相を変えて僕に声をかけてくる。
そして僕の全身の至る所をペタペタと触って怪我はない? と、何度も聞いてきた。
緑山さんは僕が倒れて保健室に運ばれたと聞いて教室を飛び出して来たらしい。
なんという行動力だ。
僕は大丈夫と何度も言っておいた。
緑山さんは安心したのかベッドの横にある椅子に座る。
「私のせいだ」
唐突に肩を落として泣きそうな目で僕を見てくる緑山さん。
「日影君、教室で夢を見たでしょ? どういう夢を見たの?」
「新技の夢」
緑山さんは大きく目を見開く。そして「いや、そんなはずない」と口ずさむと、「もしかしてリザルト?」と、恐る恐るといった風に僕に尋ねてきた。
何それ?
「僕の新技の名前は『
少しだけ安心したのか、ふぅと緑山さんは息を吐く。
「日影君、私から一つお願いがあります」
緑山さんは僕の新技の名前を聞いて頭を下げる。
「もうその技はもう使わないでください」
顔を上げた緑山さんは僕の返事を待たずに椅子から立ち上がる。
「私は教室に帰るから」
カーテンを閉めて、緑山さんが見えなくなった。少ししてからガラガラと扉の開閉する音がする。
緑山さんは保健室を出ていったみたいだ。
無意識に倒れる程に危険な技。
僕も馬鹿じゃなく学習はする方だと思うし、緑山さんに言われなくてもそう易々と使えない。
目を閉じて、僕は一人になった保健室で呟く。
『
ポカンと頭を軽く叩かれる。
目を開けると緑山さんがいた。
この僕が気づけなかっただと!
「ひ〜か〜げ〜く〜ん〜」
ニコニコしながら怒りマークが付きそうに眉をピクピクさせた緑山さん。
そんな事より僕の行動が読まれていただと!
僕は緑山さんを横目にベッドに寝転がり顔に布団を掛けた。
家で続きしよ。
「ダメだからね」
念を押されてしまった。
僕はそこまで信用がないのか。
「日影君を信用して言ってますからね」
ドアの音がしてチラッと布団から覗くと緑山さんはおらず、横にある椅子に僕の鞄が置かれてあった。
もしも僕が夢の中のような力を手に入れたら憧れの空奏の魔術師のレベルにだって届く可能性がある。
現に夢の中の僕は空奏の魔術師達を圧倒してたしね。
凄く殺伐としていたけれども。
昨日から寝てなかったからか、急に眠気が襲う。
僕は考えるのをやめて眠りについた。
今度は楽しい夢を見せてください。
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