第13話 対抗戦
◇◇◇◇
模擬戦争の対抗戦が一週間後にあるそうだ。
僕は昔からこの手の行事に参加したことがない。
影が薄くなる才能『インビジブルボディ』を、代表には選ばないだろう。
帰りのホームルーム、僕は帰りの支度を整える。
クラス委員になった黒川が皆んなから推薦を聞いていた。
代表候補には黒川と白井さんの名前が大きいスクリーンに入力されている。
なんで僕の名前がないんだ? 白井さんに勝った男だぞ。
不満をあらわにして僕は意気揚々と手を挙げる。
「帰っていいですか!」
選ばれるか、選ばれないか期待してる周りの連中には悪いが。
僕はもうそういうのは小学校で卒業したんだ。
最初から選ばれる事がない人間はいくらソワソワしてたって無駄なことを知っている。
代表候補は四人。
このクラスにレアスキル持ちもいるだろ。
僕には関係ない行事に時間を割くだけ無駄だ。
中学生の時には『えっ? お前いたの?』とクラスメイトに言われ、教師も『帰っていいぞ』の雰囲気を出していた。
いつものことだから涙も出ない。
「私は青空君を推します!」
緑山さんがすかさず手を挙げて、僕を推薦した。
緑山さんが推してくれるなら頑張れる気がする。
「帰ります」
僕はお辞儀して教室からそそくさと出ていった。
廊下に出ると。
『私は反対! 黒川君と白井さんは分かるけど』
『俺も反対だ! あんな奴が……』
反対の声が廊下まで聞こえる。
緑山さんには悪いけど、僕は人気者でもなんでもない。
僕が白井さんに勝ったのは、ただ運が良かっただけだと思っている奴が大半だろう。
僕は運には自信があるんだ
対抗戦で勝てばクラスの評価が上がる。
まだ誰一人として退学者が出てないクラスは、この僕たちのクラスだけだ。
クラスの評価は今、うなぎ登りに上がっている筈なのに、対抗戦で負けましたという最悪な事態にはなりたくないんだろ。
優秀な生徒たちが集まっているクラスから、ただ運が良かっただけのクラスに成り下がるからな。
教師も対抗戦まで様子を見てる感じだし。
負ければまた抜き打ちテストやタバコ事件と同じような事をしてくると思う。
それは薄々と皆んなが感じ取ってる事は分かるし、僕なんかが対抗戦に出ても大したことは出来ない。
僕は主人公ではない。
才能は使い方だ。
僕は他人の才能を使える。なんだそれ。
ずっと持ち続けた才能と、共有した才能。どちらの才能の方が強い?
他人の才能を共有するまで極めた力が、僕に思い知らせてくる。主人公に憧れただけの力だと。
初見殺しでしかない。
「なにトボトボ帰ってんの」
ポンっと僕の肩が叩かれた。
振り向くと清楚ギャルの赤星さんだ。
「暇なら私と一緒に遊ばない?」
僕の片腕に腕を組んで笑顔を振り撒く彼女。
片腕に胸の柔らかな感触が伝わってくる。
ど、ど、ど、動揺なんかしない。
女の子と遊ぶとかそんな誘いにピュアな僕が乗るわけないだろ。
「どこに行きましょうか赤星さん」
僕はキリッと体裁を整えて赤星さんをエスコートする。
「まずはそうだな〜。うん、カラオケに行こう!」
赤星さんと遊ぶというよりこれはデートだ。
こんな美少女が僕とデート。
彼女は友達と思ってるだけだ! 勘違いするなよ僕!
「じゃ日影君も賛成という事で、楽しいデートにしようね」
「へ?」
僕は間抜けな声を出してしまったが、赤星さんは気にもとめずに僕を引き連れて歩き出した。
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