第14話 ピュア


 流行りの音楽に疎い僕でも赤星さんの歌う姿は綺麗に映る。


 ノリのいい音楽につられて身体が揺れる。


 そして赤星さんのスカートも揺れる。


 くっ! 見えそう。


「ほら、日影君も歌いなよ」


 赤星さんから話しかけられて目線を切る。


 スカートの中を覗こうとしていたのがバレたか?


「私の歌よりもスカート見る方がたのしいの?」


 バレてた。


 そして悪戯に微笑みながらスカートを両手でヒラヒラする赤星さん。


 それも飽きたのかカラオケボックスのソファーにもたれ掛かる。


「ねぇ、日影君は緑山さんと仲良いの?」


 真剣味を帯びた赤星さんの声。


 仲良いと言うか。


 学校でもそんなに話したことはないし、緑山さんは僕の前の席でそのくらいしか接点ないんだよな。


「私の日影君の第一印象は気に食わない奴だった」


 面と向かって対立宣言こわい。


「抜き打ちテスト覚えてるでしょ。一生懸命勉強したのに急に目の前に答えが出てくるんだもん。スキルキャンセラーが掛かってる教室でそんな芸当する人には驚いたし、同時に憤りすら感じた」


 人気者気取りだった僕は真面目に勉強していた人達の努力を踏みにじったのか。


「でもね、タバコの持ち物検査。カバンの中に入っていたのを見つけた時に退学を覚悟したの。こうやってノーマルスキル所持者は落とされるんだなって、何も出来ない自分に泣きそうになった。その時に声が聞こえたの『助かりたい奴は手を上げろ!』って」


 胸に手を当てて「今でも覚えてる」と、赤星さんは続ける。


「抜き打ちテストとは訳が違う。努力ではどうにもならない事があるのよ。でも本当に助かる可能性があるなんて思ってなかった。あの日から日影君にずっと言いたかった事があるの」


 告白か!


 僕はキリッと真面目な顔を整える。



「助けてくれてありがとう」



 瞳に薄らと涙を滲ませる赤星さん。


「ありがとう」と、何度も口にする赤星さんを見ていて。


 僕はそんなに大それた人間じゃないと思ってしまう。


 あの時だって僕は自分の事で精一杯だった。


 緑山さんに唆されなければ誰も助けようとはしなかっただろう。


 でも少しは自分に甘えてもいいだろう。


 これだけ美少女から感謝されてるんだ、少し調子に乗ったって誰にも文句は言われない。


 僕は本当に僕に甘いヤツだな。


 だから涙を晴らすぐらいはやらないと男が廃る。



「じゃあ、その身体で感謝を示してもらおうか」



 出来る限りキザっぽく。


 赤星さんは僕の滑稽な姿を見てフッと笑いを零す。


「なにそれ、じゃあお望み通り身体で感謝を示そうかな」


 えっ! マジですか。


 赤星さんが身を乗り出して近づいてくる。


 甘い香りとブレザーの間のシャツからチラッと見える谷間がピュアな僕には刺激が!


 咄嗟な事に目を瞑る。




 頬に柔らかな感触。


 目を開けて頬の余韻に手を添える。


 赤星さんを見ると耳まで真っ赤に染め上げて僕を見ていた。



「ファーストキスは結婚式の時にしかしちゃダメだから、まだあげられないかな」



 結論。清楚ギャルの赤星さんは僕以上のピュアだった。


 こんな娘になに期待してたんだと罪悪感を感じるレベルじゃねぇか!


 その後は二人ともぎこちない中、カラオケのCMみたいな奴を楽しんだのだった。


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