第12話 過去視


◇◇◇◇



 病院の一室。


 私は止まらない涙を拭う。


「助けて欲しくなった」


 貴方がいないことが、この世の絶望になるなら。


「会いたくなかった」


 私に希望をくれた貴方はもういない。



 私以外に貴方を本当に知る人物は現れない。


 どうせ『バレなかったらいいだろ』って、貴方は笑うんでしょうけど。


 私は貴方が隣で笑ってくれるだけで、良かったのに。


 空奏の魔術師に憧れて、世界に反逆した、ノーマルスキルの放界者。


 たった一人の戦争の犠牲者。



 今でも思い出す。


 私を抱えて、世界を飛び回ったことを。


 世界各地の空奏の魔術師が私の才能を狙う中でも、貴方は一人で立ち向かって。


『僕も世界を旅してみたかったから丁度良かった』


 そんな理由で世界を敵に回す人でしたね。


 貴方が倒れそうになる度に私は泣いてしまって、その度に無理をして。


 最後には私を救って。


 これも貴方が悪いんですからね。



開発限解放スキルアジャスト



 才能のレベルを一気に上げると、全身から黒い霧のような物が溢れてくる。


 私の才能はノーマルスキル『過去視』、過去の起きたことを予知する力。


 そのままでは何の意味も持たない。


 貴方がいなければ私が狙われる事も無かった。


 きっと貴方がいなければ、この才能をレベル5の放界に至るまで極める事もなかったのでしょうからね。



 今から大切な貴方の人生を壊してあげます。


 ノーマルスキルからアブノーマルスキルに転換したことで、私は強大な力を手に入れた。


 未来に起こった全ての可能性を放棄する力。


 アブノーマルスキル『瞬間忘却グリード』、過去の自分に記憶を送る才能。


 私が空奏の魔術師に狙われることになった原因。貴方がいれば、この才能は使わなくて良かったんですよ?



 私が見た全て、私が感じた全てを、過去の私に託します。


 奪われた者を取り返す為に、私は才能を使う。


 影が薄くなる程の存在感な私が、こんなに大きな才能を使っても、誰も気づかれないのでしょうね。


 そう言えば、アブノーマルの才能を使うことは、貴方に禁止されていましたね。


 貴方は怒るでしょうか。


 どうか怒ってください。


 明日には、私の隣で貴方が笑ってくれる世界になるように願いを込めて。


 どうせ、過去の彼には。



「バレませんしね」






 目を開けると、私の頬に涙が伝う。


 私は全てを思い出して、すぐさま志望校を変えた。


 あの人の人生の岐路に立ち会う為に。




 未来の記憶がある私が高校に入るのは簡単だった。


 あとはいつ彼が現れるのか。


 彼がもし、見栄を張って私に違う高校を教えていたらと思ったけど、入学式に彼の顔を見て、その不安は消えた。


 この高校は空奏の魔術師候補生を沢山出している有名校だからね。


 そして彼が通学路に現れた。


 彼が懐かしむように言っていた通学路。


 彼はいつもとは違う道に切り返した所に大声を出す。


「待って!」


 その瞬間に細い路地の向こうから、けたたましい音と何かがぶつかっただろう破裂音が響いた。


 私は目をつむり、彼の手を掴む。


 絶対に離さない。



「離して貰えますか?」


「貴方怪我してない?」


 私は彼の声を聞いて安心すると、何処にも傷が無いか念入りに調べる。


「あっ! 大丈夫です」


 これで未来は変えられたのかな。


「ごめん、この時代だとまだ会ってないんだった。馴れ馴れしかったよね」


 未来の想いがあるからか手を離したくはないけど、今の私は彼に会うのが初めてで照れてしまう。顔、真っ赤になってないかな。


 彼が私を知らない事はしょうがない。彼の未来をめちゃくちゃにする計画を進めなければならない。



「私、え~と青じゃなくて緑山日向みどりやまひなた。私は未来から貴方の学園生活をエンジョイさせるために来たの! 来たのは語弊で、未来から過去の自分に記憶を飛ばしたって言えば分かるかな」



 戸惑う貴方は、私の知る貴方で。


 また会えたんだと実感する。



「よろしくね。青空日影あおぞらひかげ君」



 学校に日影君を連れて行くまでは出来たけど。


 ずっと喋れなかった。


 話したい事は沢山ある。やっと会えたんだから。


 でも私は既に限界で、想いが込み上がってくる。


 変な子と思われないように手を離し、日影君を置いて下駄箱へと早足に向かった。


 日影君に泣いてる顔なんか見せられないです。


 貴方のやりたかった事は、今から私が叶えさせてあげるからね。


 事故で入院して退学させられたって言ってたもんね。



 私は今でも。


「貴方の事が大好きです」


 いや、これからも。

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