第11話 アルテミス
白井と僕はグランドで向かい合う。
白井が乗り気だったせいか、スムーズに決闘の舞台はととのえられた。
教師も止める気は無いようだ。
間違いは誰にでもあると思う。
昨日までの僕には、クラスメートの視線を存分に浴びながら空奏の魔術師候補生と向かい合う事になるとは、夢にも思ってないだろう。
自分から言い出しておいてなんですが……。
颯爽と『負けました』って言って帰れないかな?
それは出来ないじゃないか!
分かってる、男なら? ……そんなくだらないことじゃない。
意地というのは張りたい時に張るのがカッコイイ。ダサいことを考えるな! ここがカッコイイ自分の踏ん張りどころだ!
まず準備がてら情報の共有をさせて貰う。
僕は白井に握手を求める。
黒川みたいに爽やかに。
「全力でやろう」
そんな気はサラサラないが、これなら握手も自然と出来る。
白井の才能を奪う。
「へぇー、お前他人の力が奪えるのか」
なんで分かった!?
僕は驚きを隠し、握手をしようと差し出した手を引っ込める。
教師すら知りえない僕の能力。
「そんな驚くことないだろ。他人が考えてる事を見る能力『心眼』は、候補生のプロフィールとして開示してたはずなんだけどな」
有名人気取りか!
まぁ、僕でも顔は知ってるぐらいだから有名人か。
白井の能力『心眼』は、かなり厄介だな。
僕の能力『
「空奏の魔術師候補生の俺は、才能を複数持ってるんだよ」
白井が右手を振ると、そこには光る矢が一本現れる。
そして左手を振ると、白く輝く神秘的な弓が現れる。
心眼は覚えていなかったが、必中の矢とそれを放つ弓を出す才能は覚えている。
『アルテミス』
「さすがに君でも俺の才能の名前ぐらい知ってるか」
確かにこんな凄いレアスキルが無いと、高校生で空奏の魔術師候補生にはなれないか。
とんだ化物にケンカを売ったもんだ。
作戦は全てバレるし、攻撃は必ず当たる。
ノーマルスキルじゃ勝てるわけがなかったんだ。
白井は弓を構える。
僕は目を瞑る。
痛みに耐えれるように。
◇◇◇◇
視界がグラつく。
周りが一気に加速する。
目の前には俺に逆らった気に食わない奴がいる事には違いないが。
見てる世界が二重にブレる。森とグラウンド、誰の視界を共有されてるんだ!
弓を放てば必中。
こんな目くらまし関係ない。
目を瞑り、俺は弦を離した。
狙いは外れてない筈だ。
俺は肩を叩かれた。
もう終わったようだな。と目を開ける。
すると弓を構えた、気に食わない奴が立っていた。
「この才能はいいね」
アルテミスは矢の光の量で殺傷力が変わる。
俺の能力だから分かる。
気に食わない奴のアルテミスは絶大なる光を矢に宿していた。
認めるか! こんな負け方、俺が認めるわけないだろ。
どうせ打つ気なんてないだろ?
コイツの考えを読む。
『やべ〜手が痺れてきた。もう手を離してもいいよね?』
良くないよ!
「降参します、早く才能を消してください!」
「本当か? 僕がいる内は他の誰にも手を出さないって約束できる?」
心を読む。
『限界来そう!』
「しますします。約束しますので早く!」
気に食わない奴は弓と矢を消す。
一安心して俺は冷や汗を流しながら負けたんだと自覚する。
「俺の矢は当たったはずだ。なんでそんな平然としてる!」
「少しカスって痛かったけど、ちゃんと君の矢は僕の袖に命中したよ?」
ほらっと右腕を掲げると袖が少し破れ、血が滲んでいた。
そんな所狙ってな……視界がブレた時にわざと視点をズラした? そんな芸当。
まさか、いや。私よりレベルが上? じゃあレベル4の解放者?
ノーマルスキルの解放者なんて知らない。
どうやってノーマルスキルを極めるのか検討もつかない。
そう言えばスキルを奪う能力なんて、ノーマルカテゴライズの『
いや、可能性はあるのかな。
「白井はなんで笑ってるの?」
考えに浸ってると、気に食わない奴が私に声をかけてきた。
笑ってる? 才能にこんなにワクワクして可能性を感じたのはいつぶりでしょうか。
私がアルテミスの弓を顕現させた時は才能を伸ばすのが面白くて、可能性を感じてましたね。
私はいつの間に、この感覚を忘れてたんでしょう。
「貴方の名前は?」
「へ?」
「だから名前ですよ」
「青空日影です」
青空日影。
私に敗北と、可能性を教えた男の名前。
覚えて胸に刻む。
「空奏の魔術師候補生として、次は負けないですからね」
非公式な試合で私の知名度には傷はつかない。
今日から日影様に勝てるように、サボってた才能を伸ばす練習をすることにします。
そして強がってた私は、私らしく上を目指す事にしました。
◇◇◇◇
僕は白井との決闘も終わり人気度はうなぎのぼりだ!
そのはずだが誰も僕に声をかけてこない。
コイツらの感覚ズレてんの?
え? 僕は空奏の魔術師候補生に勝ったんだよ?
隣で談笑してる奴! 駅前に新しく出来た店の話なんかいいから僕の話しろよ!
欠伸をしながら僕はいつも通りの日常を満喫する。
ガラガラと教室の扉が開く。
優雅な雰囲気を纏わせて、制服も気崩しが一切無く、歩く姿だけでお嬢様と分かる、サラサラの銀髪を腰まで伸ばしてる女の子。
スカートから覗く脚線美……良い!
また転校生かよ。
このクラス転校生の頻度高いな。
突然の美少女に皆んなの目が止まる。
教壇に立つと、まだ教師も来てないのに自己紹介を始めた。
『私は
そんな事より気になる事がある。
「あぁ、日影様すみません。
白井? 白井さん? 白井さんは、この姿が本当の私ですと付け加える。
「日影様のあんなに強気なプロポーズは忘れません。もう他の誰にも手は出せないので、これから色々なことを私に教えてくださいね」
解釈の違いが凄い。
僕は知らない間に美少女にプロポーズしていたようだ。
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